「この店にいったら、これが食べたい!」。「このシェフといえばこの料理!」。注目のシェフたちが自らのシグニチャーディッシュを語り、その調理方法を実演してくれた。
手打ち麺にウニの旨味がよく絡んだ「ウニのタリオリーニ」。イカスミのソースが味わい深い「イカスミのスパゲティ北海道産の生ウニ添え」。独立して12年目を迎える本多哲也シェフには、さまざまなシグニチャーディッシュがある。
イタリア料理をめざしながら、渡仏してフランス料理を学んだ経験も持つ。「ベースさえしっかりしていれば、ジャンルを問わず、いろいろな料理にチャレンジしてもいいのではないか」と語るだけあって、シグニチャーディッシュに対する考え方も柔軟だ。
今回は発想を転換することによって、シグニチャーディッシュから、あらたな人気のひと皿を生み出す方法を披露してくれた。
「シグニチャーディッシュを自分の店で出すだけならさほど難しいことではない。けれど、それをイベント会場などで実現しようとなると、しにくいこともある」と本多さん。それでも、「シェフの代表的な料理が食べたい」と言うファンの気持ちには応えたい。そこで「ウニとホタテのクリームパスタ」を考案した。
イカスミを練り込んだ乾麺に、ウニの風味をまとわせた冷製のパスタ。このひと皿は、「ウニのタリオリーニ」と「イカスミのスパゲティ北海道産の生ウニ添え」の両方の魅力を、合わせ持つようにしようと考えて誕生した。
イメージの源泉はどこにあるのか。「20年ほど前、僕がミラノに行った時に、イタリア料理の巨匠、グアルティエーロ・マルケージさんの作る冷製パスタに出会ったんです。それを初めて食べた時の感動と驚きを、鮮明に思い出したんです」
レストランで食べるパスタといえば「温製」が当たり前の時代。マルケージ氏は、アミューズとして冷たいパスタを出して注目を集めていた。日本のざる蕎麦にヒントを得たとも言われる。帰国して早速、冷製パスタに挑戦。キャビアを添えたり、香辛料でアクセントを付けたりして、新メニューの開発に取り組んだ。「ウニとホタテのクリームパスタ」には、そんな90年代の興奮も込められているのだ。大人数のパーティーや、厨房から距離のあるイベント会場で実際に提供してみて、ゲストから「おいしい」と喜んでもらえた点にも満足している。フォークに巻き付けられたイカスミのパスタの黒と、肉厚のホタテの白、生ウニの鮮やかなオレンジ色が、グラスの中でくっきりとしたコントラストを見せる。そんな見た目の華やかさも、人が集まる場にふさわしい。
「アミューズ的なものですから、できるだけコストも抑えました」。普段はパスタに絡めるソースにも、たっぷり生ウニを使うが、新シグニチャーでは、練りウニを溶かし込んでいる。それでも、「ウニのタリオリーニ」に負けない風味を醸しているところはさすがだ。ただし、「最後にのせる生ウニにはこだわっています」と、北海道産のミョウバン不使用の生ウニを仕入れている。
「ゆでてから時間をおいた麺をお客さまにお出しするのは、本当は心苦しいのですが……」と苦笑しながらも、完成度の高い新バージョンを仕上げた本多さん。原型となるシグニチャーディッシュへの揺るぎない自信と愛情の成せる業である。
材料
パスタ(1人分)…5本(13ℊ)(Spaghetti al Nero di Seppia/ La Fabbrica della Pastaを使用) /オリーブオイル、塩、コショウ…各適量
● ソース(10 ~12人分)
ホタテ…2個/白ワイン…120㎖/生クリーム(38%) …300㎖/練りウニ…40ℊ/板ゼラチン…1枚
● 飾り付け用
トマトソース、ブロッコリースプラウト、生ウニ、ピンクペッパー(砕いたもの)、ニンニクオイル (オリーブオイルにニンニクのアッシェと赤唐辛子で香り出ししたもの) …各適量
作り方
上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国2016年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2016年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。