“3つの異例”とともに熟成酒の概念を変える。ヴィンテージ日本酒『礼比』


日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」がまた、新しい驚きを放った。その名は『礼比(らいひ)』。ジャンルとしては熟成酒。だが、グラスに注がれた瞬間から熟成酒という概念から何かが違うと予感させるクリアな色彩、妖艶でも溌溂としたアロマとテクスチャー、複雑ながらも難解ではなくエレガントで引き込まれるような味わい、ミネラル感とともに長く続く余韻。そのすべてが、これまでの日本酒の熟成酒を想像させないのだ。新たなカテゴリーが必要か? いや、これこそが熟成酒のあるべき姿なのか?うれしい混沌だ。

驚きを生んだ裏側にあるのは、まずSAKE HUNDRED が言う“3つの異例”だ。まず、熟成酒においては特異な、淡い輝きのある色合いを実現し、きわめてなめらかなテクスチャーと透明感のある味わいを生む“-5℃での13年間の氷温熟成”。次に“フレンチオーク樽での3年間の熟成” 。エレガントで甘やかな樽香が加わり、アロマに複雑性が増す。3つめは“累乗”。仕込み水の一部に日本酒を使用し、深い甘味と旨味をもたらす。累乗自体はすでにある醸造方法だが、13年の氷温、フレンチオークという熟成とともにあることで、よりその魅力を増している感がある。

アイテムごとにコンセプトを明確にし、これを実現できる思いと匠を持った蔵元とパートナーシップを組んできたSAKE HUNDRED。『礼比』は、『水芭蕉』、『谷川岳』などで知られる群馬の永井酒造と手を結んだ。1886(明治19)年創業という歴史のある蔵で、6代目蔵元である永井則吉氏は、若いころから日本酒の価値を上げ、文化として世界にも広げていきたいと願い、シャンパーニュ地方で学ぶなど試行錯誤を続けてきた。以前からSAKE HUNDREDの業界全体を見据えての展開に着目し、まずスパークリング日本酒造りを検討していたというが、すでに永井氏が研究を重ね、氷温設備も所有していたことから、熟成へと舵を切った。フレンチオークの『礼比』としてのプロジェクトが立ち上がる前から、実は長年の時を重ねてきたのだ。そのうえで-5℃に至るまでの様々な温度帯での挑戦、フレンチオークをブルゴーニュのミディアムトーストに選定したことや、そのタイミングなど、試行錯誤というよりは挫折と折れずに立ち向かう根気の日々であったとも聞く。たまたま熟成した酒ではなく、目指すべき酒の姿に向かって熟成を重ねていった。その結果として生まれたのが、なにもかもが新しい驚きに満ちた酒、『礼比』というわけだ。

驚き、という言葉を連ねたが、熟成酒であるという前提など何も考えずに飲めば、驚きよりもまず、喜びであったり、しみいるような美味がある。目を閉じて味わえば心ゆくまでゆったりとした癒しの時間を過ごせる。場面は、世界の一流ホテルやクラシックなバーでもいいし、上質なリゾートのテラスといった心豊かに、日常を忘れる時間もいい。熟成を重ねながらも艶があり溌溂とし、さらに余韻も伸びやかという酒だから、今なお明日を明るく楽しく語れる旧友との時間にもいい。イメージはどんどん膨らんでいく。

SAKE HUNDREDの熟成酒といえばすでに熟成酒の価値を知らしめた28年熟成の『現外(げんがい)』があるが、『礼比』は、熟成酒という価値の幅を広げ、さらなる可能性に挑むものとなるだろう。価格(16万5000円・税込・500ml)、それ自体も驚きではあるが、SAKE HUNDREDが掲げる日本酒の地位と価値を高めること、永井氏がこれまで重ねてきた情熱と苦悩の年月を思えば、その味わいとともに納得がいくものでもある。酒そのものだけではなく、酒が生まれてくるまでの人々の熱意やその裏側にある苦悩までも味わうことができる……ような不思議な感覚。これも『礼比』ならではの価値ではないだろうか。

text:岩瀬大二


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