この冬行くべきジビエの2大名店


キャベツの甘味と香り高いペルドローが互いを引き立て合う

レストランラフィネス 杉本敬三さん

レストラン ラ フィネス 杉本敬三
Keizo Sugimoto
1979年京都府生まれ。15歳から料理の道を志す。19歳で渡仏し、シュノンソー、リモージュ、アルザスなどフランスの各地の地方で12年間修業。帰国後、2012年に独立し「レストラン ラ フィネス」をオープン。

19歳で渡仏し、地方を中心に12年間修業。帰国後、32歳という若さで「レストランラフィネス」を開店した杉本敬三さん。35歳以下の料理人を発掘するコンペティション「RED-U35」で、見事グランプリを獲得した注目の実力派だ。「伝統的なフランス料理をベースに、分解、再構築するのが自分のスタイル。尊敬する師匠はいますが、誰にも師事せず、レシピも持たない。自分がおいしいと思うものだけをお客様に提供していきたい」と語る。

今回、杉本さんが披露したのはペルドローとキャベツの伝統的な組み合わせ。ブレゼしたキャベツに焼いたペルドローを入れ、余熱でゆっくりと火入れすることで、美しいロゼ色に仕上げるのがポイントだ。筋肉質でしっかりした歯応えのモモ肉、しっとりとやわらかいムネ肉、ねっとりとしたササミの異なる食感が楽しめる。ソースは、ペルドローと相性のいいマッシュルームをガラの2倍入れ、旨味を凝縮している。

レストラン ラ フィネス 杉本敬三
ブレゼしたキャベツとタマネギの中に焼いたペルドローを入れ、蓋をして余熱でゆっくり火入れする。

「ジビエは環境やエサによって個体差が大きい。それをどう料理するか、判断することもジビエの醍醐味。自分も大自然に立ち向かう姿勢で挑んでいます」と杉本さん。

ペルドロー オー シュー

ジビエ
じっくりとブレゼしたキャベツとタマネギの甘味。ペルドローのジビエらしい旨味とトリュフの香りが三位一体となったバランスのいいひと皿。ペルドローのダシとフォンドボー、ガラ、たっぷりのマッシュルームのスライスを、時間をかけてぐっと煮詰めたソースは、杉本さんの自信作だ「。水ではなく、ワインに合う料理が基本。自分が食べたいと思うジビエ料理をお客様と共有したい」と杉本さん。
レストラン ラ フィネス

レストラン ラ フィネス
Restaurant La FinS
東京都港区新橋4-9-1 新橋プラザビルB1F
03-6721-5484
● 18:00~21:00LO(ランチは土曜のみ 12:00~13:30LO)
● 日、月休
● コース 昼8000円、夜15000円~
● 10席
www.la-fins.com


小林薫=取材、文 富貴塚悠太=撮影 
text by Kaoru Kobayashi photos by Yuta Fukitsuka

ジビエの嫌いな人にも「旨い!」と言わせる熟練シェフの巧みなスパイス使い

マルディグラ 和知徹さん

マルディグラ 和知徹さん
Toru Wachi
1967年、兵庫県出身。ブルゴーニュの一ツ星「ランパール」で修業後、87年「レストランひらまつ」に入社。パリ「ヴィヴァロワ」で3カ月研修し、帰国後、ひらまつ系列「アポリネール」のほか、「グレープガンボ」の料理長を経て、2001年、独立。

ジビエに秘められたパワーは、私たちの想像以上。
もっと自由な発想で大胆に表現していきたいと思う。


「ジビエが苦手な人にもおいしく食べてほしい」と和知シェフが作ってくれた料理は、メンチカツにカレーとバターライスを添えたもの。
「どこがフランス料理?どこがジビエ?と思われるかもしれませんね」と言いながらも、余裕の笑み。食べれば、それは間違いなくジビエ料理であり、フランス料理として構成されているのがわかってもらえる、と知っているからだ。

メンチカツの原形は、ミンチ肉のパテで腎臓などの内臓を包んだ「ロニョナード」だ。シェフはこのフランス料理をアレンジして、焼き目を付けてキューブ状に切った鹿肉とフォワグラを、鹿肉のミンチで包み、衣を付けて揚げた。結果、メンチと呼ぶにはあまりにも贅沢な皿に仕上がった。ナイフを入れるとフォワグラと一緒に鹿肉がごろり。カリカリした衣とトロトロのフォワグラ、そして鹿肉のモッチリした食感が口の中で混ざり合い、調和する。添えられているのも単なるカレーソースではない。煮込んだ野菜スープをカレーやその他のスパイスで味付けし、血の多い鳩の内臓でコクを出した。ジビエ独特の血のソースである。

ジビエの味は変えずに香りに変化を付けるテクニック


「マルディグラ」の人気の理由に、形にとらわれないシェフの調理法と、食材に対する並々ならぬ思いが挙げられる。「山の恵みを分けていただく」ジビエの本意を考えて輸入品はやめた。期間も区切って国内の食材を使おうと決めたのだ。調理するのは蝦夷鹿のほか、北海道や新潟の鴨、岡山の猪。気候によって変動はあるが、鴨を出す期間は毎年11月から12月中旬まで。猪は1月下旬から3月、蝦夷鹿については12月の2週間に限られる。

調理面で特筆すべきは、スパイスや調味料使いの上手さ。蝦夷鹿にはクミンやカレースパイス、鴨にはパプリカやハチミツ、猪にはハッカクやシナモン、コーヒー豆などを使う。「スパイスはジビエの味を変えるからと敬遠するシェフが多い。正直、私にも迷った時期がありました。けれども思い切って使ってみて、スパイスは、味を変えずに香りに変化をつける味方だと気づいたんです」

強い香りのスパイスであっても、野生の食材なら、その力に負けることはない。むしろスパイスがジビエの味わいを飛躍的にすばらしくする。これは、シェフが実際に鹿狩りに同行して達した境地。迷いが吹っ切れた瞬間だった。自然への畏敬、命と向き合う潔さと緊張感。それを忘れないシェフの厨房からは、これからも独創的なジビエ料理が生み出されていくことだろう。

ジビエを旨くするPOINT

鹿肉のミンチは包丁で叩くようにして作る
鹿肉の脂は牛や豚の脂とは質が違うので、手でこねても粘りが出ない。香味野菜等と混ぜながら、包丁で叩き切るようにまとめていく。

食感の違いを出しておいしさを演出する
鹿肉をやわらかなフォワグラと合わせたり、まわりに衣を付けて揚げたりすることで、鹿肉のほどよい弾力感を強調する。

付け合わせの血のソースをスパイシーに仕上げる
鹿肉はクミンやカレー、ブラックペッパー等と相性がよい。付け合せのソースにスパイスを用いるとジビエの野生臭が風味に変わる。

蝦夷鹿メンチのジビエカレー

鹿のモモ肉をミンチと角切りにして食感の違いを出し、フォワグラでとろみを付けたメンチ。クミンとカレースパイスの隠し味が、鳩の内臓の血を使ったカレーソースと合うように計算されている。さらにカレーの風味は、すりおろしたニンジンを混ぜたバターライスの甘さを引き立てる。

【蝦夷鹿】 北海道・中標津町産
雌雄や大きさなどの指定はせず「、信頼できるヘーゼル・グラウスマナーの山崎孝嗣さんにお任せしています」と言うシェフは、ライセンスは持っていないものの、毎年、鹿狩りに参加している。

マルディグラ 和知徹さん

マルディ グラ
Mardi Gras

03-5568-0222
● 18:00~24:00LO
● 日休
● アラカルトのみ 前菜900円~ メイン2100~16000円
● 22席


上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影 
text by Kurumi Kamimura photos by Yasutaka Hoshino

本記事は雑誌料理王国第235号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第235号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする