フランス料理とワイン、日本料理と日本酒。
そんな定石を飛び越えて、ペアリングの世界は大きな変貌を遂げている。
単なる組み合わせの変化ではなく、根拠と信念に裏付けられたペアリングを提案する達人ふたりの答えとは?
—— 日本を代表するソムリエのひとりである阿部さんは、ワインの中でもとりわけシャンパーニュに造詣が深く、「銀座奏」ではシャンパーニュと日本料理のペアリングを提案されています。一方、コルビさんは長年日本で活躍するフランス人として、「フレンチ割烹」という新スタイルを生み出されました。それぞれ形は違えども、フランスと日本のペアリングをテーマにされていますね。本日はそんなおふたりの考えるペアリングについてお聞かせください。
ドミニク・コルビ(以下:コ) 私は日頃から、料理は飲み物と一緒に味わうものだと考えています。だから料理を考える時は、どの飲み物と合うかをつねに意識しています。「フレンチ割烹」のスタイルの店をオープンしてからは、ワインだけでなく日本酒とのペアリングも提案するようになりました。
阿部誠(以下:阿) 私が経営する3店舗のうちバーに関しては、お客さまはワインとシャンパーニュを目的に来られるので、それに合わせた料理を提供するという考え方ですね。昨年4月にオープンした「奏」では、日本料理とシャンパーニュをいかに合わせるかを追求しています。
—— 料理ありき、飲み物ありき、という出発点には違いがあるわけですね。
コ でも、最終的に行き着く先は同じだと思いますよ。料理と飲み物の組み合わせはとても重要ですから。
阿 ペアリングという言葉を聞くようになったのは最近のことですよね。ちょっと前まではマリアージュだったのを、みんなペアリングって呼ぶようになった。しかも、ここ2〜3年の間に、フレンチだからワインだけ、日本料理だから日本酒だけという概念が変わりつつあって、料理により合うもの、もしくはお客さまの好みによって、料理と飲み物のいろんな組み合わせを楽しむようになってきたという印象があります。
コ 私はまずお客さまと話して、日本酒だけ合わせるか、ワインだけにするか、両方を合わせるかのご要望に合わせてペアリングを考えます。料理は前菜からデザートまでおまかせのコースのみ、パンもバターも出さない、クリームやバターはほぼ使わない、そういうスタイルでやっています。だしがベースの料理、和の食材を使う料理もあって、そんな料理には日本酒をすすめたいと思います。全8品のうち2割を日本酒でペアリングしています。お酒が飲めるお客さまの99%は、飲み物も私に任せてくださいますね。
阿 うちの店はソムリエやワインエキスパートなどの有資格者やワイン好きのお客さまが中心ですが、やはりおまかせが多いですね。個人の好みを入れてしまうと楽しめない領域にいるので、どんなものが出てくるかを楽しみたいからおまかせを選ぶという感じかもしれません。
コ そこは違いますね。うちの場合は、ワインや日本酒を知らないから、料理も飲み物も完全にこちらに任せてしまって楽しみたいと。