若きシェフが作る珠玉のパスタ(1)「リストランテ カシーナ・カナミッラ」


パスタは言わば、規定種目
だからこそ、ひと皿に個性がまたたく

オーナーシェフに就任して以降、さらにパワーアップしたと評判の岡野健介さん。 イタリアの星付きを経て、自身が展開する店は、ひと筋縄ではいかないリストランテ。提案するパスタも個性的に仕上がった。

 リストランテ カシーナ・カナミッラ 岡野健介さん
Kensuke Okano
1981年ベネズエラ生まれ、神奈川県育ち。三軒茶屋「ペペロッソ」で、料理界へ。その後イタリア・トリノの星付きリストランテ「ラ・バリック」で4年半修業。最後はセコンドシェフとして活躍。帰国後、「カシーナ・カナミッラ」のシェフに就任。2017年8月、前オーナーから受け継ぎオーナーシェフに。

ひと口めから最後まで展開を計算してパスタを構成

 スタイリッシュな雰囲気に金髪。一見サッカー選手を思わせるようないでたちの岡野健介さん。昨年の夏、前オーナーから受け継ぎ、オーナーシェフに就任。内装もリニューアルし、攻めの姿勢を崩さない。髪の色もそんな意気込みの表れだ。今回提案するパスタは、「青のりのファゴッティーニ甘鯛とウニ」。ラビオリの一種で、中にはホウボウからひいた濃厚なスープを冷やし固めたものをメインに、トマトのコンフィと生青のりを詰める。ゆでたファゴッティーニに、甘鯛のウロコ焼きとウニ、イラクサを添えてひと皿にまとめた。岡野さんは、「パスタ」という料理を最後までどう食べてもらうかを考えてパスタメニューを構築する。

「考えるポイントは流れと、パスタの役割をどこに置くかです。ひと皿の中で緩急をつけるのか、それとも最初から最後まで一体感を持たせた流れに仕上げるのか。パスタの役割は、パスタそのものをメインに考えるのか、もしくは料理ありきでパスタを寄り添わせるのか。そこに、季節感や、その時にひらめいたアイデアを加え、整えます。今回は、以前、ワンスプーンで提供したことのあるファゴッティーニを元に、メリハリを意識したひと皿に仕立てました」

リストランテ カシーナ・カナミッラ
「パスタのおいしさは粉のおいしさ」という岡野さんは、ピエモンテ州の無農薬、保存料無添加、石臼挽きで知られるムリーノマリーノ社の粉を愛用。青のりとイカスミを練り込み、固めたホウボウのスープなどを包んでいく。
リストランテ カシーナ・カナミッラ
包んだ後は、1~2時間ほど冷凍してから使用。中心まで凍るとパスタとスープが一体化し、ゆでた時に溶けてしまうため、軽く周りだけ固める。生地だけでなく、中にも生青のりを詰め、香りを加える。
リストランテ カシーナ・カナミッラ
ファゴッティーニを割ると、濃厚なホウボウのスープがとろりとあふれ出す。青のりの風味にトマトのコンフィの酸味がアクセント。いくつもの要素が重なった複雑な味わいに、甘鯛やウニが寄り添い、起伏に富んだ一品に。

「パスタ」という枠の中で発揮される個性

81年生まれの岡野さんは、トリノ「ラ・バリック」で4年半の修業を経て、帰国。日本におけるイタリア料理の変遷や取り巻く状況を冷静に眺めたうえで、自身がやるべきことを見出している。

「日本でイタリア料理ブームが起こった当時は、イタリア料理店に行くことや、イタリアファッションを身に着けることがある種のステイタスでした。でも、今はそういう時代ではありません。もはや現地の修業を経たシェフは珍しい存在ではなく、向こうのクリエイティブをそのまま持ち込んだとしても、イタリア料理店が飽和状態のなか、“自分らしさ”を追求しなければ、この先厳しいと感じました」

 もちろん、軸足は血肉化した「イタリア」に置きつつ、岡野さんの眼差しは、イタリアにもない、自分にしか作れない料理へ。規定種目にプレイヤーの個性が顕著に表れるのと同様、イタリア料理の象徴、「パスタ」にこそ、シェフの個性が如実に反映されると考えている。

「その皿にイタリアらしさを感じる人、和の要素を見出す人、あるいは僕の個性としてとらえる人、さまざまでしょうが、解釈は自由。ただ、お客さまが喜んでくれたら満足です」

青のりのファゴッティーニ 甘鯛とウニ
イタリア修業時に学んだ、ファゴッティーニ。通常、具材を中に詰め、スープに浮かべて提供されることが多いが、岡野さんは自分流に再構築。固形化したホウボウのスープを中に詰め、「具材」に見立てて、甘鯛やウニを添えた。
リストランテ カシーナ・カナミッラ

リストランテ カシーナ・カナミッラ
Ristorante Cascina Canamilla
東京都目黒区青葉台1-23-3 青葉台東和ビル2F
03-3715-4040
● 11:30~13:30LO 18:30~21:00LO
● 火休、不定休
● 24席
www.canamilla.jp


浅井直子=取材、文 花村謙太朗=撮影

本記事は雑誌料理王国第288号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第288号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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