食の未来が見えるウェブマガジン

驚きに満ちた食体験を提示する、味覚と文化の交差点「南三」(前編)


雲南省、湖南省、そして台湾の台南地方。「南方中華料理 南三」はそれらの地域に根づく少数民族の食文化を紐解き、私たちの味覚が追いつかないまったく新しい味覚体験を繰り出す。中国の食文化の中で、食材・調味料・調理法などを縦横無尽に組み替え、独自の「交差点」を作るかのように料理を組み立てる水岡孝和シェフ。まさに「料理の編集ワーク」とも呼べるその手法のカギは、複数の”引き出し”を用意し、上質なインプットと華麗なアウトプットだ。

脳内に”し”を! 

美味しいだけでもない。愉しいだけでもない。驚きに満ちた「未知の味」はどう作られるのか。3つの料理から、シェフのロジックを解き明かす。熱狂を生む、辺境中華テクニシャンの脳内とは?前編。

「いったいどうしたら、こんな料理を思いつくんですか?」そんな質問が多いのも無理はない。中国の辺境を彷彿とさせる料理はインパクト抜群。それでいて、口にすると思いのほか親しみやすい。ハーブが混然一体となった雲南ニラミント醤を載せた羊のローストや、エキゾチックなスパイスが香る自家製のソーセージ。30年物の切り干し大根を使い、香ばしく奥行きのあるうま味を出した炒飯…。この店で中華のおもしろさに開眼したという人は数知れず。料理好きでなくとも、『南三』の料理を食べれば、何がどう組み合わさっているのか興味がわいてしまうだろう。もちろん、料理は単なる思いつきではない。店主の水岡孝和さんは言う。「閃きには、ロジックがあるんです」。

情報を「引き出し」に分類し、 常に“閃ける状態”を整える。

「閃きのもと」となるのは、ネタと技のインプット。その下地になっているのが「広く浅く全体を俯瞰するため」、数年前に敢行した中国一周旅行と、台湾留学中に身に付けた語学力だ。今では目的に応じて行くエリアを定め、買い出しなら1人、食べるなら複数で、定期的に中華圏に足を運んでいる。そのインプットにもプロセスがある。例えば2017年に訪れた雲南省。野生のきのこの一大集積地、南華県の野生菌市場や、中国の少数民族であるイ族の村を訪れたが、ここで未知の食材や料理に触れ、体験とともに理解を深めていくのは第一段階だ。
その後「知識を深め、自分のものとして定着させる」ため、「百度(中国の検索サイト)」や現地の料理専門書を読み解き「情報を脳内の引き出しに整理する」のは第二段階。「閃くときは、この引き出しの中にあるものが連結した瞬間ですね。ひとつだけではなく、2つ、3つと開けるかどうか。だから、考える前の段取りが大事なんです」。

ラム肉のロースト雲南ニラミント醤

シーサンパンナ傣族が作る焼き魚(写真①)
氷で冷やして色止めする日本の知恵(写真②)
熱々の油をジュッ!油淋(ヨウリン)の技法

ニラミント醤の発想は、 タン塩の上のネギから!?

例えば「南三」の看板となっている雲南ニラミント醤。ニラ、ミント、レモングラスに、生姜を加えた色鮮やかなソースだが、これも複数の引き出しを開け、それぞれが掛け合わされた“交差点”が、料理として形になっている。
「きっかけは雲南省の西双版納(シーサンパンナ)で傣(タイ)族が作ってくれた烤魚(カオユイ・焼き魚)です(写真①)。上に乗せた薬味兼調味料がおいしいのに、こぼれちゃうのがもったいなくて。これって、タン塩の上に乗せた葱を食べたいのに、落ちて悔しいっていうのと一緒ですよね」そこで開けた引き出しが、中華の伝統的な油淋(ヨウリン)の技法。“淋”は中国語で「水などを掛ける、びしょぬれにする」という意味で、油淋は食材を “油掛け”にすること。刻んだハーブの上から熱した油をジュッとかければ香りが立ち、すべての個性がオイルソースとしてまとまる。また、万人が食べやすいよう唐辛子は入れず、代わりに加えたのが木姜子(ムージャンズ)。貴州省東南部の少数民族が料理に用いるスパイスで、香りはレモングラスに近いが、プチプチとした食感はアクセントにもってこい。ナンプラーと酢で調味したら、氷水を当てて急冷し、変色防ぐひと工夫も忘れない(写真②)。

水岡孝和 (みずおかたかかず)
1981年千葉県生まれ。ヌーベルシノワの名店で修業ののち、台湾へ語学および料理留学。帰国後「黒猫夜 銀座店」で料理長として腕を振るいつつ、中国全土を1ヶ月周遊。2018年5月「南方中華料理 南三」をオープン。湖南・雲南・台南の食をベースに、独自に再構築した料理を提供する。

text 佐藤貴子 photo 伊藤高明/佐藤貴子

記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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