誰でも1軒や2軒、馴染みの店はあるだろう。
だが、新たに常連となった店はここ数年でどれだけ増えているだろうか。予約が取れない店には、ただ「おいしかった」では終わらせず、何度も再訪したくなる独自の取り組みが必ずある。
現在予約困難となっている人気店と、今後予約困難となりそうな新店を特集。各店の取り組みから、集客のヒントを見つけてほしい。
昨年、「ミシュランガイド東京 2021」で中国料理で初の三つ星に輝き、話題をさらった南麻布「茶禅華」。「麻布長江」でともに修業時代を過ごした、オーナーの林亮治さんとタッグを組み、順調に客足を伸ばし続ける理由を、シェフの川田智也さんご自身はどうとらえているのか。
川田さんにとって、林さんは修業時代の直属の先輩だ。仕事を教わっただけでなく、公私ともに懇意にし、それぞれ別の道へ進んだのちもよき関係が続いていた。
「台湾の『龍吟』で働いていた頃、東京でもし店をやるのであれば声をかけてね、と気にかけていただいていたのですが、店を正式に辞めるまでは何も決めていなかった。店を終えてひと息ついたときに、浮かんできたのが林さんの顔でした」
一緒に店をやろうと二人で決めた一週間後には、現在の物件を見つけ、即決した。開業にあたり、川田さんの頭には、すでに詳細なイメージがあったという。店名や席数、スタッフの人数に配置、ティーペアリングをやることも決めていた。それを具現化できる理想どおりともいえる物件に早々に巡り合えた。それは運が味方した訳ではなく、林さんのおかげだと話す︒﹁僕はわりと深く考えるタイプで、その分スタートが遅れることもあるのですが、彼は決断力と行動力がズバ抜けている。すごいスピード感で物事が動いていく。今、なんとか順調に進んでいるのは、全くタイプの違う二人が若い頃に出会えたことも、間違いなく理由のひとつといえます」
中国料理店で修業したのちに、日本料理店で研鑽を重ねるという異色の経歴を持つ川田さんだが、「麻布長江」の長坂松夫さんと、「龍吟」の山本征治さんにそれぞれ師事できたことが、人生の中でもっとも大きく重要な出来事だと話す。
「料理だけでなく、料理人として、人としての生き方を背中で見せていただきました。今なんとかやっていけているのは、師匠はもちろんですが、これまでの先輩、もっといえば中国料理をつくってきた先人の方々のおかげだと思っています。その積み重ねが歴史や伝統となって、その延長線上に僕も乗せてもらっている。今度は僕が若いスタッフや未来へつなげていく番です」
そんな川田さんが挙げた、もうひとつの成功の理由が「チーム力」だ。
最初は5人で始めた店も、客足を伸ばすとともにひとり、ふたりと増え、今ではスタッフが倍以上の数となったが、開店時と変わらぬ和を保ち続ける。現在、厨房には寿司、フレンチ、日本料理といったさまざまなジャンルの料理人が集い、さまざまなアイディアが飛び交う。料理への志が高ければ、ジャンルは関係ないと川田さんは話す。おいしい料理でお客さまを喜ばせたいという根底は、同じだからだ。ジャンルを越えて技術を学び合うことで、お互いを敬い、結束力も自然と高まる。「店は個人競技ではなく、団体戦。サービスに磨きをかけた高いチーム力があれば、そこに漂う“陽”な空気がお客さまへ必ず伝わる、と確信しています。そのためにはお客さまを見つめて、自分達自身を顧みること。あとは、おいしい料理を提供できれば、本質的な、理にかなったこと以外の過剰な演出は必要ありません。お客さまにとっては、食べたときの感動こそが一番のエンターテインメント。おいしさとお客さまを第一に。それこそが本質です」
茶禅華
Sazenka
東京都港区南麻布4-7-5
050-3188-8819
● 17:00~23:00( 21:00LO)
● 日・月休(不定休)
● コース 20000円~
● 26席
http://sazenka.com/
君島有紀=取材、文 土岐節子=撮影
text by Yuki Kimishima photos by Setsuko Doki