素材が輝く、最高の瞬間を捉えたい「クラージュ」大井健司さん


素材が輝く、最高の瞬間をとらえたい

クラージュのコースには、まだ僕の自己表現とか、メッセージ性はないと思っています。オーナー(サービス担当の相澤ジーノ氏)とは、「うまいもの屋」にしたいね、と話しています。

現在の料理を作りたくないとか、哲学めいた料理を出したくないというわけではありません。ただ僕は、おいしいが一番にくる料理を作りたい。「カセント」(神戸)の福本(伸也)シェフの料理がまさにそれでした。

あまりのおいしさに感動して、働かせてもらえるようにお願いしました。とても厳しいことで知られる福本シェフのもとで、わずか3カ月でしたが、本当に貴重な体験でした。シェフから言われたことではないんですが、近くで仕事を見させていただいて、気がついたんです。シェフは、「食材の最高の瞬間」をとらえようとしているんだ、と。

クラージュでは、ペアリングに力を入れています。たとえば最初の料理「先付」には、ドンペリをお出ししたり、2皿目の「八寸」には、必ず日本酒を合わせたりします。

制約が多いと思われるかもしれませんが、僕はあまり気になりません。僕は、食材が活きている、一番輝いている瞬間が表現できていればいい。そのための方法(過程)には、こだわりがない。だから今は、作りたいものを作れるようになりました。

今月のおまかせコース
ディナーコース 15000円 10品 1月のコースより

コースのPOINT ❶

小さなポーションではなくしっかりとした料理としてのアミューズ

先付けからの3品目までが、いわゆるアミューズのようなイメージで、普通のお店なら盛り合わせたりするようなものを、ひと皿ずつお出ししています。クラージュは、日本のエッセンスも大事にしていますので、魚醤や味噌、醤油麹など、和の塩味や酸味をほんの少しですが加えることで、それを演出しています。

コースのPOINT❷

お客さまのニーズに対しそれ以上のアイディアで答えていきたい

アワビの料理は最初、小ポーションの前菜だったのですが、このソースに合わせるワインの関係で、メインの前に置くようになりました。アワビをまるごと使うのでお客さまに好評で、次第に残ったソースをつけるパンが欲しいとリクエストが出てきました。それなら、ただパンを出してもおもしろくないので、海藻入り手打ちパスタをお出しするようになったんです。

コースのPOINT ❸

全国各地を回って見つけた「都萬牛」 不均一な仕上がりのほうがおいしい

クラージュをオープンするにあたって、牛肉は本当にたくさん探し回りました。なかでもっともおいしかったのが都萬牛です。黒毛ですが赤身の旨味がすごく強い。適度に入ったサシがおいしい。僕は、肉は焼きが不均一な方がおいしいと思う。メイラード反応が起きている部分と、ロゼ色の綺麗な部分の対比が好きなので、最後に薪であぶって食感と香りに変化を与えています。

コースのPOINT ❹

鍋の締めの雑炊のイメージで白菜とキャベツは必ず使う

その日の食材の旨味が詰まったスープに「鍋っぽさ」を出すために、白菜とキャベツは必ず入れています。薬味は茨城産のダイコンを、リンゴシードルビネガーでマリネしたピクルスと、発酵唐辛子に柚子を加えた柚子のかんずり。ピリッと味が締まる名脇役。

コースのPOINT ❺

デザート3品のうち
2品にはテーマがあるので1品目は小さくすっきりさせたい

デザートの3品目が郷土菓子なので、最後はほっこりと落ち着く感じ。グランデセールには、コーヒーの焙煎師がセレクトしたコーヒーとのペアリングもあります。ですので、アバンデセールは、サッと食べられて、小さくて、さっぱりするようなものを考えています。

1│先付
冬のコースの先付は、石川・氷見の寒ブリの刺身を、ブリのアラからとったスープに黒トリュフを浮かべたなかに浸し、しゃぶしゃぶのようにして食べる。先付けは、ドンペリに合わせるので、キャビアのどら焼きなど、和を感じさせながらも、エレガントさがある品が多い。

2│八寸
手前がすっぽんのテリーヌ。卵の黄身を絡めて味噌のパウダー、フェンネルを合わせた。すっぽんの味とねっとりとした食感がストレートに伝わる。左上は、淡路島で獲れたサワラの刺身とノリのチップス。サワラに切り込みを入れて、その間に塩漬けのサワラを挟んで、咀嚼時に感じる塩味に変化を与えている。右上は、白醤油でマリネしたアオリイカにいしる麹(魚醤)を加えた。長芋のスライスを上にかぶせている。

3│鹿
鹿のシンタマのロースト。カットした断面にヘーゼルナッツオイル、醤油麹をあわせたものを塗る。赤いゼリー状のフランボワーズ。黒オリーブとパン粉。素材の味を覆ってしまうからと、繊細な料理には強いソースを使わない。

4│トラフグ
トラフグのコンフィ、フグのコンソメで炊いた海老芋のフリットをいただく。白子をトラフグのコンソメ、生クリーム、少量の白醤油とともに、バーミックスでまわした濃厚なソースで、キンカンの香りと酸味、春菊の苦味が素晴らしいアクセントを与えている。

5│鮑
アワビは殻ごと真空にして、85℃4時間、旨味と食感を損なわないように火を入れる。ソースは、アワビのキモに、真空調理の際に出たジュ、フェメ・ド・ポワソン、鶏のコンソメを入れて煮詰め、そこにバターと生クリームを加え、さらに煮詰めた。大葉のてんぷらを食感の変化として添えている。

アワビの身を食べ終えて、皿に余ったアワビの肝バターソースに、海藻を練りこんだ手打ちパスタを投入。しっかりとソースを絡めていただく。ランチメニューでは、アワビのキモバターソースパスタがメニュー化するほどの人気料理。

6│都萬牛
宮崎県の黒毛和牛「都萬牛(とまんぎゅう)」のイチボ。オイルバスで50℃1時間火入れした後、薪で香りを付けた。付け合わせは菊芋。ソースはなく、3種類の塩のブレンド(マルドン、奥能登釜揚げ塩、天草の藻塩)と、辛過ぎないベトナムの生コショウでいただく。

7│リゾット
牛、豚、鶏、鹿、魚、すっぽん、トラフグのあら、といったコースのなかで使った食材の端材などでとったスープで、大麦を炊いたリゾット。鍋の締めの雑炊をイメージした「おいしいもの屋」クラージュの締めのメニュー。

8│温州みかん ピスタチオ
愛媛・宇和島の温州みかんとピスタチオの濃厚なクリーム、食感としてミカンの中にザラメを入れている。「ミカンはラビオリに似ている」という大井さんのユニークな発想から生まれた。ミカンとピスタチオの相性もいい。

9│加賀棒茶 和三盆 アーモンド
加賀棒茶と和三盆のアイスに、アーモンドのムース、落ち葉の形にかたどられているのは、カカオを練りこんだフィヤンティーヌという薄いカリカリの生地。これらをすべてスプーンですくっていっしょに食べる。

10│ミニャルディーズ
ミニャルディーズはイタリア、スペイン、台湾、日本の4カ国の茶菓子。手前左からポルボローネ(スペイン)、芋援(台湾)、レモン大福(日本)、奥左のティラミス(イタリア)。大井さんのゆかりの国と、台湾人スタッフが担当。

Takeshi Oi

1984年、茨城県生まれ。26歳で本格的に料理人の道へ。29歳で渡伊。一ツ星レストランで1年間修業。「カセント」や銀座「下鴨茶寮」で研鑽を積み、2018年「クラージュ」のシェフに就任した。

Courage クラージュ
東京都港区麻布十番2-7-14 1F
1F, 2-7-14, Azabu-juban, Minato-ku, Tokyo
☎03-6809-5533
●12:00~14:00LO、17:30~21:00LO
●月~火の昼・日・祝休
●コース 昼4000円~、夜10000円~
●20席 https://courage-tokyo.com/
※税込・サービス料別

江六前一郎=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国295号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は295号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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