オリーブの収穫 ~ONAOO公式オリーブオイル講座 オリーブオイルを識って料理に活かす 第13回~


イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。

オリーブの収穫期はひとことで言えば、お祭り。生産者だけでなく消費者にとっても待ちに待った祝祭である。冬から春、夏にかけて細心の注意を払って世話をしてきた努力が文字通り実を結ぶ、一年で最も重要な時期である。しかも、その大切に育ててきた実の収穫には、さらなる気遣いが必要だ。せっかくのオリーブを傷つけないように、どのタイミングで、そしてどの方法で収穫するかを吟味してかからねばならない。食用のテーブルオリーブにしろ、オイルにしろ、いかに健康で傷のないオリーブを確保するかが品質に関わってくる。

まず、オリーブは枝についた状態で収穫しなければならない。自然に地面に落ちたオリーブからは質の良いオイルは取れないからだ。手摘み、すなわち“手でむしり取る”ことこそ、実を傷つけることなく完璧なオリーブを手に入れる最善策として、古来オリーブ栽培の伝統として受け継がれてきた収穫法である。しかし、この方法は体力的にきつく、時間もかかる上、労働コストも高い。

手摘みは、素手で、あるいは櫛や熊手のような道具を使う。収穫期のオリーブ畑では、ハシゴをかけ、木の上の方の実を取る様子を見かけることがあるが、高所作業には事故の危険がつきまとう。それゆえ、可能な限り機械を使った収穫を行う方が理に適っている。勾配のある高い丘や山あいでの収穫はなおのこと、木に登らずにすむよう機械を利用する。枝の間に差し込んで実を優しく枝から外すことができる専用の機械だ。落ちた実は土がつかないよう、地面に敷いた目の細かい網で受ける。

収穫機械には、電動でショックを与えて実を落とすタイプ、圧縮空気の力を利用するタイプ、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する吸熱モーター式など、さまざまなタイプがあり、畑の構造、土地の形状など複数の条件を検討した上で、最良の機械を選ぶのである。

平坦な土地、なだらかな丘陵地帯であれば、枝や幹に振動を与えて、木の根元近くに据えた傘状の受け皿に実を落とす機械がよく使われる。トラクターに据え付けた櫛を枝の間に挿入して振動させるというタイプもある。そのほかにもコストと時間を削減できるハイスペックな収穫機械もあるが、主に植栽密度が高い畑向けだ。また、木を跨ぐように設置するトンネル型の機械もある。内側に備えた櫛が木の両側から実をもぎ取りながら、畝に沿って移動する。高さ5メートルまでの木に対応が可能で、広大な畑を効率よく収穫することができる。

いずれにしても、どのようなタイプのオイルをどの程度の量生産するのかといった要素を勘案して、どの道具を、あるいはどの機械を使うのかを決めるのである。近年、より特徴的な味わい・香りを持ち、かつそれが長持ちするエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルにするため、収穫期を早める傾向が強くなっている。同じ品種でありながら、栽培方法、樹齢、収穫時期、搾油方法の異なるオリーブオイルを比較するのも面白いだろう。同じ土地、同じ畑であってもまた違った性質を感じ取ることができるかもしれない。

もう一つ、注目したいのは、収穫方法によってコストが変わってくることだ。例えば、1人が手摘みで1日に100kg収穫した場合、道具を使って200〜300kg収穫した場合、さらに機械で1〜3t、大型機械で8〜10tといった具合に、1日の収穫量が多ければ多いほどコストは下がる。つまり、オイルの値段も下がる。

オリーブ農業における手法の違いとオイルそのもの違いについて考えることは非常に重要である。複雑だからこそ面白い、それがオリーブの世界だ。

Text:Luigi Caricato
オリーブ研究家、作家、出版社Olio Officina経営者、Olio Officina Festival主催者

ONAOO https://onaoo.it

ひとことポイント

ブドウの収穫が終わるとオリーブの収穫が始まる。農夫が一つ一つ手でオリーブの実を摘む。それはイタリア人にノスタルジーを呼び起こす実りの秋の象徴的なシーンだ。だが、上質なオイルを求める生産者にとってそれは過去の話である。実の熟し具合を見極め、天候を気にしながら、できる限り短期間に収穫することが、優れたオイル製造には不可欠だからだ。本文にもある通り、収穫期は昔に比べてかなり早まっている。トスカーナなど中部イタリアではかつては11月中旬が収穫の最盛期だったが、今や10月中旬には収穫を始め、11月上旬には収穫終わりの目処がついているのが当たり前になりつつある。温暖化の影響もあるが、同時に、香りが鮮烈で、ポリフェノールを多分に含んだオイルにするには実の表面の色は緑から紫に変わるか変わらないか、つまり、未熟な状態で収穫する必要がある。色の変わり始めというタイミングで一斉に収穫するには効率よく収穫しなければならないから、当然機械を使う。高枝にも届く電動の櫛型機械を手持ちで操るのが一般的だが、南イタリアのプーリアでは大木のオリーブが並ぶ平地の畑で、大型機械で幹ごと揺らしながら落とす方法も多い。木を跨ぐように設置する機械(洗車の機械をイメージしてもらうといいだろう)はイタリアよりも広大なオリーブ栽培を行うスペインなどで使われている。単純な値段の比較はできないが、トスカーナ産よりもプーリア産、さらにスペイン産の方が手頃な価格のオイルになる理由の一つはこうした収穫方法の違いにもよる。

text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター

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