食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

若くして成功したシェフ。成功の方程式


下積みからしっかりとステップを踏んでいくこと。
基礎を積み上げていくその過程が、成功へとつながります。

フランスにある標高2300メートルのスキーリゾート地ヴァル・トランス村。この地に弱冠22歳で「レストラン ジャン・シュルピス」をオープンさせ、26歳で一ツ星、31歳で二ツ星を獲得したジャン・シュルピスさん。この注目の若手シェフは、いかにして成功を手中にしたのか? その秘訣や料理哲学などを聞いた。

標高2300メートルのアルプスの雪景色。そこで僕の料理は、花開きます。

――アルプスの静謐な風土とともにあるのが、ジャンさんの料理の世界。

はい。僕の料理には、アルプスで生まれ育ったことが影響しています。その自然と風土が僕の核になっています。僕の根底にあるものは、自然を愛する気持ちです。その心を込めて、自分が育った環境をお皿の上で表現する。これが僕の、料理に対する考え方です。現在も、さらにこれからも、この考えにそって、好きな道を進んでいきます。

――自然と風土が、ジャンさんの料理を形作るキーワード。それが、ハーブや野草を活かした、自然の息吹を感じさせる料理へとつながることになるのですね。

その通りです。16歳で料理人を志しましたが、この世界へ入るのに「若すぎる」ことはありません。料理人は場数を踏み、さまざまなことを経験していかなければ上を目指すことはできません。料理の世界は厳しいとわかっていましたが、料理に魅せられ、そこに情熱を注ごう、と強く思いましたね。

高い山ほど制覇したときの達成感は大きい。
料理の世界も同じこと。志は高く掲げたい。

師マーク・ヴェイラさんのもとで4 年間片腕として働く。その当時のソムリエが妻。2 人の子どもがいる現在、ヴァル・トランスで保育園の食事も手掛けている。

――料理人になろう、と思ったきっかけは?

15歳の時に地元のレストランで研修を受けるチャンスに恵まれました。この時、心が躍ったと言いましょうか、閃くものがあったんです。もともと手を使う職業に就きたいと思っていましたから、「料理だ!」と確信しましたね。食材に手を触れ、香りをかいだりしながら、創造力を働かせ、お皿の上で自らの世界を表現する。それが料理の世界。とてもクリエイティブな職業なんです。

――早くから、自らの歩む道を確信できる人はなかなかいませんよね。

確かに、僕は若くしてこの世界へ入って、22歳で独立しましたが、料理の世界に入って、今までつまらない、と思ったことはありません。やっぱり早く始めた方が良いと思います。見習いで日本へ来るのと、早くオーナーシェフになって来るのとでは、見るものも感じるものも、出会う人にも大きな違いがあります。早くスタートラインに立って、実績を積んだために、このように日本へ来ても、深くものを見ることもできますし、話す相手のレベルも違ってくる。これは重要なことだと思っています。

人と違うことをやろう! でも、料理の質には妥協を許さない

――故郷サヴォアの三ツ星レストランのシェフ、マーク・ヴェイラさんとの出会いはどうでしたか?

土のついたハーブをそのまま使うなど、テレビに出演しているヴェイラさんを観て、自然を表現する料理に共感し、自分の感覚に近いものを感じました。ヴェイラさんのもとで働きたいと思いましたが、希望者はたくさんいるはずでしょ。採用されるのは大変だと思ったので、一生懸命考えたんです。彼のレストランは外壁が青い。だから、青い紙の履歴書を送ろうと思いつきました。家族には反対されましたが(笑)。そして18歳の僕は採用されたのです。

「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」のギヨーム・ブラカヴァルさん(左)と。

――面白い。頭がいいですね(笑)

若い頃から人と違うことをやろうと考えていました。標高2300メートルのヴァル・トランス村にレストランを開店するとき、ヴェイラさんに「スキーシーズンだけで店の採算が取れるとは思えない。止めとけ」と言われました。実は僕自身も成功する確証があったわけではありません。

――料理人を志して6年、22歳で独立。無謀ではなかったですか。パリに出ようとは思いませんでしたか?

パリでレストランをしたい、とはまったく思いませんでした。僕はアルプスが好きなんです。山男なんです。モンブランにも登りましたし、6000メートル級の山も制覇しています。頂上に着いた時の達成感は何ものにも代えがたい。あの達成感を得るためには、どんな苦労にも耐えられる、自負はありました。アルプスで僕の料理を作りたい。そう思ったらチャレンジするしかありません。結果は、その後からついて来るもの。これが僕の考え方です。

――お客さまが冬しかこないところで成功している秘訣は?

11月から4月までがシーズンなんですが、この間はまったく休みなしで営業します。普通のレストランの1年分を働きます。

――経営者として料理人として何が一番大切だと思いますか?

地に足のついた経営をすることです。食材に関していえば、値段の張る食材は使えなくとも、本質的なこと、つまり食材の質については妥協しないことです。
三ツ星のレストランでも閉店に追い込まれる時代です。地道に誠実に、お客さまに感動していただくことだけを考えて日々働いています。

ヴァル・トランス村の「レストラン ジャン・シュルピス」で出される「ピジョンの塩包み焼き ベルべーヌ、エンドウ豆」。ピジョンの火入れは、210℃で12分、160℃で6 分焼いて5 分おいておく、という手法で仕上げる。野菜たちを添えた春を告げるひと皿。

ホタテ貝をバニラバターで味付け、カタバミを添えた逸品。山野草の使い方が巧みだ。

――最後に若い料理人へのメッセージをお願いします。

下積みからしっかりとステップを踏んでいくことが重要です。基礎を積み上げていくことが、未来へとつながるのです。

――なるほど。貴重なお話をありがとうございました。

Jean Sulpice

フランス・アルプス地方の生まれ。16歳で料理人を志す。故郷サヴォア地方の三ツ星レストランのシェフ、マーク・ヴェイラ氏のもとで働く。22歳で独立。標高2300m のスキーリゾート地に「レストラン ジャン・シュルピス」を開く。26歳で一ツ星、31歳で二ツ星を獲得。「ルレ・エ・シャトー」加盟店でもある。

自然を愛する気持ちから生まれる料理が「僕の世界」と語るジャン・シュルピスさん。「やりたい、という気持ちに忠実に行動することが大切。成功は後からついてくるもの」と言う。

レストラン ジャン・シュルピス
Restaurant Jean Sulpice
73440, Val Thorens, France
☎+33 (0)4 79 40 00 71
● 12:15~13:30、19:15~21:30
● 営業期間
11月21日~翌4月30日(毎日営業)、7月、8月
●コ ース 78€~(アラカルトもあり)
www.jeansulpice.com

民輪めぐみ=取材、文 長瀬広子=構成 絵鳩正志=撮影

本記事は雑誌料理王国257号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は257号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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