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おいしいペアリングのための基礎知識


ペアリングを考えるにあたり、どのような組み合わせであれば「おいしい」相乗効果が生まれるのか、多くの人の味覚を刺激する組み合わせとは何かなど、まずはその基本となる食の相性について、専門家である「味香り戦略研究所」髙橋貴洋さんに話を聞いた。

1.「おいしさ」とは何か?

私たちが何かを食べて感じるおいしさは、多くの要素によって構成されている。左の図にあるように、まず核となるのは「甘い」「酸っぱい」といった「味」※と、そこに香りが加わった「風味」。そこに「ポリポリ」「サクサク」といった食感や温度、見た目の色や光沢など、味覚以外の五感で感じる「食味」が作用してくる。さらには、食事環境、住んでいる場所の歴史や文化を含めた食習慣、そして、心身のコンディション、季節や時期といった、食べ物以外の条件などが加わって、初めて「おいしさ」が決定されるのだ。
※厳密には辛みは痛覚、渋味は触覚に定義される。

2.日本人の食の特徴とは何か? 

髙橋さんによると、日本人の食にはふたつの特徴があるという。

口中調味ができる

おかずを食べて、その後にご飯をひと口食べる。これもペアリングの1種だと髙橋さんは言う。先に口にしたおかずに対し、それに適した量のご飯や飲み物を追加して調節し、口の中を「ちょうどよく」して食べる行為を「口中調味」といい、これは日本人・アジア人特有の食べ方なのだそう。時にはおかずとなる食べ物より、飲み物の味が口内を支配する場合もあり、その場合は飲み物→おかずの順で口中調味を楽しむ。和食の場合はこれを加味したペアリングもあり、日本酒と湯豆腐といった組み合わせもその一例だ。

コクが好き

そもそも「コク」とは何か。先で紹介した「味」のうちベースを決めるのが「塩味」、本能的に好まれるのが「甘味」「うま味」、逆に嫌だと感じるのが「苦味」「酸味」「渋み」とされている。しかし、塩味やうま味だけでは本当においしいという感覚は得られず、そこに極微量の苦味・渋味が加わることで味が複雑になり、奥行きが生まれる。この複雑化した味が「コク」の正体の一部だ。カレーにインスタントコーヒーを加えるというのも、コクを生むための一種のペアリングと言える。日本人はとくにこの複雑化した味を好む傾向があるのだそう。

ペアリングの要①「先味」と「後味」

上記までの基本知識を踏まえ、味、香り、食感がもたらす効果から、「ペアリングの要」となる特徴を探っていく。

ぺアリングを考案するうえでとくに大きなヒントとなるのが「先味」と「後味」だ。料理や飲み物に含まれるすべての味には食べた瞬間に感じる「先味」と、長く口内に余韻として残る「後味」があり、それが味のリズムを作る。右の図のように、甘味、酸味、塩味は後味が短く、苦味、うま味、渋み、辛みは後味が残りやすい特性がある。たとえば、サーモンのソテーの場合、初めはうま味と塩味を感じるが、最後にはうま味だけが残る。そこに渋みのあるお茶を合わせると、味が複雑化し、瞬間的にコクが生まれる。つまり、とくに注目すべきは後味であり、軸となる料理がどのような味のリズムで、何が後味として残るかをしっかり分析すれば、ペアリングが考えやすい。

ペアリングの要②「抑制」と「類似」

ふたつの味を合わせた時に働く「抑制」の効果や、香り、食感などの「類似性」もまた、ペアリングを考える大きなヒントになる。

●酸味によるうま味の抑制

酸味にはうま味を抑制する働きがある。しかし、先述のように酸味は後味が短く、うま味の後味は長いので、最終的にはうま味が残り、連食性につながる(あとを引く)。なお、一時的にうま味が抑えられる現象が「酸味由来のキレ」であり、口内がスッキリする気持ちのよい感覚もこの効果による。

☆この効果を利用した代表的な組み合わせ
豚骨ラーメン × 紅ショウガ
唐揚げ × レモン・レモンサワー

●塩味による苦味の抑制

塩味には苦味を抑制する働きがある。そのため、苦手な苦味を含むものに塩味のものを合わせると、苦味が抑制されて味が丸くなり、おいしく食べられる。

☆この効果を利用した代表的な組み合わせ
ビール × 塩味のポテトチップス
コーヒー × せんべい(コーヒーの苦味が抑えられて、深い味わいに)

●食感の類似

類似性もまた食同士の好相性を生む。そのひとつが食感だ。硬さが似ている食材同士を合わせたり、または硬さが異なるもの同士の間に、食感をつなげるような食材を加えて緩衝させることで、全体的にまとまりが出て、好相性につながる。この理論によって最近話題になったのが「卵焼きサンド」だろう。具材である卵の食感をパンに近づけることがヒットの一端となった。

☆この効果を利用した代表的な組み合わせ
卵焼きサンド(パン×卵焼き)
ミルクレープ(しっとりした生地とクリームの重ね合わせ)
親子丼(鶏肉とご飯の間で、卵が緩衝材の役割を果たす)

均一のおいしさと不均一のおいしさ
食感が異なる複数の食材からなる料理が与えてくれるのが「不均一のおいしさ」だ。ハンバーガーや色とりどりのテリーヌなど、食感や風味が異なるものをまとめた料理がそれで、不均一な食材が口内で均一化されている過程、そして咀嚼する時のさまざまな音の重なりに心地よさ、おいしさが感じられる。一方、スープなどは均一化されたおいしさと言えよう。

●香りの類似

「香りの類似性」もペアリングに有効だ。香りのみを軸に類似食品を探すと、意外な組み合わせに出合えることもある。たとえば、醤油を軸に探すと、フォンドヴォーや黒ハチミツなどが該当する。最近の分子ガストロノミーと言われるような気鋭の料理には、意外性のある組み合わせとして、この特性が加味されていることも多いという。

☆この効果を利用した代表的な組み合わせ
桃のカプレーゼ
桃にはミルクのような香りが含まれているため、乳製品と類似性が高く、チーズとの組み合わせがマッチする。

エサと食材のペアリング
肉や魚の場合、その風味はエサの影響を受ける。そのため、エサに近い食材をペアリングするというのもひとつの手法だ。たとえば、ジビエ料理で動物の腹を裂き、食べたものを分析して、同じ食材を組み合わせて料理を仕上げるのもこのため。さらに、最近は飼料にこだわって育てるブランド食材も増えている。エサは風味として表れるため、たとえば柑橘を飼料に混ぜて育てた魚は柑橘の食材とマッチするし、ハーブを食べて育つ鶏は、ハーブとの相性がいい。素材そのものの香りを近づけることで、潜在的なペアリングが生まれるのだ。

「『おいしさ』は複数の条件の重なりによって初めて生まれるもので、さらにそれぞれの感じ方には個人差がある。誰からも評価される完全な『おいしさ』は存在しないのです。しかし、だからこそ昔も今も、味の飽くなき追求と進化が続いているのでしょうね」と髙橋さん。ここで紹介した方程式をもとに、おいしさがプラスではなく倍になるペアリングを目指してみては?

〈監修〉
株式会社味香り戦略研究所
主席研究員
髙橋貴洋さん
東京理科大学大学院化学科卒業後、同社に入社。現在、7万アイテム以上の味分析を行い、味のデータベースの構築・解析などを手掛ける。食品メーカー、流通業、商社、大学、農業団体、自治体、メディアなど多岐にわたる取引先へ講演・分析サービスなどを提供。

内藤香苗(本誌編集室)=取材、文

本記事は雑誌料理王国270号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は270号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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