イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。
オリーブの実をつぶし、オイルを取り出す作業を行う場所を表す言葉は、少なくとも2つ存在する。1つは、オレイフィーチョoleificio、もう1つはフラントイオfrantoioで、前者は比較的昔によく使われていた言葉、後者は最近、特に上質なオイルを作る場所であることを強調する、魅力的なニュアンスを含んだ言葉である。しかし実際には、この2つの言葉はほぼ同じ意味である。オイルの質は、その場所がどう呼ばれようと、最新の機械を用い、確かな技術を駆使するかどうかにかかっている。
オレイフィーチョ(ラテン語でオイルを意味するoleumと、“する”という意味のfacereから派生したficioが合体した言葉)には2つの意味がある。1つは、オイルを取り出す全作業を指し、もう1つは、オイルを取り出す作業を行う場所を示し、現代では後者の意味で使われることが一般的である。オレイフィーチョという言葉の誕生はさほど古くはなく、19世紀の終わり頃、搾油が工場で大量に行われるようになった時代にオイル製造所を指すようになったことに始まる。
一方、フラントイオ(ラテン語で搾油の道具や機械を意味するfrāctōriumが語源)という言葉はより古く、18世紀にオリーブの実を破砕する作業の場所を意味するものとして使われていた。もう1つ、あまり使われていないが、主にフランスで広まった「弾いて細かくする」という意味を持つモリーノmolino(後期ラテン語のmolinumが語源)という言葉がある。
いずれにしても、搾油作業を行う場所を示すことには変わりない。搾油作業そのものはシンプルで、基本的にはオレンジを絞るのと大差はないが、オリーブの場合はより複雑な機械を要するところが異なる。オリーブの実はオレンジよりもずっと小粒で、その実に含まれるオイルの量は非常に少ないからだ。
しばしば、「オリーブをオイルに変える」という言葉を耳にするが、それは間違いで、正しくは「オイルを抽出する」である。オイルは自然の素材から“抽出”するものであり、“変容”させて生成するものではない。オリーブオイルはオリーブから取れる純粋なジュースなのである。
搾油にはいくつかの手法がある。昔から広く行われてきたのは、モラッツァmolazze、すなわち石臼を使う方法だ。時代を経て少しずつ進化してきたが、現在ではほとんど使われていない。縁はステンレス、底面は表面がざらざらした石でできた盤状の槽の中を、石製の車輪が時計回りに動いてオリーブを破砕するという仕組みで、車輪の数、重さはさまざまだが、車輪は2個というのが一般的である。
モラッツァを使う場合、その後のオイルの抽出にはやはり昔ながらの圧搾機を使うのが慣例だったが、最新の搾油システムと組み合わせる場合もある。よりマイルドなオイルに仕上げたい場合、例えばコラティーナ種のように刺激の強いオイルとなりやすい品種では、その辛味や苦味を抑えるために採用されることがある。
最新のフラントイオ(搾油施設)では、石臼ではなくステンレス製の破砕機が用いられている。その1つが、ハンマー式破砕機(クラッシャー)と呼ばれるもので、ハンマーが回転してオリーブの実を円筒形の金網に押し付けてつぶしていく。金網の目は、目指すオイルの風味に応じて変えることができる。この機械の特徴は、クロロフィルやフェノール系成分を効率よく抽出できることで、オイルの個性をより引き立てることが可能となる。
また、いくつもの”歯“が表面についた2つの円盤で構成されたディスク式破砕機もある。円盤の1つは固定、1つは回転しながらその間に挟まれたオリーブの実をつぶしていく。この機械もクロロフィルやフェノール系成分をしっかり引き出すことができるが、円盤の”歯“がしばしば破損するという欠点がある。
搾油の機械は日進月歩で、今後もまだまだ新しい機械、新しい仕組みが開発されるだろう。今は伝統的な仕組みをベースにしているが、全く新しい方法が発明されるかもしれない。現在、最新とされるのは超音波を利用した機械で、香り要素を存分に引き出し、しかもそれが長持ちし、エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルのシェルフライフの長期化が可能となりつつある。将来はますます上質なオイル抽出が可能になるだろう。
Text:Luigi Caricato
オリーブ研究家、作家、出版社Olio Officina経営者、Olio Officina Festival主催者
ONAOO https://onaoo.it
ひとことポイント
古代ギリシャより、オリーブの搾油は実をつぶして絞るというのが基本で、20世紀後半になっても石を使った破砕機を使うのが一般的だった。その石臼は今でも見かけることはあるが、使うところは非常に少なくなっている。オリーブオイルの香りは揮発性で、オープンな石臼方式ではオリーブオイルの特徴・個性が失われてしまうからである。また、空気に触れることで酸化も進む。クオリティを求めるのであれば密閉式の機械を使うのは必然というわけだ。ただ、機械ではその中でどんな作業が行われているのか見えないが、石臼は目の前でオリーブの実がつぶれていくのを眺めることができる。ゆっくりと回る石臼破砕は、クオリティは別として、ノスタルジックな気分にさせてくれる。
text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター