収穫後の工程「オリーブの運搬」 ~ONAOO公式オリーブオイル講座 オリーブオイルを識って料理に活かす 第14回~


イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。

努力なくして手に入られるものなどない。上質なオリーブオイル、また、香り豊かで美味なるテーブルオリーブを得るには、手抜きをして良い工程などは存在しない。オリーブの収穫は、収穫そのものに続く工程も非常に重要であり、注意すべきポイントが多々ある。オリーブの実は繊細ゆえ、いつ収穫するのか(時期)、どのように収穫するのか(方法)が品質に大いに影響する。ほんのすこしオリーブを傷つけただけで、確実にオイルの品質は下がる。わずかな傷が実の酸化作用を促してしまうからだ。

それゆえ、収穫したオリーブの運搬にも細心の注意を払わねばならない。オリーブには畑から搾油場までの“快適な旅”を、すなわち、オリーブにいかなるストレスも与えずに搾油場まで運ぶ必要がある。オリーブの実は呼吸ができなければ死に至り、押しつぶされたらひとたまりもない。

かつては、収穫された実は布や、ひどい時にはビニール袋に詰められて、そのまま長時間放置されることも少なくなかった。当然、実は傷つき、できたオイルは不快な匂いや味の不良品となる。今では、オリーブの実が十分に呼吸できるよう、また自重で潰れないよう、背の低いプラスチック製のカゴに入れて運ぶことが、上質なオイルを製造する大前提である。このカゴは、食品に適した無毒の材質製で、スタッキングできるようになっており、また、作業する際の事故を防ぐための安全設計や、詰めすぎ防止の容量設計も施されている。一つのカゴの容量は、30kgを超えないタイプもあるが、20kgを超えないタイプが一般に使われている。

カゴの運搬は、基本的に2人で行い、持ち手を両側から掴んで運ぶ。この作業は昔ながらの手摘みでも、機械摘みでも同じである。ただし、大規模なオリーブ農園で、オリーブの木を跨ぐような巨大な摘果機械を使う場合は、台車に設置された収穫箱に実が直接送り込まれ、短時間に搾油場に運ばれる。一度に収穫する量が多いため、素早く粉砕工程に進めなければならないのだ。

テーブルオリーブの場合も、収穫方法はもちろん、運搬にも注意を要するのは同じである。オイルよりもさらに気をつけなければならないのは、実をすこしでも傷つけると、オリーブ特有の苦味を取り除く工程に影響を及ぼすので、無傷を保つことが至上命題である。

こうして大切に搾油場まで運ばれたオリーブは、温度の低い、風通しの良い場所に一時的に置かれ、なるべく短時間のうちに搾油工程に送り込まれなければならない。繰り返すが、オリーブの実は生きており、それゆえ、その細胞壁が傷つけられると、細胞に含まれる油分は自身の酵素による酸化が始まり、オイルの質の低下は避けられないのである。

Text:Luigi Caricato
オリーブ研究家、作家、出版社Olio Officina経営者、Olio Officina Festival主催者

ONAOO https://onaoo.it

ひとことポイント

収穫後のオリーブはなるべく早く次の工程に移さねばならないのは、ワイン造りのブドウと同じ。実に傷がついていなくても摘んだ直後から発酵が始まってしまうからだ。発酵するとオリーブオイルに酢のような臭いが出てしまうので、それを防ぐには、素早く搾油場に運搬する必要がある。搾油場でも日の当たる場所、暖かいところに放置しない。大規模な搾油場では専用の冷蔵保管庫に搾油の順番が回ってくるまで保管することも多い。

南イタリアの大規模農園では、小型トラックの荷台に直接オリーブを山積みにして運搬する光景も見られるが、中部以北では20kgカゴに分けて運ぶ。それも一度に全部ではなく、一定程度のカゴが集まったら搾油場へ、という具合にして溜め込まない。通気性のいいカゴとはいえ、発酵のリスクはできるだけ回避しなければならないのだ。

カゴには枝や葉が混ざっているが、この段階で取り除く必要はなく(搾油場で洗浄機にかけるときに選別される)、それよりとにかく早く搾油場へ、が鉄則である。

text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター

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