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ショコラティエ パレ ド オールのおいしさのロジック


チョコレートを語るうえで近年のトレンドとなっているのが「ビーントゥバー」だ。カカオ豆(ビーン)からチョコレートのタブレット(バー)にするまでを、ショコラティエが一貫して行う。しかし、日本でこのトレンドが起こる前から、味へのこだわりゆえに「ビーントゥバー」を実践していたのが、チョコレート専門店「ショコラティエ パレドオール」を手がける、ショコラティエの三枝俊介さんだ。

パレドオール
もっともシンプルなボンボンショコラ。クリームとチョコレートのみを使い、チョコレートそのもののポテンシャルが表れる。表面には、国宝の修復にも使われる、石川県・金沢の最高級金箔をあしらっている。トラディショナルかつ普遍的な味わいは、一粒で「ショコラティエ パレ ド オール」のチョコレートへの情熱を体感できる。

カカオ豆まで遡ると手つかずの可能性があった


「私が最初に知ったチョコレート作りは、完全に分業でした。カカオからチョコレートを作る人たちとショコラティエが別というのは、ごく当たり前のことでした」
 かつて、パティスリーやショコラティエでも、ボンボンショコラは「チョコレートから作るもの」だった。しかし、渡仏して門を叩いたリヨンの老舗ショコラティエ「ベルナシオン」での経験をきっかけに、それが覆されたと三枝さんは言う。
「私はそれまで、チョコレートを食材として見ていました。でも、『ベルナシオン』でカカオ豆からチョコレートまでの加工を経験したことをきっかけに、チョコレートより前、カカオ豆まで遡って考えると、まだ誰も手をつけていない可能性がたくさんあることに気づいたんです」

チョコレートに使うカカオ豆は、自ら焙煎する。カカオ豆を加工する工程で、でき上がった時の味が大きく左右されるという。
ショーケースには、つねに50種類ほどのチョコレートが並ぶ。季節ごとに品揃えが変わるボンボンショコラの数は圧巻だ。

始めと終わりがわかることで初めて見えてくるもの


 帰国した三枝さんは、数年を経てショコラティエをオープンし、10年目にカカオ豆からチョコレートを作り始める。しかし、三枝さんのようにカカオ豆の味や栽培方法を知り、加工によってどんな味のチョコレートになるのかをわかるショコラティエは、昔も今もほぼいないという。
「でも、始めと終わりがわかって、初めて何が変わるとどうなるのかが、工程のなかで見えてくるんです」

最高のカカオ豆を使った「レッセンス デュ カカオ グランクヴァ72%ビター」は、「パレドオール」にも使われる。
よいカカオ豆を探すため、三枝さんは世界各地のカカオ農園を訪れる。カカオ豆のDNAまで広く学ぶという。

 自分が作ったチョコレートとの関連性を確かめるため、三枝さんは世界各地のカカオ豆農園を訪れている。農産物であるがゆえ、カカオ豆はどれも同じ味ではない。
「カカオ豆のポテンシャルは、ひとつずつ違います。そのよさをどう引き出すかが要求される。焙煎はもちろん、発酵の過程で何回混ぜるか、甘味に何を使うかだけでも、カカオの味わいが変わってきます。カカオ分を数パーセント変えるだけで、飛躍的に味がよくなることもある。その見極めには経験が一番必要で、機械化や数値化はかなり難しいですね」

ショコラ ネスパ ?!
ひと口飲むと、透明で爽やかなスパークリングでありながら、ショコラの風味と香りがしっかりと活きる。独自の製法は企業秘密なのだという。9年前に開発された、カカオ豆の新しい可能性に目を向けたドリンクだ。

理想と目の前にあるものとのギャップを埋めていく作業


 今回紹介した2品は、チョコレートのおいしさを堪能できる「パレドオール」と、カカオ豆の新たな面が見える「ショコラ ネスパ!?」。実に対照的だが、三枝さんの経験の豊かさと独創性がうかがえる。

「今まで、カカオ農園からボンボンショコラまで一貫して作ってきた人がいなかった。だから、意見を交換する仲間が今もいないんですよ」。そう話す三枝さんは、ほかのショコラティエに視察に行くことはあまりない。映画や舞台を見て街を歩き、何気ない日々のなかで創作のヒントを得る。意識しないうちに蓄積されたイメージが、チョコレートへとつながっているのだ。

「仮にチョコレートの神様がいるなら、指名されている気がする時もあって。ショコラティエが自分に課せられたミッションであるという感覚が、今は強いです」

 新たな発見は課題であり、可能性でもある。課題は、乗り越えれば経験となる。すべてはひと続きだ。「経験を積んだことで、素材を食べた時に、それに合うチョコレートや配合が自然と浮かぶようになりました。ただ、作ってみるとそれがすべてイメージどおりというわけにはいかない。そのギャップを埋めていく作業は必要ですね」

 次から次へと課題が見えてくる、と三枝さん。生涯、ショコラティエの探求は続いていくのだろう。

三枝さん流・おいしさのロジック

1.世界各国のカカオ農園に直接赴き、農園の状況、土壌、気候、カカオ豆の品質などを確かめ、最良のものを探す。

2. カカオ豆のポテンシャルを引き出すため、焙煎からカカオ分の調整、甘味などの加え方はあらゆる組み合わせを試す。

3. ほかのショコラティエには行かない。自分の理想と目の前にあるもののギャップを埋める作業を、納得いくまで繰り返す。

Shunsuke Saegusa
1956年大阪府生まれ。自身のパティスリーをオープンしたのち、 1996年に渡仏。ショコラティエ「ベルナシオン」にて研鑽を積む。現在は、国内にショコラティエを複数展開している。

ショコラティエ パレ ド オール 東京
CHOCOLATIER PALET D’OR TOKYO
東京都千代田区丸の内1-5-1新丸の内ビルディング 1F
03-5293-8877
● 11:00~20:30LO(平日) 11:00~19:30LO(日祝)
● 休日は新丸の内ビルディングに準ずる
● 26席
www.palet-dor.com


澤由香(本誌編集室)=取材、文 小寺恵=撮影 

本記事は雑誌料理王国第290号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第290号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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