前回までの講座で、ワインの世界における一般的な評価基準を学んできた。今回からは、自らワインの味わいを知るために必要な知識を身に着けて行く。
その最初の項目が「土性の味わい」だ。
ワインの味わいに関する用語の中で、近年頻繁に耳にする「土地(テロワール)の味わい」という表現があるが、このテロワールとは、いったい何を指すのだろうか。ワインの世界では、2通りの意味を持つ。その土地の土、人間、文化、技術、気候など、ワインに関わるすべての要素を指す場合。もうひとつは、ブドウの植わる畑(土)を指す狭義の意味でのテロワールだ。本連載では後者に注目し、味わいにどのように影響するのかを考えてみよう。
土は(1)土性(2)岩石(3)地質年代の3つの要素で分類できる。(1)の土性は、砂や粘土など土の粒子の大きさで分類したもの。(2)は石灰岩、花崗岩など、岩石の種類。(1)はジュラ紀、三畳紀などその土が生まれた地質年代である。この3つの中で(1)の土性、(2)の岩石による味わいの違いは、意識的にテイスティングするとかなり明確にわかる。
今回は土性の違いに注目する。ブドウ畑の土性は、相対的に砂や砂利の多い畑と粘土の多い畑の2種類に大別できる。同じブドウ品種、同じヴィンテージで、異なる畑に植わるブドウから造るワインを比較した場合、生産地に関わりなく、それぞれの土性に共通する「砂質系土性の味わい」と「粘土系土性の味わい」とでもいうべき特徴が存在する。
味わいの中でも、その違いをもっとも強く感じるのが、質感と重心だ。砂質系の畑から生まれたワインは、表面の質感は文字通り砂のようで、緻密ではなく、内部は柔らかく、骨格が緩い。また、重心は上方向に伸びる。風味の点では、軽やかで酸が低く、フルーティ。サラサラ、フワフワという形容があてはまる。
反対に、粘土系の畑から生まれたワインは、かっちり、しっかりした味わいになる。表面の質感が緻密で、内側は固く、骨格も堅い。重心は下方向に伸び、風味としては土やミネラルが中心で、酸味も強めだ。
それぞれの土性によるワインの味わいのイメージ図。砂質系は鼻の周囲にとどまり、粘土系は鼻の下に広がる。
試飲したフランスとチリのワインは、地理的には全く異なる産地でありながら、先述のふたつのタイプの味わいに明確に分類できる。それぞれのワインのコメントに、味わいの大きさと重心を組み合わせた図表を添えた。これを見ると、砂利も含む砂質系の土性のワインは、鼻の周囲に味が広がるのに対し、粘土は鼻よりも下に沈んで行くイメージがある。
このようにワインから感じる味わいを頭の中で視覚化すると、記憶がしやすくなる。また、この味わいの形は食材にも共通しているので、料理とのマリアージュもより考えやすく、成功度が高くなるだろう。
(A) ワイン名 (B) 生産者名 (C) 産地 (D) 品種 / ヴィンテージ
(A) サヴィニー レ ボーヌ ルージュ 「レ・ブルジョ」
(B) ドメーヌ シモン・ビーズ
(C) フランス ブルゴーニュ コート・ド・ボーヌ
(D) ピノ・ノワール/2009
広がりはやや小さく、丸みを帯びた横長の形。重心は高く、余韻は短め。質感は表面は中程度の硬さで、中はやわらかく、芯は中程度の堅さ。酸は低くソフトで滑るように広がる。イチゴのようなフワッとした風味。
(A) サヴィニー レ ボーヌ ブラン
(B) ドメーヌ シモン・ビーズ
(C) フランス ブルゴーニュ コート・ド・ボーヌ
(D) シャルドネ / 2009
広がりはやや小さく、丸味を帯び、輪郭の不明瞭な横長の形。余韻は短め。重心は高い。質感は表面から芯まですべて柔らかい。酸は低くソフト。ふわふわと広がる。温かみのあるパイナップルやレモンコンフィの風味。
(A) アルボレダ カベルネ・ソーヴィニヨン
(B) アルボレダ
(C) チリ アコンカグア・ヴァレー
(D) カベルネ・ソーヴィニヨン カベルネ・フラン 他/2010
広がりは中程度で丸味を帯びた横長の形。余韻は短めで重心は高い。質感は表面はやや軟らかく、内側は薄く柔らかく、骨格は緩い。若干シンプルな温かみのあるフルーティさが中心となる風味。
(A) カリテラ トリビュート シャルドネ
(B) カリテラ
(C) チリ カサブランカ・ヴァレー
(D) シャルドネ/2010
広がりは小さく、横に長く、上に沿った弓型の形。余韻は短めで重心は高い。質感は表面から内部に至るまでソフトで、肉付きは薄いが、どこにも引っ掛かりを作らない。酸は低くソフト。パイナップル的で優しい風味。
(A) ショレ レ ボーヌ ルージュ
(B) ドメーヌ トロ・ボー
(C) フランス ブルゴーニュ コート・ド・ボーヌ
(D) ピノ・ノワール/2009
広がりはやや小さく、上側が丸く下側が四角い形。余韻は中程度。重心は真ん中から下に行く。質感の表面はなめらかで緻密、中身は柔らかく、芯は堅い。酸は高めで硬質、下方向にしみ込む。ハーブやスパイスの風味。
(A) カリテラ トリビュート カベルネ・ソーヴィニヨン
(B) カリテラ
(C) チリ コルチャグア・ヴァレー
(D) カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ / 2010
広がりは中程度で、上が丸く下が四角く、縦長の形。余韻は中程度で重心は低め。質感は表面が硬く緻密で、中身は柔らかく厚みがあり、芯は堅い。酸は高めで硬質で、下方向にしみ込む。ハーブやスパイスの冷たく固い香り。
index
1.ワインをテイスティングするとは?
2.ワインの格付けとはなにか?(1)
3.【初心者のためのワイン講座3】ワインをテイスティングするとは?
4.【初心者のためのワイン講座4】土性による味わいの違い
伊藤由佳子 = 文 水田デザイン、ソリマチアキラ = イラスト