【初心者のためのワイン講座 最終回】料理とワインのマリアージュ


最終回は、この講座の最終的な目標である、ワインと料理の相性「マリアージュ」をどのように実践していくのかについて考えてみよう。ワインと料理の味わいのイメージを合わせるのがポイントだ。

【講師】ワイン評論家 田中克幸さん
Katsuyuki Tanaka
1962年東京都生まれ。文京学院大学でワイン文化論担当講師。ワイン専門誌などで執筆。ワインに関する講演、イベントを日本各地で行う。独自の視点と理論の明快さには定評がある。

ワインと料理が合う、とは、具体的にどんな状態を指すのだろうか。ここでは、食べ物とワインを合わせた時に「併存」か「融合」の二つの現象が起きると考える。併存とはワインと料理を口に入れた時に、どちらかもしくは両方の味がそのまま口中に残っている状態を指す。これは相性がよいとは考えない。両者が口中で一体化して、新しい味わい(感覚)が呼び起こされて初めて「相性のよい組み合わせ」になっていると定義する。

ワインと料理の相性を考える時には料理の主素材との組み合わせを想定する。時折「ワインをソースと合わせる」という意見があるがこれはあまり意味がない。料理は主素材を味わうもの。ソースは主素材の引き立て役とみなすべきだろう。

ワインに合わせてメニューを作る時、最初に確かめるのはヴィンテージだ。本連載の第6回にあるように、開花期の短い集中型のヴィンテージには加熱時間の短い料理、開花期が長い拡散型のヴィンテージには加熱時間の長い料理がおおむね合う。たとえば、集中型のヴィンテージには、ソテーやグリル、フリットなどの調理法、拡散型のヴィンテージはミジョテやブレゼ、刺身などの生も合う。

基本は「味わいイメージ」が同じ形をしているか

味わいイメージを作り出すものとは?

分布(集中型と拡散型)
味わいの広がりの外縁部分により高い密度で感じるか、それとも舌の位置となる中央部分に感じるか。長時間加熱調理は前者、短時間加熱なら後者。

重心
口の中の上下方向において、どの位置に味わいの中心点があるのかを感じる。料理の場合、重心は素材そのものに影響されるので予想しやすい。

形状
横長(水平)、縦長(垂直)、正方形、三角形など口の中でイメージされる形状。素材そのものに加え、調理法や調味でさまざまに変化する。

素材はワインの重心に合わせて選ぶ。豚肉や牛肉はワインの重心が低く、鶏肉やジビエは高い。なお、ここで味わいの軽重(抜けのよさ)と重心を混同しないように注意したい。たとえば、高級な銘柄牛肉は重心は低いが味わいは軽く、血のソースをかけたジビエは、重心が高いが味わいは重たい。次に味わいの形状だが、これは前述の2点ほどきちんと揃わなくても不快な印象はもたらさない。ワインか料理のどちらかの味わいがどちらかを包み込むからだ。 

最後に質感や風味を合わせるが、これらは比較的イメージしやすいので、さほど難しくないはず。各人でアレンジを楽しめる部分だ。

実際に試飲してみると…

(A) ワイン名 (B) 生産者名 (C) 産地 (D) 品種 / ヴィンテージ

ヴィネム ロゼ

(A) ヴィネム ロゼ
(B) ボデガス・エステバン・マーティン
(C) スペイン カリニェナ
(D) グルナッシュ、シラー/2010

拡散型。シンプルにフルーティで軽やかなタイプだが、重心は下。形状は水平的で小さい。表面から内部までソフトで酸が低い。イチゴ的な温かい香り。ワイン単体ではぼやけがちで評価されにくいが、このような個性は料理と合わせるという点では貴重な存在。

【+料理】ピッツァ・マルゲリータ
ソースの味わいはつねに拡散型。重心は下で形状は水平的で小さい。質感はソフト。トマトと多用する料理はその甘さがワイン選びを難しくする。

テレット ヴィエイユ・ヴィーニュ

(A) テレット ヴィエイユ・ヴィーニュ
(B) マス・サン・ローラン
(C) ラングドック
(D) テレット/2010

やや拡散型。重心は上で極めて明確に垂直で小さい。表面は軟らかいが、内部は緻密で堅い質感。引き締まって強い酸。レモンとフレッシュハーブのミネラリーでピュアな香り。全体に緊張感の強いワインで、酸が強めなため、料理に酸を多めに使うとよい。

【+料理】白魚のフリット
重心は上で、比較的垂直型で、小さいという点ではフリットに合う。しかしフリットのやや集中型の分布と、表面が硬くて中心が軟らかい質感は合わない。

ブルゴーニュ ルージュ

(A) ブルゴーニュ ルージュ
(B) ドミニク ガロワ
(C) ブルゴーニュ
(D) ピノ・ノワール/2009

集中型。重心は上で、水平的で、小さめ。タンニンや酸は強く、明快なエッジを効かせ、表面から内部はかためだが、芯はやや緩い。ハーブや赤果実の涼しげな香り。知名度の高いブルゴーニュはオーダーされやすいが、このような特徴の料理は少なく難易度が高い。

【+料理】ピッツァ クワトロ・フロマッジ
集中型。チーズは生だと拡散型だが、焼くと集中型になる。重心は上で、水平的でやや小さい。酸は強め。ハーブで香りを持ち上げればさらに好相性。

グルナッシュ・ルージュ

(A) グルナッシュ・ルージュ
(B) ドメーヌ・ド・クリスティア
(C) コート・デュ・ローヌ
(D) グルナッシュ/2009

集中型。重心は上で、水平的で、小さめ。低い酸が強調する厚みのある果実味だが、凝縮度は低い。表面から芯までサラッとソフト。シンプルにフルーティな香り。グルナッシュ品種のワインは重心が下になりがちだが軽い土壌ゆえか、これは重心が高い。

【+料理】たっぷりのバーブでマリネした丹波地鶏と季節野菜の炭焼き
集中型。重心は上で、水平的で、中ぐらいの大きさ。この点に関しては上記のワインと合うが、質感と風味が異なる。酸味を加えるとブルゴーニュ・ルージュと合う。

コート・デュ・ ローヌ・ルージュ ヴィエイユ・ヴィーニュ 「レ・ガリーグ」

(A) コート・デュ・ ローヌ・ルージュ ヴィエイユ・ヴィーニュ 「レ・ガリーグ」
(B) ドメーヌ・ド・クリスティア
(C) コート・デュ・ローヌ
(D) グルナッシュ/2009

集中型。重心は下で、ずっしりと水平に広がり、大きめ。低い酸と厚みのある果実味で品種の個性が出ている。内部部は柔らかいが、表面と芯はかたい。黒黒っぽい熟した果実とスパイスとドライハーブの香りで南ローヌの土地の個性性もよく出ている。

【+料理】パテ・ド・カンパーニュ
拡散型。重心は下で、水平的で、小さめ。質感は表面から芯までソフト。脂肪肪の甘味を感じ酸は低い。上記ワインとは分布と質感に違和感。ロゼと合う。

シャトー・レ・ブイッス

(A) シャトー・レ・ブイッス
(B) シャトー・レ・ブイッス
(C) スッド・エスト カオール
(D) マルベック85、メルロー15/2001

拡散型。重心は真ん中からやや下にあり、比較的垂直型で大きい。複雑で黒っぽくスパイシーな香り。熟成してもタンニンが荒っぽく、質感は、中は柔らかく表面と芯がかたい。余韻は長く、ローストした赤味肉全般に合わせやすそうなキャラクターを備えている。

【+料理】鴨のコンフィ
拡散型。重心は真ん中からやや上。やや水平的で大きい。分布、大きさ、質感は上記ワインと合う。酸がないため、マスタードを加えるとさらに好相性。


伊藤由佳子=構成、文   text by Yukako Ito


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