土性、岩石、ヴィンテージなどブドウを取り巻く要素に加えて、ブドウの品種そのものも、ワインのキャラクターを決める要素としては欠かせない。どの土地で育つブドウであっても各品種の味わいは共通している。
これまで、土性、岩石、ヴィンテージなどの要素からワインと料理の相性について考えてきたが、もうひとつ、考慮しなければならない要素としてブドウ品種が挙げられる。岩石や土性は、2〜3種類の性質に大別すればワインの味わいを分析することができた。ところが品種の場合は、一般的に名前を知られているものだけでもシャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーなど6種類はある。
さらに各ワイン生産地にある地場の品種を合わせると膨大な数になる。しかし、料理との相性を考える際にとらえるべき特徴は共通しているので、さまざまな地域から同品種のワインを集めて比較し、特徴をとらえていくしかない。シャルドネを例に味わいの特徴を考えてみよう。
それぞれの品種が持つ味わいのイメージは、産地が異なっても形状は共通している。
まず注目すべきは、これまで学んだ味わいの「広がり」がどんな形を描くかという点だ。テイスティングの結果は左ページの通りだが、当初学んだ「大小」ではなく形に注目してみよう。どの国のどのエリアのシャルドネであっても、おおむね同じ形を描いているのがわかる。香りに強さがないため、上部は丸く広がりなめらかな形をしているが、舌に残る下部の質感はかたい。まるでマフィンのような形として認識できる。
次に押さえたいのはそれぞれの品種が持つ味わいの「流速」。口の中で味が前から奥に流れるスピード感だ。シャルドネの場合はすべて流速が遅い。リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、シラーは速いが、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワールは遅い。速い場合を「すっきり」、遅い場合を「こってり」と印象に置き換えることもできる。ただしこの感覚は、味わいがどれだけ口中にとどまるかという「余韻」とはまた異なっていることに注意したい。
料理と合わせる上では、前述の形だけではなくこの流速を合わせるのもポイント。一般的に脂肪が多い素材や、とろみのついた料理は流速が遅くなる。たとえば牛肉の赤身とポン酢の組み合わせは流速が速いが、脂身の多い部位とデミグラスソースの組み合わせでは流速が遅くなる。脂肪だけではなく、くずでとろみをつけた餡かけなどの場合も同様だ。
ホタテを例に考えてみよう。シャルドネの質感のかたさに合わせて生ではなくソテーにするのが順当だろう。さらに脂肪の少ないホタテの流速を遅くするためには、たとえばフュメ・ド・ポワソンにバターやクリームを加えたソースを添える、といった思考法をするのである。
(A) ワイン名 (B) 生産者名 (C) 産地 (D) 品種 / ヴィンテージ
(A) フランシスカン ナパ シャルド
(B) フランシスカン エステート
(C) カリフォルニア ナパ・ヴァレー カーネロス
(D) シャルドネ/2011
拡散型。広がりは大きく、重心は上にあり、形は水平的。質感は、表面は強めの樽のタンニンを感じさせて硬いが、内側はぽってりと柔らかく、芯は緩い。上半分の円弧状の形は明確にわかるが、下半分の形は四角いとはいえ若干輪郭があいまい。酸は大変に低く、フルーティな風味。
(A) ハーディーズ ウームー シャルドネ
(B) ハーディーズ
(C) 南オーストラリア アデレード・ヒルズ
(D) シャルドネ/2007
集中型。広がりは中程度で、重心はやや上にあり、形は垂直的。とくに下方向への伸びが顕著で、上半分は丸くて下半分が四角いというシャルドネ独特の形が明確にわかる。質感は芯が堅く、内部と表面はややかたい。風味は温暖な傾向で、酸はしなやかでいて清涼感があり、余韻は長い。
(A) ブラミート・デル・チェルヴォ・シャルドネ
(B) アンティノリ
(C) イタリア ウンブリアIGT
(D) シャルドネ
拡散型。広がりは比較的大きく、重心はやや上にあり、形は基本的に円形。上に向かう力が強くのびやかな印象。質感は全体的にやわらかく、フワフワしているが、やはりシャルドネらしく下半分のほうが上半分よりもかたい。酸は低く、風味は太陽を感じさせる温かみがある。
(A) シミ ソノマ・カウンティ シャルドネ
(B) シミ ワイナリー
(C) ソノマカウンティ ロシアン・リバー・ヴァレー
(D) シャルドネ/2010
拡散型。広がりは大きく、重心は下にあり、胃袋への収まりがよい安定性があるが、決して重たくはない。形はやや垂直的でとくに上方向への立ち上がりが大きく、口の中でエネルギーを感じる。表面の質感はやや硬く、内側と芯はやや柔らかい。風味は涼しげで酸もすっきりしている。
(A) シャブリ
(B) ブシャール エイネ・エ・フィス
(C) フランス ブルゴーニュ シャブリ
(D) シャルドネ/2010
拡散型。広がりは小さめで、重心は粘土系の土性を感じさせて若干下にあり、縦長の形。広がりの下半分は明確な堅さがあり、ズンと下に押してくる印象。表面も硬めで、酸の強さもあり、全体にメリハリがはっきりとしていて、シャブリというワインに期待する特質をよく表している。
(A) エクセラント かみのやまシャルドネ
(B) サントネージュ
(C) 日本 山形県蔵王山麓かみのやま
(D) シャルドネ
やや集中型。広がりは小さく、重心はやや上にあり、形は水平的。とくに下半分の輪郭の四角さは非常にあいまいで、まるで水彩画のにじみのようなグラデーションでフワフワと流れる独特の個性。質感は表面から芯まですべて徹底的にやわらかく、水気を帯びたようにしっとりしている。
伊藤由佳子=構成、文 text by Yukako Ito