昨年、「スブリム」の移店に伴って、その跡地に開業するも、今年6月に大胆なシフトチェンジを行った「Cofuku」。オーナーでソムリエの山田栄一さんと、新シェフの飯田真葵さんに、新境地へと踏み出した経緯と決意を伺った。
都内には「二軒目に使える店」があまりに少ないとつねづね感じていたという山田さん。オーセンティックなバーはあるが、行き慣れていないとハードルが高く、シリアス過ぎる。次の選択肢となると、ビストロや居酒屋のような賑々しいカジュアルな店になってしまう。その中間のちょうどいい店、それが新たな「Cofuku」だ。
「食事を終えてもう一杯というときに、女性を連れて行きたくなる店がイメージ。ひとりでふらりと訪れ、おいしい料理がすぐに食べられる点も重視しました」
ワインはブルゴーニュの古酒を中心に揃え、料理はクラシックなメニューをベースにする。少し前は外食に特別な体験を求める人も多かったが、そのフェーズは終えたと山田さんは分析する。見たことのない料理と演出への物珍しさは落ち着き、本当においしいシンプルな料理をくつろげる空間で食べたい、という流れに戻ってきているという。
その料理を担うのが、パリで5年の修業を経て、今年2月に帰国したばかりの飯田さんだ。「料理はワインに寄り添うもの。イノベーティブではない、旬を盛り込んだシンプルなフランス料理です。山田さんとともに目指すのは、流行る店ではなく、本物の店。『本物』の説明は難しいですが、経験値が豊富なお客さまに自然と選ばれるような。最終的な価値観は案外みんな同じで、不変的だと思うんです。それは急にはできません。長く続けて、年月を積み重ねていくしかないですね」
まだスタートラインに立ったばかりと口を揃えるふたり。見据えるのは、遥か先の未来だ。
「男性が女性を口説けるような雰囲気のある店って、意外とないんです。カウンター席は、サービスへの親近感はもちろんですが、お客さま同士の親密度も増します。自然な形で手をつなぐこともできる。そういった期待も感じさせる空間でありたい」(山田さん)
「やりたい料理に突っ走るシェフも多いですが、私は違う。今はお客さまとの信頼関係を築く時期。当店はアラカルトなので、お客さまがまさに今食べたいものをシンプルに楽しんでいただくだけ。いつでもここにくれば大丈夫という安心を感じていただければうれしいですね」(飯田さん)
「声のトーンを落としてもらったり、お酒の飲めない方はお断りすることもあります」と山田さん。店の雰囲気は、お客さまが担う部分も大きい。「人と人なので、合う合わないは絶対ある。いいと思ってくださるお客さまをがっかりさせないことを大切にしたいので、会員制も視野に入れています」
60年代や70年代の熟成した飲みごろの古酒を中心に、常時300種を揃えるワインは、いずれはブルゴーニュのものだけを扱う予定。「今、確信を持って状態の良い古酒をお客さまへ勧められるソムリエが少ない。その中で付加価値を高められれば」と山田さん。
器は、岐阜・多治見の「3RD CERAMICS」で大きさや薄さを指定するオリジナルや、「NOMA」でも使われているデンマークの作家K.H.Wurtzなどを使用。
雑味のない香りとやわらかくみずみずしい肉質が楽しめるシストロン産仔羊をローストして、骨からとったジュダニョーソースで仕上げたシンプルなひと皿。付け合わせには旬の野菜を盛り付け、サラダ感覚でも味わえる。合わせるのは「アンリ・ボワイヨ ボーヌレ ゼプノ 1964」。凝縮した果実の香りに繊細な酸味を加えたなめらかな風味が、ラム肉の味をより引き立たせる。
「ランス・ヤナギダテ」「グリ」
など都内レストランを経て渡仏。パリの「オー・ボナクイユ」や「ル・シス・ポール・ベール」「ダヴィット・トゥタン」などで5年間経験を積み、2018年帰国。同年、「Cofuku」のシェフに就任。
ソムリエ。「FEU」「エディション・コウジ・シモムラ」等、都内フランス料理の名店でサービスマンとして経験を積む。オーナーとして初となるレストラン「Sublime」を2015年にオープン。同店の麻布十番への移転に伴い、その跡地に2店舗目となる「Cofuku」を2017年に開業。
コフク
Cofuku
東京都港区新橋5-7-7
ロイジェント新橋 B1F
☎03-3578-8831
●18:00~翌1:00(23:00LO)
●日 休
●平均予算 10000円~
●24席
www.cofuku.tokyo/
君島有紀=取材、文 土岐節子=撮影
本記事は雑誌料理王国290号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は290号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。