「ガストロノミーとは王都の料理。そしてガストロノミーにおける食材とは、権力者が最高の食材を各地から集めたものであり、経済力と権力の象徴だと思います」
「レストランラフィネス」の杉本敬三さんは、自身の食材選びの哲学をこう説明する。そのため、コースには京都のアワビ、北海道のホタテやウニ、大分のトラフグやクエなど、最高の食材を惜しげもなく使う。「風間浦鮟鱇」は「津軽海峡食景色青森・函館商談会」のために挑戦した食材だが、「とてもいい食材だ」と評価は高い。
「ガストロノミーにおいて、コンソメはなくてはならないもの」と杉本さん。希少な肉や野菜を大量に使い、その旨みや栄養分を極限にまで凝縮したコンソメこそ「力の象徴」というのだ。コンソメの原語は仏語で「完成された」の意。「だから僕は、コンソメにこだわります」。
ジビエや地鶏、フグやアワビなど現在11種のコンソメを用意しているが、今回は、12種類目のコンソメとしてアンコウに挑む。
身から切り離した頭を2度湯通しし、ぬめりや雑菌を落とした後、鍋に入れ、香味野菜、白ワインでブイヨンをとる。「アンコウは足の早い食材ですから、下処理を素早く丁寧に行うことが大切です」。ここに「南仏ではアンコウに生ハムを巻いてローストする料理もあるほど相性が良い」豚肉を加え、さらに煮込む。アクを吸着させて澄んだコンソメにするため、一般的にはここで泡立てた卵白を加えるが、杉本流は違う。「僕は卵白を使いません」。卵白を加えるということは、水溶性タンパク質を加えるということ。つまり、肉や魚のゼラチン質が多い部分を、水を入れながらミキサーで回せば同じ成分のものが得られる。「それを使えば同様の効果が得られ、卵白よりもきれいなコンソメがとれます」。
できたコンソメに、オーブンでカリカリに焼いた骨とヒレを加えて再び沸騰させる。アンコウの香りと旨みをわずかに加えるという、ひと手間を杉本さんは惜しまない。
コンソメに時間をかけた分、身はシンプルにロースト。青森の高級食材を、文字通り凝縮したひと皿に、ガストロノミーの神髄が宿っている。
風間浦鮟鱇と長谷川の自然熟成豚のコンジュゲーゾン、ふかうら雪人参を添えて
「アンコウは水分の多い魚ですから、焼く15分前に水分を抜くために塩を振ります」と杉本さん。水分を抜いた方が焼き色も良いという。フライパンでバター、ニンニクを熱し、泡立ってきたころにアンコウ入れる。バターが焦げないようにアロゼしながらゆっくりと火を入れていく。付け合せは「ふかうら雪人参」のグラッセ。
風間浦鮟鱇のフロマージュ・ド・テット
アンコウの顔の皮、肉に胃袋を加えて使ったテリーヌ。コンソメを取る際につかったブイヨンの鍋からアンコウの顔を取り出し、肉、皮、骨にわける。顔の肉・皮、胃袋を細かく刻み、ブイヨンとともに煮詰めることで、ゼラチン質とうま味を引き出す。コルニッションとケイパーを加え、塩、コショウで味を調え、型に入れて冷やし固めた。
Cuisine Kingdom=取材、文 星野康孝=撮影
本記事は雑誌料理王国2014年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。