現地調達した発酵食材や調味料を駆使して「初体験」の中華料理を食べ手に繰り出す…。「蓮香」の小山内耕也シェフは、日本における発酵中華の紹介者と言っても過言ではない。”大陸の風”を感じる料理で、東京に居ながらにして食べ手を現地に連れて行くことで、小山内シェフは常に新しい座標を提示し続ける。
「自分が現地で食べて感じた“大陸の風”はこんな感じです」 顧客に料理を提供するときには、そう言い切ることが大切だと小山内シェフは考える。現地を知らない人に嘘はつきたくないのだ。そのため大陸の風を求めて、年に3 ~ 4回は中国の少数民族が暮らす地域に足を運ぶ。空港のある主要都市から車で9時間ぐらいかかる場所まで行くこともあるという。
小山内シェフが今回用意したのは2品。
1品目は、塩水で乳酸発酵させた茶葉を塩の代わりに使った卵焼き。6月に収穫された新茶を13%の塩水で漬け込むこと5 ヶ月、塩気を抜くことなくそのまま使う。材料はその茶葉の漬物と卵のみ。ほのかに感じる苦味と塩気だけで食べるのだが、後味にタンニンの渋みを感じ、ワインを呼ぶ。
「この茶葉の漬物と出合ったのは雲南省のプーアル茶の産地。現地では、出がらしの茶葉を紙に包んで、なんと土中に埋め、土の中の微生物と水分で発酵させるんです。乱暴ですよねえ(笑)」
2品目も雲南省の名物料理でキノコ鍋だ。雲南省はポルチーニ茸やジロール茸、そして松茸などが毎年5月から10月の長期に渡って収穫できる世界的なキノコの産地。小山内シェフは、6種のキノコを鶏と金華ハムのスープで煮込んだだけで提供している。各種のキノコのうま味が重なった分厚い味わいのスープだけでも十分に美味。優しいチーズのような後味がまたうまい。さらに、5種類の雲南省産のキノコを、ニンニクや唐辛子とともにオリーブオイルで煮た醤で食べると、また味わいが深まる。
2品とも実にシンプルな料理だが、味わう際に感じる大陸的な力強さに食べる側がひれ伏すことになる。この衝撃を、小山内シェフはどのようにして生み出すのだろう?
「僕は料理がそんなに上手じゃないから、目のつけどころで勝負しなければならないんです。現地を訪れると、いままで知らなかったこと、つまり新しい目のつけどころが毎回目の前に現れます。だから何度でも現地に赴き、自らで大陸の風を思いっきり浴びることを大切にしています」
一方で、現地で訪れる店の料理がそのままでおいしいと感じることはほとんど無いという。
「現地で出合った料理を、お客さまに味わっていただくためには、自分なりに翻訳する必要があります。その翻訳作業は確かに好きなのですが、行きつ戻りつ試行錯誤していますね(苦笑)」
自らで浴びる大陸の風、それを翻訳する作業。この2点が小山内シェフの料理を疾走させる。
小山内耕也(おさないこうや)
1976年青森県生まれ。「南青山エッセンス」などを経て、中国・江西省抚州市の「一品烧鸡」で研修。帰国後は「月世界」「ナポレオンフィッシュ」などで発酵中華を国内に紹介。2015年「蓮香」を開店。雲南省や貴州省などの少数民族が多く暮らすエリアの食文化を再現している。
蓮香
東京都港区白金4-1-7
TEL 03-5422-7373
18:30 ~ 21:00 LO
不定休
text 小林淳一 photo 八田政玄
記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。