「今年1月1日の1日の売り上げが、オープンから16年弱で最高を記録しました。こんな時代に有り難いことだと思います」と「スーツァンレストラン陳」の総料理長、菰田欣也シェフは目を細めて言った。
同店のオーナーは陳建一さん。2001年の開店から料理長を務める菰田さんは、専門学校を卒業して赤坂四川飯店に入社。陳建一さんの父で、「日本における四川料理の父」と呼ばれる陳建民さんの薫陶を受けて育った一人だ。
「スーツァンレストラン陳」は、もちろん本格的な四川料理店だが、伝統的な四川料理に菰田さんの斬新なアイディアを盛り込んだ、この店ならではの料理が楽しめる。
中国料理やフランス料理、日本料理というジャンルを超えて野菜をどう扱い、メニューに取り込んでいくかは、日々、多くの料理人が頭を悩ませていることだろう。豊富な野菜を使いこなすことでも知られる菰田さんに、その秘技を聞いた。
「野菜使いの基礎の基礎は、大きさを揃えて切ること」と菰田さんは言う。それは火の通りを均一にするためで、その上で、揚げるときは、野菜の風味や水分を逃がさないために、コーンスターチでコーティングする。野菜の旨味や栄養分を余すことなく食べられるように、じっくりと煮て"スープ"仕立てにする。お任せで大量に仕入れる大切な野菜は、無駄にしないために一部を必ずセミドライにする。これは、中国料理の伝統技というよりは、菰田さんのアイディアだ。
「乾燥させることによって、旨味がギュッと凝縮されて、味わいが増すうえ、食感も変わります」
四川省は野菜が豊富な地。現地の人々もよく食べる。そういう土地柄の料理を学び、調理し続けている菰田さんの中には、それぞれの野菜の特性がインプットされている。
「これは経験値。教えてもらって覚えられるものではない。だからこそ、僕はみんなに『いろんな野菜を試してほしい』と言っています」
研究熱心でアイディアマンの菰田さんは、西洋料理の技法を中国料理に活かすことにも力を入れる。例えば青椒肉絲(青椒肉絲)。本来は牛のもも肉を使うが、あえてサーロインを使う。「ただし、サーロインは脂が多いから、もも肉と同じように調理したら脂っぽくなってしまう。だから、真空調理をするんです」
肉は、58度で2時間真空調理する。その後、ピーマンと合わせて味を調える。まさに、青椒肉絲の再構築だ。