「プロヴァンスはグラン・ジャルダン(広大な庭)。新鮮で滋味にとんだ野菜と果物が豊富なのが何よりの魅力。地中海には鯛、スズキ、アンコウなど、魚にも恵まれているしね」とドップさん。南仏の素材の話になると止まらない。しかし今回は、日本の食材の豊かさに驚いた。
「日本の魚のクオリティ、そして、ハーブやスパイス、フォアグラなど輸入食材の品質もすばらしい」
伝統を尊重しつつ香りと食感、風味をより高める
ティアン、アンティボワーズソース、ルイユ、トマトのファルシー、オリーブオイル、鯛、オリーブとホロホロ鳥……。ドップさんは、プロヴァンスならではの素材や、伝統的な料理法を駆使してめいっぱいプロヴァンスを表現しつつ、さまざまなアレンジを加えた。
たとえば真鯛のアンティボワーズソースには、一般的な材料にコリアンダーやエシャロットを加えた。エシャロットを加えたのは、トマトの酸味を和らげるため。コリアンダーは香りづけのため。それにルイユソースを重ねてコクを出した。
プロヴァンサルな2種類のソース
南仏の魚料理といえば、マルセイユの郷土料理ブイヤベースが有名だが、シンプルな白身魚の料理にルイユソースをつけて食べるのも、昔ながらの食べ方だ。今回は鯛をローストする際、塩とコショウ、オリーブオイルをふったあと、プロヴァンスでは使わない焦がしバターを加えた。伝統を尊重しつつも、より香りと風味を高めた料理にしたかったからだ。
また、トマトのファルシーは、中にひき肉を詰めるのが伝統的な手法だが、ドップさんは、赤ピーマンやキュウリ、グリンピース、数種のスパイスを加えたクスクスのサラダ仕立て「タブレ」を詰め、軽くて目に鮮やかなガルニチュールに仕上げた。形は伝統的なプロヴァンス料理そのものであり、中の詰め物もこの地方でなじみ深いものではあるが、新鮮な組み合わせである。
交通の要所、南フランスは地中海文化が融合した料理の宝庫
「私にとっていちばん大切なのは味。だから、クスクスもフォン・ド・ヴォライユでしっかり味を出す。そのうえで、ひと皿のなかにさまざまな食感をしのばせるという点も重要。じつは、これは日本の料理から学びました」
南仏は昔から交通の要所で、イタリア、スペイン、北アフリカ、中東などの文化の影響を受けている。スパイスを多く使うのは、そんな歴史を尊重しているからだ。石灰質で水はけがよく、夏は高温で雨の少ない地中海性気候のプロヴァンスには多くのハーブが自生しているが、地中海交易の影響で、外来のスパイスやハーブもプロヴァンスではよく使われる。ドップさんも今回、キュマン、キュリー、サフラン(サフランパウダーを使用)、ヴェルヴェーヌ、ロリエ、タイム、コリアンダーなどを使用。なかでも、柑橘系の爽やかさがありながら酸味がないヴェルヴェーヌはお気に入りだ。
ドップさんはオランダで生まれ、いくつかの大都市での経験を経て、現在、南フランスを拠点にする、いわば世界的視野をもつコスモポリタン。そんなシェフだからこそ、南仏の素朴な料理の真の魅力を理解し、それを再構築できるのかもしれない。
プロヴァンス料理の魅力はと聞くと、「キュイジーヌ・デュ・ソレイユ(太陽の料理)、人生の歓び、マルシェに通う楽しさ」と即答した。
「ホロホロ鳥とフォアグラのルーロー」のポイント
Dop Weber ドップ・ウェーバー
1964年生まれ。アムステルダム、ロンドン、ニューヨークなどで経験を積み、2003年に南仏に拠点を移す。2005年、イエールに「JOY」をオープン。
南仏最南端の町イエールの旧市街にある、レストラン「Joy」。『ゴー・ミヨ』にも掲載。
Restaurant Joy
24, rue de Limans 83400 Hyères
☎04 94 20 84 98
●コース45€(夜のみ)
www.restaurant-joy.com
町田陽子=取材、文、写真 井田純代=撮影
本記事は雑誌料理王国226号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は226号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。
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