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小笠原伯爵邸のシェフソムリエが教える。旨いスペインワイン


「スペインワインは、ここ10年で大きく変わりました。ちょうど2002年に小笠原伯爵邸ができてスペインワインを取り扱うようになったので、その変化を身をもって感じています」と、小笠原伯爵邸の支配人兼シェフソムリエの大狩洋さんは言う。長くフレンチレストランでのサービスの世界に身を置いてきた大狩さんに、スペインワインの魅力を聞いた。

小笠原伯爵邸 大狩洋さん
Wataru Ohgari
京都市出身。高級フレンチやホテルにてシェフソムリエとして各国大使並びVIPの華やかな客人の接遇にあたる。2002年のオープン当初より小笠原伯爵邸の支配人に就任。

スペインワインの歴史は19世紀後半のリオハから

「スペインにおけるワインの歴史は古い。ただ、今のようなワインが昔からあるわけではありません」

スペインワインが注目されたのは、 1860年代のリオハが最初。フランスのボルドー地方がフィロキセラの害で壊滅的な状況に陥ったため、ボルドーの生産者がリオハに進出し、一気にワインが変わった。「ですから、スペインワインの歴史はリオハを抜きには語れません。スペイン国内で電気が一番早く通じたのはヘレス(シェリーの産地)とリオハ。ワイン産業の成功で経済的に豊かだったことがうかがい知れます」

しかし、そのリオハも一時期衰退してしまう。1960~80年代には、ブドウの収量ばかりを気にするようになり、大量生産された結果、ワインの質を落としたのだ。そのリオハが復活したのはなぜか?

「90年代に入って、各地に優れた醸造家が現れたんです。フランスをはじめ世界でワイン醸造を勉強した人たちが、収量よりもブドウの質が大事という考えを持ち込んだことが大きいですね」

その先駆けがベンハミン・ロメオの「コンタドール」。さらに東部のプリオラートではアルバロ・パラシオスをはじめとする「4人組」が、ガルナッチャで素晴らしいワインを造り、高級ワイン産地として一躍脚光を集めたのだ。中央部のラ・マンチャにも優秀な醸造家が登場した。「南部のフミージャでも然り。次の世代になればさらに良くなるかもしれません」

90年代には、スペイン料理界にエル・ブジのフェラン・アドリアが彗星のごとく登場し、世界の注目を集めた。料理が変わるとワインも変わる。ワインの世界にも優秀な醸造家たちが次々に現れ、一気にレベルアップして注目を集め「、スーパースパニッシュ」という表現も生まれた。

1927年(昭和2年)に小笠原長幹 伯爵の邸宅として建てられた品格ある洋館を2002年に店舗としてオープン。

「国際品種」から「固有品種」へスペインらしい個性が光る選択

しかし、そこに至るまでにはいくつかの問題もあった。

「フランスとの大きな違いは、スペイン独自の固有品種があることです。しかし、1940年代以降、国際品種を追いかけて迷走した時代がありました」

カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルド ネなど、世界的に人気がある品種でワインを造ろうとしたのだ。しかし、そうしたブドウは土地に合っていなかった。

「気付いたときには手遅れで、植え替えをしてもブドウが樹齢を増すには20年はかかります。今でこそリオハといえばテンプラニージョですが、国際品種に手を出して間違ってしまった時代がありました」

今、スペイン固有品種への志向はさら に進んでいる。スペイン北西部、ガリシア州とカスティーリャ・イ・レオン州を隔てる山中にあるビエルソでは、「メンシア」という土着品種で成功を収めている。

「ビエルソはフィロキセラ禍で甚大な被害を受けました。そこに心ある醸造家が入りワイン造りを始めてみると、荒れ果てた土地には樹齢の永いブドウばかりが残っていたんです」

固有品種のメンシアは、ロゼ用のカジュアルな品種だと思われていたが、今では樹齢100年になるものもあり、これらの古木からワインを造ったところ、素晴らしく旨いワインができたのだという。

樹齢の永いブドウの古木は、フランスでは「ヴィエイユ・ヴィーニュ」と呼ばれる。通常ブドウの樹齢は30年程度、70年たったら植え替えするのが普通なのだが、スペインでは樹齢100年の古木が残る土地がまだまだあるのだ。

「樹齢の永いブドウから造られるワインはじつに美味しくて、絶対に他では造りだせないキャラクターがあります。スペインにはそんな“宝の山のような” 土地がまだまだあって、それを発掘するのが楽しいのです」

スパニッシュ様式を取り入れた建物は、鳥や葡萄唐草、草花など動植物をモチーフにした装飾が随所に施されている。

優秀な醸造家たちの登場で注目を集め変化を遂げつつある「今」が味わい時

興味が尽きないスペインワイン事情ではあるが、実際にスペインワインが日本の消費者に注目されているのかというと、必ずしもそうとは言えない。スペインワインの可能性はどこにあるのか。

「フレンチレストランでも、ワインの選択肢を増やす例としてスペインワインの導入もよいのではないかと思います。まずはリオハがおすすめです。世界的に注目を集めている銘柄も、同レベルのものをボルドーで用意しようとしたら、かなりの高額になる。ところがスペインなら、比較的リーズナブルに楽しめるのが強み。とにかく、まずは味わっていただきたい」と大狩さん。

国際的に注目を集める有名醸造家たちがリーダーとなって、スペインワインを新しい世界に物凄いスピードで牽引している。この変化を肌で感じながら、まさに「今」が味わい時と言える。

実力派ソムリエに聞く 今勧める、このワイン!

ラ・ヴィーニャ・デ・  アンドレス・ロメオ 2001

【赤】ラ・ヴィーニャ・デ・ アンドレス・ロメオ 2001

■ 生産地 スペイン リオハ地方
■ 生産者 ベンハミン・ロメオ
■ ブドウ品種 テンプラニージョ
■ 味わい・香り ・・・ ベンハミンの父(アンドレス)が植えた樹齢の永いブドウで造られている。よく熟した赤黒フルーツ、ミネラルにオーク樽由来の風味。粘性が強く果実味が非常に豊か。やさしく甘みを感じさせるタンニンが広がる。
■ 合う料理 ・・・ イベリコ豚ベジョータの生ハムや赤系の肉汁がしっかりした肉料理。

プレディカドール 2008

【赤】プレディカドール 2008

■ 生産地 スペイン リオハ地方
■ 生産者 ベンハミン・ロメオ
■ ブドウ品種 テンプラニージョ、ガルナッチャ、ヴィウラ
■ 味わい・香り ・・・ ベンハミンが、一般の人にも手が届くものを、との思いで造ったワイン。複雑なスパイスの香りとともに繊細なオークと赤黒フルーツの香りが際立つ。酸味とタンニンのバランスが良い。
■ 合う料理 ・・・ シンプルな肉料理からジビエまで。

コンデ・デ・エルビアス  2004

【赤】コンデ・デ・エルビアス 2004

■ 生産地 スペイン リオハ地方
■ 生産者 マンソ・デ・スニガ
■ ブドウ品種 テンプラニージョ
■ 味わい・香り ・・・ フィロキセラに侵されていない樹齢100年以上の樹から収穫されたブドウを使用。熟した果実、スパイス、ハーブの香りが複雑に絡み合い樹齢の豊かさを感じさせる厚みのある芳醇な味わいが特徴。
■ 合う料理 ・・・ トリュフを使った濃厚なソースで仕上げる重厚な肉料理との相性は秀逸。

ウルトレイア・  サン・ジャック 2010

【赤】ウルトレイア・サン・ジャック 2010

■ 生産地 スペイン ビエルソ地方
■ 生産者 ラウル・ペレス
■ ブドウ品種 メンシア
■ 味わい・香り ・・・ ピノ・フリオ(冷たいワイン)と呼ばれるほど、清涼感があり、ピノ・ノワール的な繊細さを持つ。2010はラウル・ペレスいわく過去最良の年。
■ 合う料理 ・・・ 豚肉の腸詰や煮込み料理に相性抜群。

エレ・プント・ブランコ  2008

【白】エレ・プント・ブランコ 2008

■ 生産地 スペイン リオハ地方
■ 生産者 フェルナンド・レミレス・デ・ガヌーサ
■ ブドウ品種 ビウラ、マルバシア
■ 味わい・香り ・・・ 淡いゴールドの色調。パイナップル、桃の香り、フレッシュで厚みのある味わい。
■ 合う料理 ・・・ 魚介類全般、特にしっかりとしたソースを添えた魚料理によい。

(左)【白泡】パラシオ・デル・コンデ・デ・オガサワラ・エスプモーソ

■ 生産地 スペイン ルエダ地方
■ 生産者 フェリックス・ロレンソ・カチャソ
■ ブドウ品種 ベルデホ
■ 味わい・香り ・・・ 緑がかった若々しい色調。フレッシュフルーツの香りとトースト香のバランスが絶妙。さわやかな酸味と持続性のある繊細な泡立ち。
■ 合う料理 ・・・ 軽いタパス料理から魚介類全般に。

(中央)【赤】パラシオ・デル・コンデ・デ・オガサワラ・ブランコ

■ 生産地 スペイン ルエダ地方
■ 生産者 フェリックス・ロレンソ・カチャソ
■ ブドウ品種 ベルデホ
■ 味わい・香り ・・・ フランスのソーヴィニョン・ブラン的な味わい。シトラスフルーツの香味が広がり、上品な酸とミネラル感がワインの骨格をしっかりと支えている。
■ 合う料理 ・・・ 和食では天ぷらにも良く合う。

(右)【赤】パラシオ・デル・コンデ・デ・オガサワラ・ティント

■ 生産地 スペイン リオハ地方
■ 生産者 ラモン・ビルバオ
■ ブドウ品種 テンプラニージョ
■ 味わい・香り ・・・ 色はガーネット。レーズンや香木を思わせる複雑な香り。官能的で上品なミネラルを感じるエレガントなフィニッシュで複雑な味わいで余韻長い。
■ 合う料理 ・・・ イベリコ豚のプランチャなどシンプルものから濃厚なソースの肉料理まで。

小笠原伯爵邸

小笠原伯爵邸
東京都新宿区河田町10-10
03-3359-5830
● 11:30~15:00 18:00~23:00
● 年中無休 予約制
● ランチ7,350円 、ディナー10,500円 / 15,750円
● 60席
www.ogasawaratei.com


梶田泉=取材、文星野康孝=撮影
text by Izumi Kajita photo by Yasutaka Hoshino

本記事は雑誌料理王国第230号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第230号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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