今、フランス、とりわけパリでは自然派レストランが主流となっている。「ラ・クープ・ドール」の坪香絢也さんも、パリの自然派レストラン「サテュルヌ」などで腕を磨いたシェフだ。
「でも僕は、パリで学んだものをそのままこの店に持ち込もうとは思いませんでした。なぜなら、自然派の料理は、フレンチとは別のジャンルの料理だと感じていたからです」
もちろん、この言葉は自然派の料理を否定するものではない。
「日本で、『ラ・クープ・ドール』に料理を食べに来てくださるお客様は、フランス料理を期待していらっしゃると思うんです。その期待には応えたい。ですから、あえてクラシックのテクニックや考え方も取り入れて、フランス料理らしさを感じていただけるようにしています」
40 年前から農薬を使わない
栽培方法で野菜を育てる
「ラ・クープ・ドール」が野菜を仕入れている榎本農園は、40年前から農薬を使わない栽培法を続けている生産者だ。園主の姉で、野菜ソムリエでもある榎本房枝さんは言う。「自分も料
理人だったので、料理人が欲しい野菜はなんとなく分かります。また、お取引する前には必ずレストランに食べに行き、シェフにもうちの畑を見てもらって互いの理解を図ります。その上で、シェフの料理にぴったりの野菜をお届けするようにしています」。現在は、約150種類の野菜を栽培している。
メインの料理には、フランス料理の基本であるソースを外さない。それが坪香さんの流儀だ。
今回作ってくれた「フランス産ハトの薫香ロースト 榎本さんが育てた味わい野菜添え ダイコンのソース」も、自然派とクラシックが融合した〝坪香流フレンチ〟。ハトの薫香ローストは、バターでアロゼしながら火を入れていく。赤ワインをベースにしたソースも、しっかり作る。まさに、クラシック。一方で、農薬を使わずに栽培された付け合わせの野菜は、ほとんど火は通さず、素材そのものの味わいを残す。鮮度にもこだわり、埼玉の榎本農園から仕入れている。
「フレッシュなものは、やはり味にキレがあります。野菜は、加熱すれば味のまとまりは良くなります。でも僕は、野菜を噛んだときのパンとはぜる香りを大切にしたいので、歯ごたえを残すようにしています」
また、一般的にレストランでは白い皿を使うことが多い。しかし、坪香さんは黒の皿を使う。これも、自然派のシェフたちから学んだ。
「パリの自然派レストランでは、色のついた皿をよく使います。それも、土の風合いを感じさせるような、ちょっと厚めの陶器が多い。和食器みたいな感じです」
ランチもディナーも、プリフィクスのコースのみ。
「だからこそ、それぞれの皿の〝顔〟が見えるようにしないといけないと思うんです。そうじゃないと、お客様は何を食べたのか分からなくなってしまいますから。『食べて分かりやすい』というのも、大事なことだと思っています」
Bioらしいけれど、Bioすぎない。食べる側にとっての〝適量Bio〟が、ゲストの笑顔を誘い出す。
1984年大阪・寝屋川市出身。
大阪あべの辻調理師専門学校フランス校卒業。恵比寿「イレール」で修業したのち渡仏。南仏の「ル・ムーラン・ド・ムージャン」や、パリの「サテュルヌ」「アブリ」で腕を磨き、帰国。2013年に「ラ・クープ・ドール」のシェフに就任。
ラ・クープ・ドール
La Coupe d’Or
東京都港区白金1-27-6
白金高輪ステーションビル1F
☎03-5793-5022
● 11:30~15:30(14:00LO)
18:00~23:00(21:30LO)
●火休
●コース 昼2500円~ 夜5000円~ ※価格は税込
●48席 www.lacoupedor.jp
山内章子=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国239号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は239号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。