新しい文化を生む刺激に、異文化交流は欠かせません。あえてパスタをイタリアン以外の料理人の皆さんに託し、奇想天外なアイデアを考えていただきました。
さあ、どんなレシピが登場する?
モンブランはパイ生地が土台。きざんだ栗の粒が楽しいベシャメルソースはマッシュルームが味のベース。そこに黒トリュフのスライス、ラザーニャを重ね、繰り返して層に。上にジャガイモのピュレと栗のペーストを合わせて絞り、島豚の蜂蜜ロティを添え、黒トリュフのソース、ジロール茸のソテー、彩りに粉末にしたセップ茸とマーシュをあしらう。
シンプルに仕上げるのが一番おいしいとわかっている食材で新しいことを考える、しかもフレンチの技法を生かして……悩みました。最初はテリーヌを考えました。ラザーニャにソースをのせてと試行錯誤していたら、「あれ、これって上にチーズをのせて焼いたらラザーニャだ!」という展開になって……。おいしさを求めると正統派に行くという流れでした(笑)。次に秋の食材をざっと書き出してみたら、モンブラン仕立てはどうかと思いついて。見た目はおなじみのデザート、でも食べるとまったく違う、という驚きも加わります。それなら栗にはトリュフの香り、キノコの旨味も欲しい、豚肉の甘いソテーが合うなとイメージが膨らんで、レシピに至りました。
モンブランの中は栗の入ったベシャメルソースと黒トリュフのスライス、ラザーニャが層になっていて、上にジャガイモのピュレと栗のペーストを合わせたスペシャル・クリームを絞りました。島豚に白トリュフが香るハチミツを塗って仕上げたロティを添えて、全体にトリュフの香りに包まれた、ボリュームのある前菜のイメージです。栗のペーストの自然な甘さを、下のベシャメルやパイ生地が受けることで、シュクレ・サレのバランスもばっちりです。びっくり(栗)!?でしょうか。
熟成肉専門店“中勢以”の島豚、黒トリュフ、ジロール茸。
ベシャメルソースやスペシャルクリームに使った栗と栗のペースト。
ラザーニャを使用。セルクルで型抜きをしてモンブランに使用。
1978年東京都生まれ。2006年より同店シェフに就任。「お出しするメニューには、クラシックの持つ安心感の中にも、ちょっとしたサプライズが必要だと考えています」
ラブレー
東京都渋谷区恵比寿西1-30-13
グリーンヒル代官山 2F
● Phone 03-3780-3090
● 12:00~15:00LO
18:00~22:00LO
● 水休
● ランチ3990円~
ディナー5040円~
サラダ油でネギ、豆板醤を軽く炒め、鶏ガラスープと粗みじんのトマト、蒸して粗みじんにしたジャガイモを加えて軽く煮て、淡口醤油で味をととのえ、パスタにしっかりからめる。仕上げに酢、ラー油を加えて和える。
普段からパスタは好きで、自宅でもよく料理して食べています。でも、いざ厨房に入って食材として取り組んでみたら……。パスタって粉の旨味が格段に強い!そこに気づいたらもうびっくりして、レシピ作りに対して一気に緊張してしまいました。中華ではスープ・麺・具材が三位一体で、とくにスープが鍵を握るわけですが、パスタは麺VSソースの真っ向勝負。しかも麺がとてもパワフル。これって相当ソースが強くないと負けちゃうということなんですね。
試作していくうちに、あ、これは中華なら炒飯の発想に近いのかも、と気づきました。油に香りや旨味をしっかりのせ、ごはんを包むように炒めるのが炒飯。パスタは米の役割と考えて、油をソースに置き換える要領でレシピを考えました。要(かなめ)はジャガイモです。でんぷん質がソースに溶け出すことで、とがった酢の酸味や豆板醤の刺激がまろやかになり、トマトのコクや旨味と調和し、スパゲッティに合う強さを持ちつつ、中華の技法や味を生かしたソースになったのでは、と思います。ちなみに片栗粉では、冷めたら固まってパスタとは全然合いませんでした。それにしてもイタリアンの皆さん、ソース作りって本当に大変ですね。
トマト、長ネギ、要のジャガイモ。トマトは五十嵐さんの好きな素材。
ラー油、豆板醤、酢、淡口醤油。どれも中国料理に欠かせない調味料。
スパゲッティーニを使用。中華のソースとも相性がよいと考えた。
1974年東京都生まれ。幼い頃から父の料理店で手伝い始め、18歳で修業スタート。2008年9月「美虎」を開店。「たくさん食べても胃が疲れない、とお客さまによく言われます。『やさしくなれるひと皿』が目標です」。
美虎
東京都渋谷区西原2-32-6
UTSビル1F
● Phone 03-6416-8133
● 12:00~14:00LO
18:00~21:30LO
● 月休(不定休有り)
● 昼1000円~
夜コース5000円~
炙りガツオと焼き締めしたイサキをひと口大に切る。ミョウガ、伏見トウガラシ、ネギを細切りにして、練りごま、すりごま、かえしで作った特製ごまだれと和え、ごま油で軽く風味づけした冷たいカッペッリーニに添える。
一般によくいわれる「和風パスタ」と、今回のような企画に応えられる「和食にパスタを取り入れたもの」との違いって何だろう……と考えた末、このメニューになりました。じゃあそれは何?と聞かれたら、和食の確かな技術を持つ人間が作ると、「和風パスタ」を超えるものになる、としか言いようがないです。うまく言えませんが、料理人の作業には、すべて理屈や理由があるということでしょうか。カッペッリーニは、パスタ自体のコシの強さや細さが和素材と合うと思い、真っ先に使おうと決めました。和食は季節感も重要なので、旬の魚とごまを使って、鯛茶漬けや冷や汁のような感じに仕立てようと思って。後付けかもしれませんが、結果的にはそうめんより腰があって、むしろバランスがいいんですよ。
パスタは普通が一番、というのは百も承知でしたので、それならパスタありきの一品にしたかった。僕なりに、魚や薬味、ごまの風味などが生きるおもしろいバランスになったと思います。うちではもともと中華麺をメニューで扱うなど、比較的食材に垣根を作らず自由に発想しています。だから、パスタを使うというのは和食的にはとても難しいけれど、実は抵抗はまったくなく、僕自身いい勉強になりました。
旬のカツオとイサキ。普通ならそのまま刺身でいただく素材。
彩りと重要な味のアクセント。ミョウガ、キュウリ、伏見トウガラシ、イチジク。
カッペッリーニを使用。冷やした時のキュッと締まった食感が魅力。
1975年東京都生まれ。「なだ万」ほかで修業後、2007年「食幹」を独立開店。「大きなカウンター越しに、職人の手さばきを眺めながら食事を楽しんでいただく店なので、見た目にわかりやすい料理を心がけています」。
食幹
東京都渋谷区渋谷3-5-5
HAKKA B1F
● Phone 03-3797-1911
● 11:45~13:30LO(月~金)
18:00~22:00LO
● 無休
● 昼1000円~、夜8000円~
馬田草織=文・構成 菊地和男=写真
本記事は雑誌料理王国194号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は194号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。