羊肉の部位の中で最も特徴的なのは、間違いなく背肉(ラック)だろう。
牛肉に例えればロースにあたる背中の部分は、背骨から伸びる肋骨に沿って切り分ければラム・チョップとなる。赤身と脂と筋を同時に味わう部位のため、熱の加え方には論理と技術がともに必要。また、輸出国によって品種、飼育環境、飼料、肥育日数などが異なるため、味わいもまた百者百様。
ここでは「味わい」と「加熱」の2つのテーマで、ラム・ラックを紐解いてみる。
国内に出回る羊肉の99%以上が輸入肉。輸入金額は2015年から2018年の3年で1.5倍に増え、首都圏のスーパーにも羊肉が並ぶようにもなった。このような動きに呼応して、日本への羊肉の輸出国がここ数年増え続けている。2017年にフランスが、2018年にはアメリカ産が、2019年にはイギリスはウエールズ産とアルゼンチンはパタゴニア産がそれぞれ輸入解禁され、日本で味わうことのできる羊肉のバリエーションが増えている。飼育環境、飼料、肥育日数、そして品種もそれぞれ異なるので、国・地域によって味わいもまた百者百様。今回は撮影時点で入手可能だった7ヶ国のラム・チョップを同じ条件で焼き、食べ比べることにしてみた。
笹川幸治
プティバトー/オーナーシェフ
「タイユバン・ロブション」(東京・恵比寿)、故ベルナール・ロワゾー率いる「ラ・コート・ドール」(仏・ソーリュー)などを経て2002年に独立。シェフにとって羊肉とは「地に足が付いたご馳走。齧ったら『美味しいね』と文句なしに言える肉」。ラム・チョップを焼くなら、この人!
梁 宝璋
味坊グループ/オーナー
中国東北地方料理の「味坊」(東京・神田)、中国で食べられている羊肉料理をサンプリングして提供する「羊香味坊」(東京・御徒町)のオーナーにして、羊の丸焼きを提供できる宴会スペース「吉味東京」(東京・六町)を2020年1月に開店。羊肉のナレッジの塊。羊肉を食べるならこの人!
菊池一弘
羊齧協会/主席
羊肉を日常的に楽しめる環境を消費者主導で構築することを目的とした「羊齧協会」の主席として2000人を超えるメンバーを先導。毎年11月に開催する「羊フェスタ」では2日間で3万人の集客を誇る。多様な国の羊肉賞味歴を誇るが一度に味比べをする機会は初。羊肉を吟味するならこの人!
2015年まで4ヶ国のみだった輸入国はわずか5年で急増中。厚生労働省によれば2020年1月時点で羊肉の輸入が可能な国は10ヶ国。今回はその中から以下7ヶ国の羊の背肉(ラック)を手に入れた。
Argentina
アンデス山脈の草原地帯で、
自生する牧草を喰む“自然派”飼育。
Australia
牧草で10ヶ月肥育する大柄羊。
チルド輸送も完備する輸出大国。
France
2017年に輸入が再開された、
ブランド羊肉パラダイス。
Iceland
世界的に希な純血の古代種が、
島全体を闊歩する羊の王国。
New Zealand
欧州への輸出が多いNZ産は、
肥育期間が短い小ラムが主体。
USA
出荷前にコーンや大麦を与え、
大きく育てる点が味の決め手。
Wales
丘陵地でハーブを食べて育つ、
土着品種が世界中で大人気。
※上記はアルファベット順で並べた ※2015年時点で羊肉を日本に輸出していた国は、オーストラリア・ニュージーランド・アイスランド・ハンガリーの4 ヶ国のみ ※動物検疫所が認可している「偶蹄類動物の肉等の処理施設」を調べると、羊肉の輸入が可能な国は、アイスランド、アイルランド、英国(スコットランド・ウェールズを含む)、ハンガリー、フランス、スペイン、アメリカ合衆国、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドの10 ヶ国