地方レストランの先駆者・音羽和紀氏の意志を継ぐ二代目が目指す「ローカルガストロノミー」とは?


成長できる環境をオーガナイズしていく

オトワレストランは私で二代目。シェフ(父、和紀氏)から引き継いだことは「地元に愛される店、誇ってもらえる店」であること。それを二代、三代と続けていきたいです。

席数は最大で60。世代も幅広く、ビジネスでもご家族でも、県内外からさまざまなお客さまをお迎えします。私たちは、そのすべてのお客さまにご満足いただきたい。モダンでありながら、時に安心感のあるクラシックを交え、栃木の季節感も投影していく。ひと皿のクオリティー以上に、3つのバランスを、弟(創氏、白金台「シエル エ ソル」シェフ)とも、いつも話し合っています。「トロワグロ」や「ブラス」といった家族経営の名店や、何百年と続く日本料理のお店には、シェフやトップの状況がどうあれ、揺るがない「安定感」があります。


「あなたは命がけでできるけど、そんな人がどれだけいるか。そうでない人でも、ちゃんと思いを持って働けるようになれば強いですよね」と、言われたことがあります。でも、そのときは理解できなかった。店の成長には自分の成長が必要ですね。それができる環境を整える、店をオーガナイズすることが大事なことだ、と今は理解しています。

一方で、東京のシェフたちが目指しているような、世界を意識した突っ込んだ料理も出したい。過去・現在・未来を見据えることが、「地元に愛される店」に必要なことだと思っています。

コースのPOINT❶

4品の味のバランスとともに栃木の季節感の表現を重視

アミューズは3品か4品を一度にお出しします。全体の味のバランスをとることはもちろん、「栃木の季節感」がしっかり感じられるか、を重視しています。アミューズはフィンガーフードになることが多いため、次のひと皿は幅広い方々に安心して召し上がっていただける、フランやスープをご用意することが多いです。

コースのPOINT

通年作り続けるヤシオマスのショーフロワー

ヤシオマスの生産者、日光「大滝養魚場」の山越祐二さんとお会いしたのは、ちょうどオトワレストランがオープンしたころ(2007 年)。お互いに意見を交換しながら、ともに成長してきました。今では、オトワレストランになくてはならない食材です。火入れして冷ました素材を粘性の高いソースでコーティングするショーフロワーは、シェフの修業先でもあり、私自身もお世話になった「アラン・シャペル」でよく出されていた料理です。ですので、私にとってヤシオマスのショーフロワーは、通年作り続けている大切なメニュー。弟は「兄さんのスペシャリテだ」と言ってくれています。

コースのPOINT

地域の環境問題をおいしく食べて解決していく

若竹のメンマは、宇都宮「若山農場」の若山太郎さんからいただいたものです。放置された竹林はタケノコも出なくなるなど、拡大竹林として問題になっており、それを解消するために少し伸びたタケノコ(若竹)の有効活用として、若山さんは新たな産業の創出に取り組んでいます。そのひとつが国産メンマの開発です。メンマ独特の香りはせずに食感を楽しめるので、活用方法を探りながら使っています。

コースのPOINT

野菜から魚のメインを考案 肉のメインは広くヒットする牛肉で

海なし県の栃木県ですので、メインの魚料理は野菜で季節感を出すようにしています。今回も、黄金かぶを出したいと思い、それにあうひと皿としてアマダイを選びました。メインの牛肉は、広くどんな方にもヒットするメインの食材として、初めて来店される方にお出ししています。2回目以降はカモやジビエを出すこともあります。

コースのPOINT

アバンデセール、グランデセールの枠を外して、真にゲストが求めるものを

アバンデセールやグランデセールといった順番はなくてもいいのではないか、と思うようになりました。お客さまが感じるものを大切に。そう考えると食べごたえと満足感、量はいらなくなります。「栃木の表現」と「軽さ」を考えると、デザートのひと皿目は、栃木を代表する「とちおとめ」(鹿沼「フレッシュ園渡辺」)で軽いものがいい。グランデセールのように見えますが、食べていただくとさっぱりと軽く感じていただけるようなテクニックを盛り込んでいます。

今月のおまかせディナーコース

1.A ヤマメ 鬼おろし B ピーナッツ 牛乳のチーズ
C 奈良のレンコン 金ゴマ 豚足 D ヤギの内臓 春菊

Aダイコンおろしの下には、ヴィネガーと宇都宮「ことぶきファーム」の宮レモンで軽くマリネしたヤマメのタルタルがある。Bピーナッツのクリームと焦がしバターのクリームに糖化させたピーナッツを加えたタルト。那須高原の「今牧場チーズ工房」の牛乳のチーズ「みのり」を削った。C奈良のレンコンと金ゴマのガレットを豚足のチップで包んだ。D今牧場のヤギの食道などの器官の部位と自家菜園の春菊の新芽をヤギのコンソメでゼリー寄せに。

2.大浦ごぼう 白子 トリュフ

那須町「渡辺農園」の大浦ごぼうを伊達鶏のブイヨンとともに真空にて100℃で蒸しあげ、ミキサーでまわす。卵とクリームを加えてフランにした。「伊達鶏のブイヨンを料理のベースにすることが多い。繊細な食材とあわせたときに素材を覆うことなく表現できるんです」と音羽さん。

3.ヤシオマス カリフラワー

栃木県のブランド魚「ヤシオマス」のショーフロワー。ミキュイに火を入れたヤシオマスをカリフラワーのピュレ、ブイヨン、味噌少量を加えたソースで薄くコーティングしている。付け合わせは、宇都宮「畑市場」のカリフラワーを厚さを変えてスライス。左に添えられたハヤトウリとカリフラワーを発酵させてレフォールとあわせたコンディモンがアクセントに。

4.鰻 伊達鶏 若竹

伊達鶏の手羽先の中に若竹のメンマとキノコ、豚のミンチを入れてクレピネットで包み、蒸し焼き風に。那珂川町「林屋」の小林博さんの養殖のウナギのロースト、日野菜、伊達鶏のトサカなどを添える。フヌイユなどの野菜と白ワインでとったソースは、軽いながらも旨味がある。

5.アマダイ 黄金かぶ

カリっと鱗焼にしたアマダイ。伊達鶏のコンソメと昆布だしベースにし、テクスチャーを絶妙に残して炊いた畑市場の黄金かぶごとソースに。カブのみずみずしさと旨味がしっかり表現されたソースになっている。

6.栃の木黒牛 干瓢 しののめ

栃木県のブランド牛「栃の木黒牛」(交雑種)にソース・ペリグー。今牧場チーズ工房のウォッシュチーズ「しののめ」と椎茸のソースも添えた。付け合わせのカブと壬生(みぶ)町「篠原商店」の干瓢(かんぴょう)のコンフィは、父・和紀氏の代から続く料理で、氏が大好きな料理でもある。刳り抜いたカブに入れて提供される。

7.とちおとめ 四季桜

ユズを加えた筒状のウフ・ア・ラ・ネージュ(ふわふわのメレンゲ)の中には、イチゴのコンソメが入っていて、ナイフを入れるとスゥーと漏れ出る。マリネしたイチゴとフレッシュなイチゴ、宇都宮の地酒「四季桜 大吟醸」の酒粕のアイスを添えた。

8.菊芋 紅玉 ほうじ茶

那須町「金子君の野菜畑」の菊芋をバニラシロップで炊いたものと、紅玉(リンゴ)、クリをほうじ茶と甜菜糖のフィユタージュで包んで焼き上げた。これを、枯れ葉を飾ったプレートにのせて(画面奥)テーブルに運び、ショウガのアイス(手前)とともに提供する。

9.ミニャルディーズ

A「味噌と黒ゴマのフィナンシェ」B「トンカ豆のマカロン」C「カンパリの琥珀羹」。ミニャルディーズ(茶菓子)は、3~5種類提供する。「ここでは、栃木感にはこだわらず、自由に遊ばせていただいています」と音羽さん。

Hajime Otowa

1981年、栃木県生まれ。岐阜、東京のフランス料理店で修業後、渡仏。ミヨネーの「アラン・シャペル」で2年間研鑽を積む。2007年、現店オープンの際に帰国し入店。09年より料理長に。

OTOWA RESTAURANT オトワレストラン
栃木県宇都宮市西原町3554-7
☎028-651-0108
● 12:00~14:00LO(金~日のみ)
18:00~20:30LO
● 月休
●コ ース 6000円、10000円、15000円
(昼・夜共通、税・サービス料10%別)
● 60席 https://otowa-group.com/

江六前一郎=取材、文 中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国294号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は294号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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