食とカルチャーを結びつける 『RiCE』編集長 稲田 浩さん


1.誰でもたどりつける存在、ポップ・カルチャー性

常に「目の前の食材にどう挑むか」という気持ちで調理を楽しみ、遊び心満載のノンジャンル料理を得意とするかと思えば、時には伝統的な正統派の料理が出てきたりもする。食材に寄り添い、その個性を十二分に引き出した料理なので、おいしいのは言うまでもありません。「粋いき場ば」の塚本亮介さんは、このタイプの代表です。

「culture」と同じ「colere」を語源にする言葉に「cult(カルト)」があります。「本物だけど広く知られていない」ことから、多くのインスパイアが生まれ、カルチャーが成立していく。予約が取れない店も、ある意味カルトで、そこから新しいフードカルチャーが生まれています。

一方カルトには、限られた人しか辿り着けない不平等さもあります。それをポップ・カルチャーとして誰でも辿り着けるものにしたのが、アンディ・ウォーホル。誰でも買えるボールペンを作って売るなど、カルトとのギャップを鮮明にしました。「サーモン・アンド・トラウト」の(森枝)幹くんは、このポップ・カルチャー的感覚を持っています。レストランをやりながら、レモンサワーの専門店「The OPEN BOOK」や、鯖の塩焼き専門店「鯖なのに。」といった、大衆的なものをリブランディングしています。

生井(祐介)さんの店「Ode」(広尾)には、フォーマルな服装からTシャツ短パンのラフな格好まで、さまざまな人が来ますが、彼らはみんなお洒落。独自の文化を持っているんです。「彼らのファッションスナップをしたら面白いんじゃないか」と、生井さんと盛り上がったこともあります。新時代の食通「Foodie」たちの中にも、ポップ・カルチャー的感覚があるのだと思います。

2.「王様は裸だ!」と言えるアウトサイダー

僕は、良い意味でも悪い意味でも一つの業界にいられないタイプです(笑)。音楽雑誌社の「ロッキング・オン」に10年務めた後、編集長としてファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊させ、12年続けました。そして今度は、食の雑誌を作っているわけです。

童話『裸の王様』では、絶対君主を前に何も言えない大人に対して、「裸だ!」と言っちゃう子どもたちじゃないですが、アウトサイダーだからこそ、言えることがある。アウトサイダーであるということは、帰属がないということだと思います。だからこそ、それぞれの壁を意識せずに繋ぎ、新しいカルチャーを生み出すことができる。それは、自分たち『RiCE』というメディアの特性だと思っています。

日本酒を化学的なアプローチで捉えて、新しい潮流を生み出している千葉麻里絵さん(恵比寿「GEM bymoto」)も「王様は裸だ!」と言っちゃうタイプ。日本酒をペアリングではなくて、ブレンドするとか絶対ダメでしょう、という人もいると思います。大学で化学を学び、一度はOLとして働きながらも、日本酒に携わる仕事をしたいという夢を叶えた彼女だからこそ、新しいことができる。「365日」「15℃」(富ヶ谷)の杉窪(章匡)さんも「王様は裸だ!」と言っちゃうタイプですね。

でも、アウトサイダーも良し悪しですよね。そもそも、アウトサイダーは、寂しいものですよ(笑)。

雑誌『RiCE』を開きながら。「現在のフードカルチャーの盛り上がりは、90年代にファッションで盛り上がった裏原宿と似ているんです。今でこそ、LouisVuittonとSupremeがコラボレーションしていますが、裏原以前は、ありえなかった。そういったジャンルを超えたコラボレーションが、食の世界でも起こっています」。

3.コミュニケーションをしっかり設計できる

「おいしいものを作っているから人が集まる」というだけでは、おいしいものが溢れる現代に、お店を続けていくことはできません。おいしいものを作るのは当たり前、それをどう伝えるかで差がつく。そう話してくれたのは、元「ティルプス」のシェフ、田村(浩二)さんです。

伝え方は人それぞれで、写真や写真に添える文章、それをブログで書く人もいれば、ポップアップレストランのような場を作る人もいていい。結局は「誰が作っているのか?」に、興味を持たせることができるか、ということです。そしてその料理がすごくおいしかったら勝ち。そのためには、コミュニケーションをしっかり設計できなければいけないと思います。そしてそれがエンターテイメントではないでしょうか。

田村さんは、「香り」というテーマを設計して料理を作っています。最初に食べたものが、時間を経て嗅覚を刺激して、ふた口目に食べたものとどうブレンドされるのか。そこまで設計して、それをもとにコミュニケーションを図っている。素材はもちろん、盛り付けや器、カトラリーまで意識しているのは、新時代のシェフの姿だと思います。

「ロッキング・オン」在籍時から住み続ける下北沢に『RiCE』の編集部はある。下北沢の街を歩きながらの取材を行った。

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