今年、2024年は山梨県がワイン県宣言をしてから5年目の節目に当たる年。3月9日(土)、日本ワインでリーダーシップを発揮する山梨県で「日本ワインサミット」が開催されました。全国から約300人が参加し、熱い熱気に包まれた3時間半でした。
「美酒・美食王国やまなし」
その名のとおり、飲んで食べて山梨県を味わって欲しい、と県をあげてさまざまなイベントを行っています。3月9日(土)、甲府・湯村温泉「常磐ホテル」を会場に行われた「日本ワインサミット」もそのひとつです。
山梨県のおいしいものとして、ワインを真っ先に挙げる人も少なくありません。というのも、山梨県は、日本のワイン発祥の地。明治初期創業の老舗から令和の時代に入ってできた新しい醸造所まで、山梨県内には90余ものワイナリーが集まっています。
そんな日本ワインの聖地で、今回開催された「日本ワインサミット」は、山梨県だけでなく、日本のワインのこれからを見据えた視野の広いものでした。
参加者は280名。ワインに携わっているプロの方々を筆頭に、ワインに関心を寄せる人たちが全国から集結。シンポジウムと交流会の2部構成で行われ、山梨をワイン県として掲げた長崎知事の挨拶からスタートしました。
シンポジウムでは「日本ワインの現状と未来へ」をテーマに2時間近く、生産者、研究者それぞれの視点からディスカッションが行われました。
この日登壇したのは、酒類総合研究所・前理事長の後藤奈美氏、中央葡萄酒/グレイスワイン(山梨県)から三澤彩奈氏、ヴィラデストワイナリー(長野県)から玉村豊男氏、山﨑ワイナリー(北海道)から山﨑太地氏、高畠ワイナリー(山形県)から松田旬一氏、都農ワイン(宮崎県)から赤尾誠二氏、
そしてコーディネイトを務めたのは、日本ソムリエ協会の会長であり、山梨県から委嘱の「ワイン県副知事」でもある田崎真也氏です。
まずは、北海道から九州・宮崎まで、それぞれのワイナリーの現状、造っているワインや栽培しているブドウ品種、土壌や天候などの環境を含めて紹介されました。後藤さん、田崎さんが俯瞰の視点で補足され、一口に日本ワインといってもエリアによって、また同じエリアでもワイナリーによって個性があり、その個性とはなにかを再確認。
たとえばブドウ品種。日本で栽培しているブドウは国際品種もありますが、その土地ならではの品種もあり、山梨県でいえば「甲州」がまさにそうです。
地元のワイナリー、中央葡萄酒/グレイスワインの三澤さん曰く、「『甲州』はアイデンティティーであり、お米のようにいつもの食卓にあって当然のものにしたい」と。そうして邁進した結果がその土地の、ひいてはそのワイナリーならではの個性となり、国際的にも高い評価を得るまでになった、と納得しました。
6つのワイナリーのこれまでと現状を踏まえて、その次の大きなテーマは、これからの日本ワインについて、です。資材の高騰など経営的な面ではなかなか厳しい環境ですが、ポテンシャルはあり、「裾野を広げて、日本ワインを飲むのが当たり前の時代にしたい」という発言には頷くことしきり。そして、さらに日本ワインを向上させるために、「(足元を見つめて)宝を見つけに行く」という言葉が強く印象に残りました。
シンポジウムの最後には、山梨県が30年の歳月をかけて作った新しいブドウ品種「ソワノワール」を使ったワインが登場。
「ソワノワール」はピノ・ノワールとメルローの交配品種で、文字どおり、シルクのようになめらかなタンニンが特徴です(ソワはフランス語でシルクの意)。
ここで、開発に携わった山梨県果樹試験場の場長の小林和司氏が登壇。
ブドウ品種の開発という、ワイナリーとは違った立場からの話は、「日本ワインサミット」のシンポジウムに深みを与えてくれました。
休憩をはさんで、交流会が行われました。
ここでは、セレクトされた50以上の日本ワインの試飲と、山梨県の特産品を使ったフィンガーフードを味わいながら交流を深めます。
試飲できるワインは、9つのテーマに分かれ、「甲州」だけでも「スパークリングワイン、スタンダード」「シュール・リー」「樽使用、オレンジタイプ」の3つ。山梨県が中心ですが、他の県のワイナリーが手がけたものも試せる貴重な機会となりました、
フィンガーフードは、「富士桜ポークのプラム煮」や「焼き鳥 甲州地どり胸肉 もも肉 パンチェッタ」、「富士の介サーモンのマリネ」など6種が並び、山梨県の食材とワインとのペアリングを楽しめました。
交流会には知事も参加。ワイン県として5年が経ち、新しい取り組みについても語ってくださいました。
「日本だけでなく、世界の料理とも合わせたい、特に、日本でも人気があり、世界でも食べられている四川料理やベトナム料理と山梨のワインとの相性を探り、お店とも協力して、推進していきたい」と。
また、山梨県が目指すのは、ロサンゼルスのように常に新しいことに挑戦できる場所。「食に携わる人の才能を育む場所でありたい」と熱く話してくださいました。
ワインをはじめとしたお酒、食材、そして人材。
「日本ワインサミット」を通じて、既にあるものだけでなく、「美酒・美食王国やまなし」のこれからの可能性もしっかりと感じられた時間でした。
text:羽根則子, photo:川上尚見