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ひとりひとりのピッツァイオーロに、それぞれの味がある。粉の選別、生地の作り方、トッピングのチョイス、窯の扱い方……。特別なものではないのだが、だからこそ、ピッツァイオーロの技や感受性がモノをいう。ピッツァに個性や味わいを吹き込むのは人間だから、その五感が欠かせない。ピッツァの作り手が料理人ではなく職人と呼ばれるのは、旨いピッツァには、一途な職人芸が不可欠だからだ。人を呼ぶピッツエリアの条件とは、何なのか。旨いピッツアはどう生まれるのかを探る。
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東京・渋谷から15分ほど、「三茶」(三軒茶屋)は、安くて旨い飲食店がひしめく食の激戦区。ここの路地裏で、しゃれたファサードがひと際目立つ「ラルテ」。中目黒の人気店「イル・ルポーネ」のオーナー、井上勇さんが出した2号店だ。2011年7月のオープン早々から「なかなか予約のとれない人気店」と評判になった。
開店2カ月後の9月、日本初のナポリピッツァ職人コンテストが開催された。井上さんは「ファンタジー部門」(創作ピッツア部門)で優勝した。
19歳でサルヴァトーレの皿洗いからスタートとして29年、ピッツァイオーロ界の日本代表と認められたのだ。「若いときは、あれもしたい、これもしたいと思うものですが、人間力も含めて基礎づくりには時間がかかります」。まず、ここをしっかりと把握し、辛抱し専念することだ。
「スタッフのなかから、窯をまかせられる者が誕生するまで7年かかった」と言う。その成長を見とどけてから、「三茶」に進出したのだ。ピッツァはとても奥が深い。どの小麦粉を選ぶか。どんな窯を使うか。「究極は自分を信じることでしょうか。微妙なところは、焼く人のその日の気分によってさえ違ってきま
す」。だからこそ興味のつきない世界なのだ。小麦粉はカンパーニャ州からだが、フリアリエッリなどは、福岡でイタリア野菜を育てるイタリア人から。井上さんの食材のアンテナは緻密に張り巡らされている。
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これぞ、ナポリのピッツェリア。
旨さも店構えもリアルに再現