次世代を担う注目の海外シェフ「L’Orangerie」アラン・トードン


世界の第一線で活躍する、今、注目のシェフたち。彼らもまた様々なものを受け継いでいる。それは伝統であったり、文化であったり、レシピであったり…。これからの料理界を担うシェフたちが、それをどう未来へ繋いでいくか。ひと皿の料理で表現してもらった。

健康志向の食を受け継ぐ

「1年以内に三ツ星が取れなかったら、契約打ち切り。そう契約書に書かれていたんだ」と快活に笑うのは、「フォーシーズンズ・ジョルジュ・サンク」のメインダイニング「ル・サンク」のエグゼクティブシェフ、 クリスチャン・ルスケールだ。翌2016年、実際にそれを実現、以来ずっと三ツ星を保ち続ける。研究開発担当シェフとしてクリスチャンと共に新しいメニュー作りを行ない、チームを三ツ星に導く力となった10年来の腹心が、アラン・トードンだった。そして、去年8月。アランにチャンスが訪れる。クリスチャンが「ル・サンク」のテラスにある「オランジュリー」を任されることになり、アランはそのエグゼクティブシェフとして抜擢されたのだ。「ル・サンクの料理が骨太な料理だとすれば、オランジュリーの料理は軽やかで繊細、そして国際的な料理」というのがクリスチャンのアイデアだ。「パラス(宮殿)」に認定されたラグジュアリーホテルだけに、多様な国籍と食の背景を持つ客が訪れる。その嗜好に対応するモダンなクリエイションが必要だ。

さらに、まだ30代の若手シェフであるアランに、三ツ星とは違う身軽さで、新しい風を取り入れる窓としての期待もある。フルーツ主体の食事をするなど、健康に気を配るクリスチャンは、もともと「ル・サンク」でも、肉などにバターを使ったソースをあまり使わず、ジュに葛粉を合わせるなどして、伝統を軽やかに表現してきたが、アランは更に、酸味を加えてさらに軽さを強調し、野菜をメインにするなど、ヴィーガンやグルテンフリーなどのニーズにも対応できる料理を増やす。また、医師のアドバイスを受けて、ヒカマ(クズイモ)という食物繊維を多く含む食材を料理に取り入れたりもする。

アランは「旅から得たアイデアをレシピに反映させるが、使う食材は地元のもの」新鮮かつフードマイレージの少ないサステイナブルな食材で、食べて健康になる料理を目指す。「時代は、季節に敬意を払い、柔軟に旬の食材を取り入れた、新鮮で季節感のある料理に進化して来ており、食材の質がますます大切になっていくだろう」とアランは語る。

未来に受け継ぐ一皿

Roasted Mango in a Milk Crust, Dehydrated Olives and Cocoa

メキシコ人の妻とともに、 南米に旅行に行った時に地元の人たちが行なっていたバーペキュ ー「アサド」で、アルミ箔にマンゴーを包んでグリルした料理を食べたことからインスピレーションを得た。 2ヵ月の試行錯誤の末、 優しく火を入れるためにミルクスキンで包み、 ゆっくりと火を入れて肉のよう なテクスチャーを引き出す手法を編み出した。 果肉の間にはオリーブのタプナード、 上からカカオニブとディハイドレートしたオリーブのクランブルをかけてある。

text 仲山今日子

記事は雑誌料理王国2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする