ラム・チョップを極める!7つの国のラム・チョップを、徹底的に食べ比べ


休ませながら、フライパンで。味付けは塩のみで焼き上げた。

今回はラックを骨2~3本の厚さで切り分け、脂に格子状の切り込みを入れてから、脂を焼き切るイメージで皮目(脂の部分)を下にしてフライパンで加熱。皮目→両側面→骨を上に向けた状態の順にこまめに休ませながら加熱し、最後に再び皮目を下にして1~2分間180℃のオーブンで加熱する。この行程を3~4回繰り返す。ちなみに基本的にはアロゼはしない。各々水分量が異なるため、仕上がりまでの時間は異なるが、焼きながら温度を一定に保つことを意識した。

笹川シェフは濃厚な“羊感”を味わえるオーストラリア産とニュージーランド産に軍配を上げたが「生の状態も味わいもこれほどまでに違いが出るとは…本当にどれも美味しい」という発言も。…さて、7つのラム・チョップはそれぞれどのように美味しいのか?

Argentina アルゼンチン

赤身は牛肉風で脂には“羊感”。肉質柔らかで品良い味と香り。

口に入れた瞬間はとても牛肉っぽい。肉質は柔らかく繊細で、品の良い香りと味。しかし、噛めば噛むほど羊の香りと味がゆっくりと立ち上がる。余韻に羊感が長く残るのも印象的。うま味が濃いのも特長だ。「徐々にあとから利いてくる特有の味わいが長く続く。草原の風景を想像してしまう味わいだ(R)」「人の手がかかっていない感じのする味わい。脂がさらりとしていて上品なので食べやすい。後から羊感が追いかけてくる点が面白い。脂のトリミングによって羊感を調整できる肉(K)」

● 重量(ラック):ー 
● 平均枝肉重量:約9~16kg 
● 主な品種:アルゼンチンメリノなどの羊毛種 
● 平均的な飼育期間:約3~ 4 ヶ月 

● 主な飼料:牧草(生後1ヶ月間はミルク) 
● 取り扱い業者:NHジャパンフード株式会社

Australia オーストラリア

味も香りも食感も、羊感満点。ラム肉のお手本的な安定感。

最長で10 ヶ月肥育するとあって出荷時の個体も大きく、ラム・チョップのパーツも大きい。羊肉特有の香りが強く、食感はワイルド。脂に存在感があって後味まで“羊感”が余韻を引く。「(自分の店でも使い慣れているからか)羊肉としてのスタンダード感がある。香り・味・肉質ともに“標準”を感じる安定感。『羊肉
を食べた』という満足感がある(R)」「香りが良い意味で乗っていてワイルドな羊感を味わえる点が実に良い。脂がしっかりしているのも満足できる(K)」 …迷ったらオージーだ。

● 重量(ラック):0.9kg 
● 平均枝肉重量:20 ~ 24kg 
● 主な品種:メリノ種、ドーセット種、ボーダーレスター種、サフォーク種 
● 平均的な飼育期間:6 ~ 10 ヶ月間 
● 主な飼料:牧草(出荷の1 ~ 2 ヶ月前から穀物も併用して肥育) 
● 取り扱い業者:川島食品株式会社

France フランス

ワイルドに香り立つ“羊感”と、ジェントルな味わいが真骨頂。

焼いたあとの断面から、ふわりと「羊」が香り立つ。肉質は柔らかく、幼い羊であることを連想させる。脂に辛うじて“羊感”を感じるものの、香りと比べて味わいにはワイルドな羊っぽさがなく、ひたすら品良く口の中から消えていく。「ラムの香りは弱いが、肉っぽい存在感は感じる。赤身も脂も柔らかく味が濃い。肉好きの人にとっては満足感が高い肉だと思う(R)」「脂はしっかり羊なのに、赤身とともに食べると品良くまとまる。同時の肉質も柔らかく、肉として優秀です(K)」

● 重量(ラック):0,8kg 
● 平均枝肉重量:10 ~ 21kg(産地によって異なる) 
● 主な品種:BMC種など 
● 平均的な飼育期間:3 ~ 7 ヶ月間 
● 主な飼料:約70日を母乳で育てた後に穀物肥育を行うケースが多い 
● 取り扱い業者:株式会社アルカン

Iceland アイスランド

きめ細かい繊維と滑らかさ。上品な味わいだが、うま味濃し。

焼き上がった肉の断面は、見るからに繊維の細やかさが見て取れる滑らかな肌感。うま味は濃く長く続くが、味も香りも実に繊細で上品さが際立つ。「とても食べやすい。上品で優しい味わい。香り・味・肉質のバランスが繊細で、どことなく儚いイメージ。初めてラム肉を食べる人には受けると思う(R)」「緩やかな羊の香り。赤身はあっさりしており上品。野生味を感じる一方、きめ細やかさも秀でた味わい(K)」「あまりにも上品で羊を食べた感じがいささか弱い。が、うま味が濃い(S)」

● 重量(ラック):0.58kg(8本リブ) 
● 平均枝肉重量:14 ~ 16kg 
● 品種=アイスランディック種 
● 平均的な飼育期間:約4 ~ 5 ヶ月間 
● 主な飼料:牧草・苔・野生ハーブ類(スゲ、ヤナギ)・ベリーなどの果実 
● 取り扱い業者:グローバル・ビジョン株式会社

New Zealand ニュージーランド

終始優しい香りと味わいだが、 噛み進めると強まる“羊感”。

肉質がいとも柔らか。食べ始めの香りは穏やかだが、後味に香りが色濃く残る点が特徴的。うま味は薄めであっさりした味わい。「香りが優しく肉質が柔らかい。香り・味・肉質のバランスはオーストラリア産と似ている。しかし飼育期間が短く、個体が若いからか、ラム肉特有のクセが少なく、軽い味わい(R)」
「オーストラリア産に近い香りと味わい。しかし、オージーに比べて羊特有の味が弱く、肉質が柔らかい。一方で食べた後に口の中に居残り続ける“ラム感”はダントツ(K)」

● 重量(ラック):0.5~0.6kg 
● 平均枝肉重量:15~16kg 
● 主な品種:ロムニー種・メリノ種・コリデール種・サフォーク種など 
● 平均的な飼育期間:4 ~ 8 ヶ月間 
● 主な飼料:牧草(出荷直前に穀物肥育するケースもあり) 
● 取り扱い業者:川島食品株式会社

USA アメリカ合衆国

抜きん出たパーツの大きさ。チーズ香が主張する独特な味わい。

パーツの大きさは群を抜く。味も香りも羊っぽさが薄く、牛肉のような味わい。焦がしたチーズのような独特の香りがあり、それがアクセントになって美味しく感じる。肉質はオージーに次いでワイルド。「すごく美味しいのだが、ラムとしての特長が弱い。とても美味しい牛肉を食べている感じがした(R)」「見た目にも繊維が粗い。香りも味も羊っぽくないが、脂がうまい。確かに脂からは羊の香りがするものの、後味は残らず羊っぽさが消えやすい印象。肉として食べればとても美味(K)」

● 重量(ラック):1.1kg 
● 平均枝肉重量:約27 ~ 36㎏ 
● 主な品種:サフォーク種など肉用種の交雑種 
● 平均的な飼育期間:約8 ~10 カ月
● 主な飼料:出荷される1 ~ 2 ヶ月前からコーンなどの穀物で肥育 
● 取り扱い業者:NHジャパンフード株式会社

Wales ウェールズ

独特な“羊感”と繊細さが同居。長く続くうま味が味わいの要。

品の良い香りと味わいだが、うま味の濃さは7 ヶ国で一番かもしれない。その濃いうま味が長く続き、余韻も引っ張る。残り香も上品。肉質は弱冠の噛み心地を感じる程度で柔らかい。脂の奥深い甘さも特徴的。「羊特有の香りが実に強くて、同時に優しい。肉質も繊維も細やかで歯ざわりも穏やか。ウェールズはなかなかいい感じですねえ(R)」「香りがとても上品で、肉質は柔らかい。食べ慣れた“羊感”と繊細さが同居するという意味で味の系統が今までのラム肉とはちょっと違う印象(K)」

● 重量(ラック):0.5 ~ 0.6kg 
● 平均枝肉重量:約22kg 
● 主な品種:ウェルシュマウンテン、サフォーク、ドーセットなどの交配種 
● 平均的な飼育期間:約5 ヶ月(時期によって10 ヶ月)間 
● 主な飼料:ハーブを含む牧草 
● 取り扱い業者:トップ・トレーディング株式会社


text 水 亨一 photo 八田政玄、よねくらりょう

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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