食の未来が見えるウェブマガジン

驚きに満ちた食体験を提示する、味覚と文化の交差点「南三」(後編)


脳内に”引き出し”を!

美味しいだけでもない。愉しいだけでもない。驚きに満ちた「未知の味」はどう作られるのか。3つの料理から、シェフのロジックを解き明かす。熱狂を生む、辺境中華テクニシャンの脳内とは?後編。

中華と欧州の技術を融合。 水岡流の複層的引き出し

看板料理のウイグルソーセージも、国を跨いで縦横無尽に要素を掛け合わせた、技術の“交差点”だ。「羊の内臓がぎっしり詰まったウイグルのソーセージの歯ごたえが美味しい。でも、齧ると中の肉がばらけてしまうという欠点がありました」そこで思い出したのが、台湾料理の糯米大腸(ヌォミィダーチャン)。もち米、ピーナッツ、干しエビなどを腸詰にした精進料理で「もち米を入れればまとまる!」と閃いた。さらに専門書で会得したのは、肉と脂を乳化させ、プリッとした食感に仕上げるエマ ルジョンタイプのソーセージづくり。羊の肩ロースと豚の背脂を低温でしっかり練り上げ、炒め玉ねぎやクミンを中心としたスパイス、蒸したもち米を加えて豚の腸に詰め、うま味と香りが漏れなく口に運べる“水岡式ソーセージ”のできあがりだ。

羊のソーセージウイグル風味

ウイグルで食べた羊の内臓ソーセージ
台湾精進料理の米の腸詰め「糯米大腸」の技法

引き出しを開けるタイミングだけでなく、 現地の常識を疑う姿勢も実は重要

台湾の伝統的な食材を、現地の調理法にとらわれず、今までにない方法で調理した人気メニューもある。30年物の熟成切り干し大根を使った炒飯だ。「高雄の市場で手にした30年物の切り干し大根は、燻したような茶葉に通じる匂いと、昆布の表面を嗅いでいるような出汁感のある香りが特徴。何に使うのか尋ねると、誰もがスープだと言う。でもそのスープがどこで飲んでも匂いと香りが活きていなかった…」
そこで開けた引き出しが、広東料理の鹹魚(シェンユイ:塩漬け魚を発酵させた調味料)の炒飯の味と香り。油とともに炒めることで香りは俄然際立ってくる。角の取れた風味を損なわないよう、香りづけには葱ではなく生姜を。味わいが塩で強くなりすぎないよう、塩味には同じ台湾産のからすみのうま味を。そして、切り干し大根の茶葉の香りを発酵度の高い鉄観音茶で増強したら、滋味深く旨みが重なる一品ができた。

30年物熟成切り干し大根の炒飯

写真左から、【台南名物のからすみ】ボラの卵を塩蔵し、一度塩抜きしてから乾燥させたからすみは、台湾の南方に位置する台南や高雄の名産。炒飯のうま味としての役割を持たせた。【燻香のある鉄観音】熟成された切り干し大根独特の燻したような風味や、昆布出汁に通じる香りをやさしくまとめる役割。熱湯で抽出し、炒める過程で加えている。【台南の30年ものの切り干し大根】台湾ではスープに用いられる高級食材。強烈な塩味のため塩の代用として使用。発酵香を最大限に生かすため、油で炒めて香りを引き出した。

ちなみにこの炒飯、豆豉、梅干し、昆布など、まるでワインのテイスティングのように、食べる人によって印象がさまざま。 “交差点”としての料理は、食べる側の引き出しも開けてしまうようだ。

水岡孝和 (みずおかたかかず)
1981年千葉県生まれ。ヌーベルシノワの名店で修業ののち、台湾へ語学および料理留学。帰国後「黒猫夜 銀座店」で料理長として腕を振るいつつ、中国全土を1ヶ月周遊。2018年5月「南方中華料理 南三」をオープン。湖南・雲南・台南の食をベースに、独自に再構築した料理を提供する。

text 佐藤貴子 photo 伊藤高明/佐藤貴子


記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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