World News Paris:シャンドンがフランスで醸す「シャン・デ・シガル」。技術責任者の女性醸造家、オードリー・ブルジョアにインタビュー!

5月17日、降り注ぐ陽光の中で「シャン・デ・シガル」ローンチイベントは行なわれた。

食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュースをお届けする本連載。
去る5月17日、南仏産スパークリング・ロゼ「シャン・デ・シガル」をローンチした「シャンドン」。これがシャンドンが初めてフランスで醸すスパークリングワインという事で、醸造技術責任者のオードリー・ブルジョアに、その想いやこだわりをインタビューした。

パリ7区ボンマルシェ食品館の階上にパリ支社を構える「モエ・エ・シャンドン」。先の5月17日、その最上階に設えた庭園、広大なルーフトップにて、「CHANDON(シャンドン)」から発表されたばかりの「シャン・デ・シガル」のグローバルローンチイベントが開催された。「シャン・デ・シガル」は南仏産スパークリング・ロゼで、意味を直訳すると「蝉のささやき(歌)」。南仏の空気をそのままに運んできたかのような、青空と陽光が心地よい、配された緑も眩しくきらめく日和。発表に相応しいステージとなった。ローズクオーツに似た涼やかな色のスパークリングが、青空の下に囁くように弾けた。

5月17日、降り注ぐ陽光の中で「シャン・デ・シガル」ローンチイベントは行なわれた。
5月17日、降り注ぐ陽光の中で「シャン・デ・シガル」ローンチイベントは行なわれた。

「シャンドン」といえば、1743年創業のシャンパーニュメーカーの老舗「モエ・エ・シャンドン」が生み出した、世界をステージにしたスパークリングブランドだ。1959年の誕生以来、世界4大陸6カ国の土地にワイナリーを開拓して、フランス・シャンパーニュ地方での醸造と同様の技術と知識を惜しみなく投入し、各土地や文化の個性を見事に融合させたスパークリングワインを生んできた。まさに時代の寵児たるブランドだ。オーストラリアの「ブラン・ド・ブラン」はシャンパーニュと肩を並べることができるほどで、プロにコメントを求めると「コーダリ(ワインを口に含んだときの余韻の長さを計る単位)」がしっかりとあるとの声も聞く。

そんな「シャンドン」が新天地を見出した。世界のステージでの開拓を経て、フランスの土壌に帰るという境地である。そして生まれたのが「シャン・デ・シガル」。「シャンドン」として初めて、フランスにてスパークリングワイン醸造を行うという挑戦である。

この企画が立ち上がったのは2019年だったという。しかしながら、新型コロナウイルスによるパンデミックに阻まれた。移動がままならぬ時代、推進するのは厳しかったが、フランスという足元、土地を見直すという根底にある考えを眺めれば、時代の流れに沿った、一歩先を進んだ先見の明のあるプロダクト作りとなったといってもいいだろう。

「モエ・エ・シャンドン」パリ支社が入るパリ7区ボンマルシェ食品館のルーフトップからは、パリの街が一望できる。

そんな時を経て至った、今回のグローバルローンチイベント。醸造の技術責任者オードリー・ブルジョアが出席し、マスタークラスのセッションも行なわれた。オードリーは生化学と食品のエンジニアであり、5年前から「シャンドン」のすべてのキュヴェの醸造の各段階において、味わいも含めた技術的なサポートをしてきた。今回、「シャン・デ・シガル」の技術責任者に選出されたのは、彼女が南仏トゥールーズ市出身であることと大いに関係している。

「トゥールーズ生まれの私は、南フランスの魅力を知っています」とオードリーは自信をもって言う。

「シャン・デ・シガル」の無二の素晴らしさは、原産地統制呼称という縛りから離れた、世界をステージにしてきたからこそのリベラルな発想による造りであることだ。つまり「南仏」とは言っても場所を限定することなく、スペインそばのペルピニャンからカンヌに近いサントロペまでの地中海沿岸400km以上にもわたる土地を舞台にしている。ロゼを生産するのに使用する8種のブドウ品種に注目して、この土地で有機栽培に取り組むブドウ生産者や組合との協力を得てブドウを調達した。

醸造の技術責任者オードリー・ブルジョア氏。
醸造の技術責任者オードリー・ブルジョア氏。

「私たちの知る限り、グルナッシュ、ロール、ティブラン、シラー、ムールヴェードル、カリニャン。カベルネ・ソーヴィニョン、サンソーという8種類の品種をブレンドしたロゼのスパークリングワインは「シャン・デ・シガル」以前に存在しません」とオードリー。これらを緻密にブレンドすることによって出来上がったのは、アプリコットなどの黄色い杏のような芳醇なフルーティーさと酸味に、タイムやシトロネルを彷彿とさせるすっきりとした野生のハーブ、海の香りが立つような、南仏の大自然を凝縮したような味わいだった。糖分調整をしない辛口のブリュットである。

この造りには、オードリーをヘッドとし、元ドン・ペリニヨン醸造最高責任者であるリシャール・ジェフロワと、元クリュッグ最高醸造責任者で、現副代表兼取締役のエリック・ルベルという2人が加わっていた。一昼夜では誕生しない、ブレンドのエキスパート3人によって生み出された、至上なるワインだったのである。ちなみに、現在、富山県で日本酒造りに挑むリシャール・ジェフロワは、その壮大なキャリアを始めたのはまさに「シャンドン」にてであった。

虜になるのは、複雑かつ構築された味わいだからこそ、スパークリングなのにもかかわらず、スティルワインのように、冷えた時ばかりでなく温度の変化により、めくるめくの味わいの変化も楽しめることだ。室温に馴染んでくることで、味わいがさらに開いてくる。

そんな幅の広さから、食卓での楽しみが思い浮かぶ。サービスされたのは、ビーツとシェーブルを乗せたものと、タラマに赤タマネギの組み合わせの2種のブリニ。野菜スティックや魚のカルパッチョ、仔羊を合わせたスパイシーなクスクスなど、野菜、魚から肉まで、さまざまな料理を引き立ててくれるだろうと、インスピレーションを刺激される。

と、そこに、氷を1つ浮かべることをオードリーから勧められた。一口含むと、驚きが。海の潮の香りのような、ミネラル分溢れる塩気のある味わいが際立ったのだ。この味わい方は、3人のエキスパートが、醸造後、テイスティングの時に見出した魅力的な楽しみ方だったという。

ローンチイベントには「シャンドン」にゆかりのある人々が集まった。デザイナーや建築家、俳優、アーティストなど130名近く。遠くに見えるエッフェル塔もロゼ色に染まっていた。

日本では、4月上旬の一足先に、「シャン・デ・シガル」の販売を開始している。毎年、花見の時期を彩るスパークリングになることだろう。

text:伊藤 文

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