フランス料理の伝統の継承と発展を目指して、 第21回「ジャン・シリンジャー杯」「メートル・ド・セルヴィス杯」開催


フランス料理の伝統の継承と発展のために、2年に一回開催されているコンクール、ジャン・シリンジャー杯」「メートル・ド・セルヴィス杯」。料理、サービスの2つのコンクールの決勝が11月11日行われた。熱気あふれる当日の模様をレポートする。

「ジャン・シリンジャー杯」 「メートル・ド・セルヴィス杯」とは?

1994年以来開催されている「メートル・キュイジニエ・ド・フランス ”ジャン・シリンジャー杯“」(以下、「ジャン・シリンジャー杯」)(料理)、および「メートル・ド・セルヴィス杯」(サービス)。
フランス料理の伝統の継承と発展を、料理とサービスの両面からボトムアップする狙いで行われているコンクールで、2年に一回開催されている。
主催は「一般社団法人フランスレストラン文化振興協会(Association de Promotion de la Gastronomie Française 略称APGF)」。この2つのコンクールを継続するために有志が集まり、2017年に任意団体として設立され、2020年に一般社団法人となった団体だ。

2020年から始まったコロナ禍ではレストラン業界が未曽有の危機に陥った。
しかし、これにより、レストランは単に“食事を提供する場”ではなく、“食卓を分かち合う悦びを体験する場”であり、レストランでしか味わえない食文化があることを再確認した人も少なくないだろう。
レストラン文化を未来につなぐためには、料理とサービスのプロフェッショナルが目標とする場が必要だ。コンクールの意義はそこにある。

「ジャン・シリンジャー杯」は、フランス・パリに本部があるオーナーシェフで構成される会員組織「メートル・キュイジニエ・ド・フランス協会」の後援を得て、開催されている。
日本の「ジャン・シリンジャー杯」の大きな特徴として、料理のテーマが「皿盛り(一人前盛り)」であることと、同日にサービスのコンクール「メートル・ド・セルヴィス杯」も行われるところにある。

近年はプレゼン力やトーク力が問われるコンクールもある中で、「ジャン・シリンジャー杯」は実技重視。料理に対する考えのプレゼンテーションは一次審査の書類のみで、準決勝と決勝の2回にわたって厨房審査が行われるコンクールだ。

「メートル・ド・セルヴィス杯」は、本部がフランス・パリにある「クープ・ジョルジュ・バティスト」の後援によって始まった。1994年に日本初のサービスのコンクールとして開催以来、サービス技術の向上と認知活動に貢献している。2003年からはサービスコンクールの世界大会の選抜を兼ねるようになり、国際レベルのコンクールとして評価されている。
試験問題、課題は常に世界の動きを意識している。

「ジャン・シリンジャー杯」決勝

ともに第21回を数える「ジャン・シリンジャー杯」「メートル・ド・セルヴィス杯」の決勝が、11月11日に行われた。
「ジャン・シリンジャー杯」の決勝会場は東京・代々木の服部栄養専門学校で、テーマ食材は、肉料理は鹿肉。副材料としてビーツ、デザートはチョコレート。
鹿肉は和歌山産が使用された。近年課題であり話題となっているジビエで、質の高い地元食材を探していたところから選ばれた。鹿肉は北海道や鳥取が知られるが、日本にはまだまだ知られざる良質な食材が各地にあることを知らせる狙いもある。

実技は、厨房と試食の二部構成で行われた。

ファイナリストは8名、審査の順番は以下の通り。

泉 裕太 「レストラン ラ・トゥール」
槍田和司 「ミリアルリゾートホテルズ ホテルミラコスタ」
中村晃輔 「ヴェジマルシェ19 くわはら館」
池之上哲平 「シェラトン鹿児島」
高橋辰弥 「龍澤学館 MCL菜園調理師専門学校」
辻 弘人 「ホテルグランヴィア京都」
小森将史 「大和学園 京都調理師専門学校」
鮫島光司 「明治記念館C&S」
(敬称略)

ファイナリストたちは、肉料理およびデザート4皿を3時間で作成し、試食審査が行われた。
審査は、厨房はAPGF理事で「フォションホテル京都」の林啓一郎氏をはじめ5人が、試食はAPGF会長の大沢晴美氏をはじめ、メインの肉料理は9人、デザートで6人が、いずれもフランス料理界を代表するシェフらが担当した。
服部栄養専門学校からコミ(アシスタント)が、各ファイナリストに1人つき、調理をサポートする。調理手順や技術もだが、コミとのコミュニケーションや指示の出し方なども審査対象となった。

「メートル・ド・セルヴィス杯」決勝

「メートル・ド・セルヴィス杯」の決勝の会場は、ザ キャピトルホテル 東急。
一般公開で、1テーブル3名のお客がコース料理を食べる、そこについてサービスするレストラン形式の審査だ。
料理やワインのサーヴや説明はもちろん、肉料理・デセールはワゴンサービスで最後の仕上げを行う。皿の上だけでなく、料理やワインをきっかけにお客との話題は多岐に及ぶ。どんな話が飛び出すかわからない。
わかるにこしたことはないが、わからないことにも、時にユーモアを交え丁寧に答える、その姿が審査される。
コミがつき、「ジャン・シリンジャー杯」同様、コミとのコミュニケーションも審査対象だ。

予選、準決勝を勝ち抜いて、決勝に進んだ「メートル・ド・セルヴィス杯」の5人のファイナリストは以下の通り(ゼッケン順)。

1 清水竣馬 「帝国ホテル レ セゾン」
2 会田祐子「ホテルオークラ アムステルダム」
3 岩本啓史「リーガロイヤルホテル大阪 レストランシャンボール」
4 原 奨 「ギャリア・二条城京都 眞蔵」
5 高千穂右京 「L’Effervescence」
(敬称略)

入賞者はこの方たち

2つのコンクールの結果は、審査当日の夕方、ザ キャピトルホテル 東急で行われた。
厳選なる審査の結果、「ジャン・シリンジャー杯」上位3位に選ばれたのは以下の方々だ。

1位 池之上哲平「シェラトン鹿児島」
2位 辻弘人「ホテルグランヴィア京都」
3位 槍田和司「ミリアルリゾートホテルズ ホテルミラコスタ」

コミ賞 石井貴大「服部栄養専門学校」

優勝者はフランスで最も伝統を持つ「プロスペール・モンタニエ国際料理コンクール(以下、プロスペール・モンタニエ)」の出場権を授与された。

総評として、「実力は拮抗していたが、最終的に鍵となったのは、ソースの深みとビーツの扱い方」。フランス料理はやはりソースが重要な要素なので、時間内にどれだけ鹿肉に合うソースに仕上げられたかが大きなポイントとなった。そして、ビーツは、特徴であるほっくりとした食感や甘みなど、つけ合わせにするのには難しい食材。メイン食材の鹿肉やソースとの相性をしっかりと考えられたものが評価につながったようだ。

また、「メートル・ド・セルヴィス杯」の上位3名は、こちら。

1位 岩本啓史 「リーガロイヤルホテル大阪 レストランシャンボール」
2位 清水竣馬 「帝国ホテル レ セゾン」
3位 会田祐子 「ホテルオークラ アムステルダム」

コミ・ドラン賞 安江萌々 「東京ホテル・観光&ホスピタリティ専門学校」

「ジャン・シリンジャー杯」優勝の「シェラトン鹿児島」池之上哲平さんと、「メートル・ド・セルヴィス杯」優勝の「リーガロイヤルホテル大阪 レストランシャンボール」岩本啓史さん

授賞式に続いて、ガラパーティー「美食のエクサゴン」が盛大に行われた。
名だたるシェフや全国から生産者も参加し、試食試飲ができるだけでなく、貴重な交流の場ともなった。

2人の優勝者の声

「ジャン・シリンジャー杯」優勝 池之上哲平 「シェラトン鹿児島」

・料理について
審査員の好みや、最近見られなくなったような古典的な料理を意識して取り組みました。
特に力を入れたのがソースです。ソースはフランス料理の要ですので、基本に立ち帰り、上柿元シェフのソースの本から学び、クラシックなソースをベースに、アレンジしました。
(指定食材の鹿肉は)難しい食材で、若すぎても、火が入りすぎても良くない。柔らかく仕上げる為に、お酒でマリネしたり、状態を細かく確認しながら火入れにこだわりました。

・コンクールまでの道のりを振り返って
この半年間、文字通り寝る間を惜しんでコンクールへの準備を重ねました。
もちろん、通常の業務時間外での練習です。1分1秒も惜しい。そんな私の状況を一緒に働く仲間たちみんなが支えてくれました。
性格上、人になかなか頼みごとができず、つい自分一人で抱え込んでしまいがちだったのですが、変なプライドは捨てて協力を求めることで、人に頼れる強さや、支えてくれる仲間の大切さを知ることができたのが、このコンクールで学べた一番のことでした。

「メートル・ド・セルヴィス杯」優勝 岩本啓史 「リーガロイヤルホテル大阪 レストランシャンボ
ール」

・コンクールについて
当日朝のメニューの発表からお客様を迎え入れる準備など、時間との闘いでしたが、お客様を迎え入れてからは、いつもレストランでやっていることをそのままやることを意識しました。
コンクールに向けた特別な準備をしたわけではなく、日頃の営業からお客様に対して行っていること、リラックスして楽しんでいただけるように、審査員である目の前にいるお客様に対して接しました。

・サービスの仕事について
レストランは単なる食事の場ではありません。ホスピタリティ次第で素晴らしい食体験の場となりますし、それを担えるのがサービスの仕事です。私は学生時代に、帝国ホテルのサービスの方と接する機会があり、その姿に憧れてこの業界に飛び込みました。その後も目指すべき先輩たちがいて、追いつこう、追い越そうと頑張ってきました。私自身も、若い世代の目標や憧れの存在となれるように更に努力し、サービスの仕事の魅力を伝えていきたいです。

「ジャン・シリンジャー杯」優勝の池之上哲平さんは鹿児島、「メートル・ド・セルヴィス杯」の岩本さんは大阪。また、両ファイナリストを見ても、拠点は日本各地に広がっている。
フランス料理の裾野の広がりとレベルの向上が、全国で見てとれるといっていいだろう。

また、今コンクールよりコミ賞も設けられ、サポートした学生たちにもスポットを当てた。参加した学生たちからは嬉しい声が寄せられ、若い世代の育成、その目標と励みになることは間違いない。APGFではコンクール以外のプログラムも強化し、レストランが必要とする人材育成に尽力している。「ジャン・シリンジャー杯」「メートル・ド・セルヴィス杯」、この2つのコンクールをきっかけに、日本のフランス料理界がますます活性化することを願う。

APGF(フランスレストラン文化振興協会) 
http://www.apgf.jp/index.html

text: Noriko Hane

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