【マリアージュからペアリングへ】和・仏スペシャリスト対談 阿部誠さん x ドミニク・コルビさん


—— なるほど、フランス料理に日本酒を合わせるポイントは何かありますか?

鴨、豚、仔牛の肉は日本酒と合わせやすいですね。脂の甘味や旨味があるので、日本酒も旨味のあるタイプを選ぶのがコツです。でも、日本料理にワイン、フレンチに日本酒を合わせることは、実は難しいことではないはずです。それには経験と、よい食材を見る目が必要となります。たとえば私は、鴨やフォワグラ以外はすべて日本の食材を使っています。野菜は農家の方から直接送っていただいたものです。昨日、ニンジンのポタージュを作りましたが、岩手のホロホロ鳥でだしを取り、ニンジンは丸ごとすりおろしただけの料理なのに、どんな手を加えたのかとお客さまに聞かれました。旬の素材にはそういう力強さ、奥深さがあり、ワインと日本酒どちらにも合わせやすいものなのです。

おっしゃるとおりですね。

同世代のふたり。飲食業界で働き始めたのも、ほぼ同じ時期だという。パリ出身のコルビさんと、フランスワインに明るい阿部さんで、ワイントークが弾んだ。

信念のあるペアリングは強固な基盤あればこそ

—— ペアリングの今後の展望とは?

昔はどの店でもグラスワインと言えば、ある程度料理には合わせるものの、せいぜい赤1種類、白1種類くらいしか選べなかったものです。あとはボトルで頼むのが前提になっていた世界ですよね。ところが現在のペアリングというものは、「この料理にはこの飲み物がこんなに合いますよ」と、ひと皿ごとにグラスで用意する時代です。お客さまの嗜好は変化しながら多様化し、さまざまな情報を持っているのはプロだけとは限りません。だからこそ我々は感覚をつねに養い、一歩も二歩も先を行くための努力をし続ける必要があると感じていますね。

私はお客さまへの「食育」も自分の使命だと思っています。ワインや日本酒が好きだけど勉強したことがない、お任せしますという方たちに、もっと知識を持ってほしい。通っているうちに意識が変わったお客さまから「もっと勉強したい」と言ってもらえると嬉しいです。

—— ソムリエ、シェフの方たちへアドバイスをいただくとしたら何でしょうか?

まずは基盤を固めること。料理を知ることは素材を知ることにつながりますし、だしについても追求し、その上で飲み物を知るためにワイナリーや酒蔵にも足を運ぶ。そこまでしないと、おもしろさがわからない。

同感ですね。今でこそ私は遊びのあるような料理をしていますが、基本は全部知っています。勉強はずっとし続けていますね、そこに年齢は関係ない。

ただ「これとこれが合います」では知識のあるお客さまは納得しません。お客さまがペアリングに期待するのは、その「なぜ?」が知りたいことにほかならないわけですから。その「なぜ?」に答えられる知識を持つことが、プロにとっては大事なことだと思います。

阿部 誠/Makoto Abe
2002年全日本最優秀ソムリエ。2004年第11回世界ソムリエコンクール日本代表。ホテル西洋銀座から都内レストランの支配人兼シェフソムリエを経て、2004年独立。一般社団法人日本ソムリエ協会常務理事。

ドミニク・コルビ/Dominique Corby
パリ生まれ。
1994年に来日、「トゥールダルジャン東京」でエグゼクティブシェフを務める。2015年新宿荒木町に「フレンチ割烹 ドミニク コルビ」をオープン。2016年12月より「メゾン・ド・ミナミ」シェフに就任。

銀座 奏
銀座 奏
東京都中央区銀座7-3-14 月光ビル2F
03-6264-5595
メゾン・ド・ミナミ
東京都新宿区荒木町2-9 MIT四谷三丁目ビル2F
03-6868-3550

澤 由香=インタビュー 田中英代=文 林 輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国270号(2017年2月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は270号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは、現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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