第13回目となる「ワイン&グルメジャパン」が、コロナ禍を経て3年ぶりに開催された。未輸入の外国産ワインも出展する見本市で、来日した生産者自らがポートフォリオをアピール。品質の向上が目覚ましい日本ワインを紹介するコーナーもあり、ノンアルコールワインのセミナーも開催された。この会場で見た、現代のワインシーンのムーブメントを象徴するトピックをピックアップしてリポートする。
スペイン南部アンダルシア州でモンティーリャ・モリーレスのペレス・バルケロ(Perez Barquero)は、酒精強化ワインであるシェリーを得意とするワイン生産者。この地方特有のアルバリサという石灰質土壌の畑で、ペドロ・ヒメネスを中心に栽培している。ペドロ・ヒメネスは高い糖度のポテンシャルをもち、極甘口のシェリーが造られるブドウ。ペレス・バルケロではシェリーの味わいや伝統的な醸造方法をベースにした、新しいタイプのワインを開発した。
写真左から「G1 ブリュット・ナチュール 2021(G1 Brut Nature 2021)」はペドロ ヒメネス100%で瓶内二次発酵のスパークリングワイン。コルドバ大学と産学協働で開発したG1というフロール酵母で二次発酵を行い、きめ細かな泡立ちでキリッとした酸とイースト香が感じられる。「フレスキート ヴィノ・デ・パスト 2019(Fresquito Vino de Pasto 2019) は辛口に仕上げたペドロ・ヒメネスのワインをフィノ・シェリーの樽で熟成したドライな白ワイン。レモンやアーモンドのアロマ、アフターにほんのりした塩味を感じ、フードフレンドリーな味わい。「フィノ・コルデラ 2021(Fino Corredera 2021)はペドロ・ヒメネスで造るライトなスタイルの辛口シェリー。ローストしたヘーゼルナッツやピスタチオのクリスピーなニュアンス、かすかにビターで豊かな果実味。食中酒としてもよい。いずれも甘口タイプにとらわれない、ガストロノミックでモダンなスタイルのワインである。
(本展示会後に、一部は駒形前川にて取り扱いが決定)
長く独裁政権下でほとんどが国内で消費されていたポルトガルワイン。EU加盟後に近代的なワインメイキングが普及し、品質が飛躍的に向上している。そうした最新技術を駆使しつつ、伝統製法を復興させ、クリーンでモダンなスタイルのワインを造るワイナリーがポルトガル各地に見られる。2000年にプロジェクトがスタートした南部アレンテージョのエルダーデ・ド・ロシム(Herdade dos Rocim)もそのひとつ。
アレンテージョでは2000年前よりターリャと呼ばれる粘土製の甕で発酵や熟成を行うワイン造りが行われていた。温度管理などの作業が難しく、近年はステンレスタンクやバリックに取って代わられていた。ロシムの醸造家ペドロ・リベイロはこのターリャがワインに与える質感や穏やかな発酵とゆっくりとした熟成の効果に着目。できるだけ人的介入を減らしながら、細やかで丁寧な作業をすることで、ターリャによるナチュラルなワイン造りを実践している。
ワイナリーは1000Lサイズのターリャを18基所有、内部を裏打ちせずに粘土の質感が与えるミネラル感と、フレッシュで落ち着きのある味わいを目指す。「フレッシュ・フロム・アンフォラ ナット・クール ティント(Fresh From Amphora Nat Cool Tinto)は、希少な土着品種を用いた軽やかでフレッシュなテーブルワイン。「クレイ・エイジド(Clay Aged )」は自社畑の粘土で作った150Lのクレイポット16カ月熟成の赤ワインで繊細で複雑な味わい。いずれも、ずっと飲み続けられる心地よさを備えたワインだ。
(一部は岸本にて取り扱い)
西ヨーロッパではもっとも古いワイン生産の歴史をもつギリシャ。1970年代から本格的に始まった高品質ワインの取り組みによって優れた生産者も増加し、国際品種によるワイン造りも盛んになると同時に、200種もの土着品種から個性的なワインが造られている。中でもユニークなのが、松脂の風味を加えて造るフレーバードワイン、レツィーナだ。
主要産地は、中央ギリシャに位置し首都アテネに近いアッティカ。この地で栽培されるサヴァティアノから造る白ワインがレツィーナのベースになる。アッティカのブースではすべて異なる生産者によるレツィーナ10種類が並び、いろいろなタイプを比較試飲することができた。松の葉やローズマリーのボタニカルなフレーバーをもつクラシックなものやフローラルなアロマのあるもの、樽熟成させたタイプなど多彩なスタイルだ。
古代ギリシャで、天然の防腐剤となる松脂をワインの保存容器に塗ったことから誕生したレツィーナ。20世紀にギリシャの観光ブームで安価でさまざま品質のものが出回るようになり、必ずしもポジティブなイメージだけではなくなっていたが、上質でオリジナリティのあるレツィーナへ意欲を見せるワイナリーが増えていることがかわかる。ギリシャ出身のマスター・オブ・ワイン、コンスタンティノス・ラザラキス氏曰く、「レツィーナは料理を選ばず飲めてフードフレンドリーなワイン」。目にする機会があれば試してみていただきたい。
(一部はアズマ・コーポーレーションにて取り扱い)
品質の向上が謳われる日本からは、山梨、長野、北海道という代表的な産地のワイナリーが参加。山梨県勝沼市の勝沼醸造、長野県須坂市の楠わいなりー、北海道のワイン生産者団体の道産ワイン懇談会がブースを並べた。
〔勝沼醸造/山梨〕
日本ワインのお膝元“勝沼”を社名に冠する勝沼醸造は、1937年創業の老舗ワイナリー。日本を代表する固有品種、甲州に特化し、そのポテンシャルを引き出しながら高品質のワインを造り続ける。この日は瓶内二次発酵のスパークリングワイン「ブリリャンテ」やシュールリー製法の「クラレーザ」、単一畑の「イセハラ」まで、自社のポートフォリオをラインナップ。セールスを統括する有賀淳氏は「ワイン&グルメ ジャパンはワイン関係者だけでなく、食に携わる多くの人と触れ合える機会。ジャンルを超えた出会いも多い」という。美しいエチケットにも惹かれた外国人ゲストが、その奥行きのある味わいを確かめていた。
〔楠わいなりー/長野〕
「定点観測の意味もあり、毎回出展している」と語るのは、長野県須坂市の楠わいなりー代表 楠 茂幸氏。マスター・オブ・ワインが集まるシンポジウムでゲストスピーカーとして招聘されるなど海外からも注目される造り手である。かつて桑しか育たないとされた須坂の扇状地、日滝原にブドウ栽培地としてのポテンシャルをいち早く見出し、セミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンドであるフラッグシップをはじめ、和食に寄り添う優しい味わいのワインを造る。2018年に最上位のプレミアムシリーズをリリース。この日は、国内外のコンクールで評価されたピノ・ノワールや樽熟成のシャルドネも紹介され、そのクオリティを食のプロたちが実感した。
〔道産ワイン懇談会/北海道〕
ブドウ栽培適地の北上に伴い、ワイン用ブドウ畑が急増している北海道。空知、余市の二大産地から道内各地へと畑は広がり、現在55のワイナリーが稼働している。36のワイナリーが参加する道産ワイン懇談会から、14ワイナリーが参加。ケルナーやゲヴェルツトラミネール、ミュラートゥルガウなどの冷涼地品種や寒冷地でも熟しやすい黒ブドウ、ヤマ・ソーヴィニヨンなどから造られたワインが並んだ。池田町が開発し、日本発の国産ブドウ品種として登録された「山幸」やモーツァルトの交響曲と奥尻の波の音でタンクを振動させて醸造した「風揺139.4,42.1メルロー2022」などは特に話題を呼び、終日盛況を見せた。
ビジターの多くが立ち止まっていたのが、スペイン産オリーブオイルの一角。世界のオリーブオイル生産量の約50%を占めるスペインでは、200種類以上の品種が栽培される。インフォメーションブースでは日本オリーブオイルテイスター協会のメンバーが、単一品種やブレンドによるオリーブオイルのテイスティングをナビゲート。ワイン同様、オリーブオイルも品種構成や製法に味わいに違いが出ることを紹介。
輸入会社ユーロパスではアンダルシアで1780年から続くカスティージョ・デ・カデナのオリーブオイルを紹介。フルーティで爽やかなピクアル種や青バナナのようなマイルドさをもつアルべキーナ種、また、産地が限られるため収量も少ないロイヤル種から搾ったオイルを生産している。アルべキーナのオイルに独自の製法でスモーク香をつけたものも。かけるだけで燻製風の料理ができあがる便利なアイテムとして好評を博した。
ノンアルコールのワインやスピリッツなど、オルタナティブ アルコール市場は日本でも堅調で、ワイン専門誌「ワイン王国」でもノンアルコールを特集するほど。本展示会の協力メディアである同誌は、記事中でテイスターを務めたワインディレクター田邉公一氏を講師に迎えてセミナーを開催。ハイクオリティなノンアルコールワインと、それに合わせる料理を紹介した。田邉氏は、日本のレストランでペアリングを実施したソムリエの先駆けでもあり、マリアージュのスペシャリストとしてメディアからも絶大な信頼がある。
用意されたのはブラン・ド・ブランのスパークリングワインや複雑な味わいのロゼ、樽熟成させた赤など6アイテム。いずれも、スピニングコーンカラムなどの最新鋭技術でアルコールを除去しつつ、発酵によって生まれた風味や味わいが生かされた高品質のオルタナティブ・ワインだ。さらに田邉氏が考案したモクテルのデモンストレーションも行われた。ウォーターブルック クリーンの樽熟成のシャルドネに麦茶と加え、泡立てるようにソーダを注ぐと、これからの季節にぴったりのノンアルコールビール風カクテルに。会場ではこれに合わせて焼き鳥が提供され、参加者はサプライジングなペアリングを楽しんだ。
古来のブドウや製法を守りながら、より現代的なスタイルを追求する伝統産地の革新的な造り手や、品質の向上が著しい日本。一方でノンアルコール嗜好の高まりに応える本格的な味わいのオルタナティブワイン。そんなトレンドを垣間見ることができた「ワイン&グルメジャパン 2023」。来年は世界最大のワイン展示会ProWineの東京バージョンとしてリブランディングを予定している。日本にいながら、ワイン界の潮流を身近に体感できる機会になるだろう。
text, photo:谷 宏美