「羊をめぐる冒険」に出よう!〜45ヶ国地球一周羊旅〜


 訪れた国は45ヶ国、地球一周の「羊を巡る冒険」を実行した人物がいる。山形県米沢市の羊肉専門精肉店「なみかた羊肉店」の行方進之介さんだ。そもそも日本は肉歴の浅い国。「特に日本の羊食の歴史は70年ほど。メソポタミア文明の頃から1万年以上かけて培われた世界の羊文化や羊食の知恵を知識として知ることはできるが、それを経験にアップデートしたかった」という行方さんに、約180日間にわたる「世界羊旅」で印象に残った10のことを挙げてもらった。

1. 南アフリカ

 南アフリカのカルー地方で生産されるブランド「カルーラム」は、自生するハーブ類を食べて育つため、味・香り・脂肪と肉の組成が秀逸。オランダの大学による分析では脂肪と赤身からローズマリー・柑橘類・レモンの香りの揮発性化合物が検出されたという。主な品種は南アフリカ原産のドーパー種だ。

2.スイス

 「世界一可愛い」とも称され、アメリカにはファンクラブがあるほど人気の「ヴァレーブラックノーズシープ」は、マッターホルンなど4000m級の名峰群を擁するスイス南部のヴァレー地方原産の希少種。生産者直営のレストランでラムのローストを味わった。風味穏やかであっさり。テクセル種に近い味だ。

3.アルゼンチン

 南緯40度付近を流れるコロラド川以南の地域のブランド「パタゴニアンラム」はコイロンというイネ科の草を食べて育つ。品種は羊毛の評価も高いアルゼンチンメリノ種。南極ブナの薪を火力に、塩、ニンニク、水を混ぜて作ったサルムエラを塗りながら3時間丸焼きにする。しっとりとした肉質で脂身も甘い。

4.モンゴル

 アルミ製のミルク缶に羊肉・野菜・焼けた石を重ね入れて蒸し焼きする「ホルホグ」や、羊の肉を塩茹でにした「チャンサンマハ」など、モンゴル遊牧民の伝統的な料理と屠畜方法を学んだ。血を流さずに屠畜し、蹄、毛皮、胆嚢以外はすべて(まるで羊肉を主食のように)食べる彼らから羊に対する感謝を学ぶ。

5.キルギス

 遊牧民の文化と多様な羊肉料理が残る中央アジア、キルギス。首都ビシュケクから車で4時間の高地へ。このナリン州の羊肉は格が違うとキルギス人は口を揃えて言う。バザールで羊を買い、独特な吊り下げ式屠畜を教わった。中央アジアの羊は尻に脂を蓄え、代謝水をつくる脂尾羊が主流。渇水に強いのだ。

6.メキシコ

 バルバコアは、地面に掘った穴を大量の薪で熱し、マゲイ(テキーラの原料にもなるリュウゼツラン)の葉で包んだ羊肉を入れ、8~16時間蒸し焼きにする料理法。タマネギやコリアンダーを乗せ、ライムを絞ってタコスで食べるのが一般的。トルティーヤよりも肉のほうが柔らかな食感なのに驚く。

7.アイスランド

 アイスランディック種は1000年以上も他品種と交配されることなく現在に至った世界でも稀な純血の羊。他の種の国内への輸入は法律で禁止され、厳重に血統管理されるので品種による味の差はない。仔羊は5月頃に生まれ、9~10月まで国中を自由に駆け回り、おいしい肉へと出世する。

8.フランス

 フランス北部のモンサンミッシェル付近に点在する低湿地帯で、好塩性の植物を食べて育つ「アニョー・ド・プレ・サレ」は美食家たちの垂涎の的。放牧地は潮の干満差が大きいため、クリッチ(水で満たされた溝)で動けなくなる羊も多い。危険と向き合いながらも良い餌を食べて羊たちはおいしくなる。

9.オーストラリア

 輸出量世界1位の羊肉王国では、ここ数年で加工技術が大きく進化。かつては職人がバンドソーで手作業していた枝肉の分割は、今ではX線で骨の位置を特定し、全自動でカットしている。職人の技術によるブレがなくなると同時に、加工スピードも格段に速くなるので鮮度劣化も最小限に抑えられるのだ。

10.キプロス

 今回の旅では羊乳チーズの産地を5 ヶ所訪れた。トルコやエジプトに程近い島国、キプロス。羊乳と山羊乳から作られるハルーミチーズ発祥の地だ。焼いても溶けない独特な食感を楽しめるこのチーズは、需要の拡大とともに牛乳を加える産地が増えたが、人口20人の小さなこの村では伝統製法が健在。


text 水 亨一 photo 行方進之介

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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