アメリカ産チーズの知られざる魅力と可能性 26年2月号


世界最大のチーズ生産国であるアメリカでは、年間600万トン、1,000種類以上ものチーズが生産されている。日本へはそのうち4万トン以上が輸入されており、オーストラリア、ニュージーランドに次ぐ第3位のシェアを誇り、外食を中心として徐々に評価が高まっている。
今回は、代表的なアメリカ産チーズの魅力を広く伝えるべく、東京・代官山「ファロ」の樫村仁尊さんを講師に招き、料理人の皆さんにアメリカ産チーズを使った料理を味わっていただいた。

そのままでも、加熱調理でも素材に寄り添うアメリカ産チーズ

世界最大のチーズ生産国として、年間600万トン、1000種類以上のチーズを生産しているアメリカ。広大な大地と、新鮮で豊富な生乳に恵まれ、ヨーロッパから移民によって渡ったチーズ作りの技術は独自の発展を遂げてきた。大衆的なチーズから、伝統製法と職人の技術によって作られる希少なアルティザンチーズまで、バリエーションが豊富。スイスで開催されたワールドチーズアワード2025でも、アメリカ産チーズは金賞17個、スーパーゴールド7個を含む合計181個のメダルを獲得している。

今回のシェフギャザリングのテーマは、アメリカ産チーズの魅力。日本で最も親しまれている“ジャック3兄弟”と称される「モントレージャック」「コルビージャック」「ペッパージャック」をメインに使用し、「ファロ」の樫村仁尊さんが、料理と使い方を紹介した。

「ペッパージャック」をソースに使った「和牛すき焼きチーズバーガー」

参加シェフは、「草片 Cusavilla」(東京・西麻布)の帖地華菜恵さん、「CRAZY BRAVO」(東京・神楽坂)の柴田正幸さん、「DA GOTO」(東京・日本橋)の後藤大輔さん、「le bistrot des blues」(東京・広尾)の井口章太郎さん、「京華菜 清香」(東京・都立大学)の川角徳聖さん、「Mio Kojima」(東京・銀座)の小島三生さん、「クラージュ」(東京・麻布十番)の古屋聖良さんの7名。

参加者全員が、「アメリカ産チーズを本格的に食べるのは初めて」とあって、それぞれのチーズの特徴や、そのままカットしたチーズと加熱調理後のチーズの食べ比べなどを行った。

日本で流通しているアメリカ産チーズは、全般的に水分量が多く、マイルドでコクがあり、親しみやすい味わいのものが多い。香りやクセが強すぎないため、幅広いジャンルの料理に合わせやすく、そのままでも加熱しても素材に馴染みやすいのも特徴だ。
「ずっとイタリア料理をやってきて、“食文化”としてチーズもヨーロッパ産を使うのが当たり前だと思っていましたが、アメリカ産チーズと向き合うようになって認識が変わりました。ひとつの新しい素材として、自分の感性を自由に表現できることが魅力だと感じました」と話す樫村さん。

モントレージャックのクリーミーで優しい味わいと、トマトの酸味がよく合う「パンツァロティー」、香ばしく焼けたジャガイモとコルビージャックの組み合わせが食欲をそそる「フリコ」のほか、樫村さんが「今日、一番チャレンジングなメニュー(笑)」と語ったのが、和牛を使った「すき焼きチーズバーガー」だ。

パン生地でトマトと「モントレージャック」を包んで揚げた「パンツァロティー」
ジャガイモと「コルビージャック」を使った、イタリア・フリウリ地方の郷土料理「フリコ」

赤ワインを加えた割下でさっと煮た和牛をバンズに挟み、牛乳でソース状に伸ばしたペッパージャックをとろりとかけたハンバーガーは、牛肉、割下のうま味と甘辛い味わい、ペッパージャックのスパイシーなアクセントが新鮮なハーモニーを生み出す一品。参加者からも「チーズを加熱すると、違った表情が出てきて面白い」「ソースにしたときに、固まりにくいから作業性が良い」などの意見も出て、今後アメリカ産チーズを試してみたいという声が多く聞かれた。

アメリカ産チーズに触れた料理人の皆さん

京華菜清香
川角徳聖さん

中華とチーズは馴染みが薄いように思われますが、春巻や揚げワンタンなど包み込む料理には使いやすく馴染みやすい素材です。アメリカ産チーズはクセが強すぎず、幅広いお客さまに受け入れられる味わいだと思いました。優しい風味のものが多かったですが、スパイシーなアクセントのあるペッパージャックは、ソースなどに使うと面白そうです。

クラージュ
古屋聖良さん

アメリカ産チーズを食べるのは初めてでしたが、今回の料理を試食して大きな可能性を感じました。全体的にクセがなくマイルドな味わいでした。私は「モントレージャック」を加熱したときの香ばしさやミルキーな風味が印象的でした。ガレットに加えたり、コルドンブルー(仔牛のカツレツ)のソースにも合うと思うので、色々試してみたいと思います。

DA GOTO
後藤大輔さん

親しみやすい味わいなのでクセのあるチーズが苦手な方でも食べやすいと思いました。汎用性も広く、ソースの風味付けなどにも使いやすそうです。味だけでなく、原価的にも取り入れやすいのも魅力ですね。メインで使っているヨーロッパ産チーズと比較するのではなく、新たな可能性を見つけることで料理の幅を広げてみたいと思いました。

CRAZY BRAVO
柴田正幸さん

初めて食べましたが”素材に寄り添ってくれる風味”というのが第一印象でした。クセが強すぎないので、肉、魚、野菜など様々な食材と相性が良く、サラダからメインまで幅広く使えそうです。加熱したときのチーズの溶け方、柔らかさ、熟成感なども魅力。当店では、コースの最後にピッツァを提供しているので、ぜひ取り入れてみたいです。

コンテストでは、学生たちの斬新なメニューが続々登場

一方、樫村さんも審査員として参加した「アメリカ産チーズアイディアメニューコンテスト」では、服部栄養専門学校に在学中の“未来のシェフ”たちが、和・洋・中・製菓製パンのジャンルで、アメリカ産チーズのメニュー開発を競った。

大賞を受賞した「チーズアップルコブラ」は、製菓でポピュラーなクリームチーズをあえて使わず、スパイシーな風味があるペッパージャックとコルビージャックを組み合わせて使うことで新たなおいしさを表現。和食部門では、だしとチーズの組み合わせで深みのある味わいを生み出したりと、柔軟な発想や意外性が審査員を驚かせていた。

アメリカ産チーズの可能性は、これからもさまざまなジャンルで広がりを見せていきそうだ。

樫村仁尊 かしむらのりたか

1974年東京都生まれ。調理師専門学校を卒業後、「リストランテ アクアパッツァ」に入社。退社後に渡伊し、現地で研鑽を積んで帰国。他店で経験を積んだ後、再びアクアパッツァグループに戻り、日髙良実氏の右腕として活躍する。2016年に独立し、「ファロ」を開業。

USDEC主催 チーズアイディアメニューコンテスト開催!

アメリカ乳製品輸出協会が主催する、服部栄養専門学校調理ハイテクニカル経営学科2年生を対象とした「アメリカ産チーズアイディアメニューコンテスト」が、2025年10月23日に東京・代々木で開催された。8回目を迎える今回は、「西洋料理」「日本料理」「中華料理」「製菓・製パン」の4ジャンル、31チームがアメリカ産チーズを使ったレシピを考案。調理、審査員へのプレゼンテーションを行なった。学生たちは、アメリカ産チーズの専門知識を学ぶ「アメリカ・チーズスペシャリスト認定プログラム」を受講しており、試行錯誤を重ねたアイディアレシピが披露された。

学生たちは、アメリカ産チーズの魅力を料理に生かすため、何度も試作を重ね、磨き上げたレシピを発表。大賞、金賞、特別賞が選ばれた。
大賞は「製菓・製パン」チーム(森田恵太さん、渡邉れみさん、テオ・ジ・シェンさん、大森麻倫さん)の「チーズアップルコブラ 〜バナナのエスプーマ添え~」
アメリカの伝統菓子「アップルコブラー」に、ペッパージャックとコルビージャックを合わせた。

アメリカ産チーズの特徴

アメリカでのチーズの歴史は、1620年にイギリスの清教徒がメイフラワー号で北米大陸に渡った際に運ばれたことから始まった。ヨーロッパ各地域で作られてきたチーズの伝統技術を活かし、発展させてきたことで、親しみやすい大衆的なチーズから、職人が昔ながらの伝統製法で少量ずつ作ったアルティザンチーズまで、今や1,000種類以上を生み出す世界最大のチーズ生産国となった。日本で主に流通しているのは、マイルドで親しみやすいタイプが多く、幅広い料理に合わせやすい。アメリカ産チーズのうち、ジャック3兄弟と呼ばれる代表的な3種をご紹介しよう。これは18世紀半ばにカリフォルニア州モントレーに定住したスペイン人の修道士が作ったチーズを、その100年後に実業家のデヴィッド・ジャックスが自身の名前をつけて「モントレージャック」として売り出したことから始まったものだ。

アメリカを代表するチーズ“ジャック3兄弟”

モントレージャック
セミソフトタイプでクリーミー、マイルドな味わいが特徴で、サンドイッチやサラダにピッタリ。溶かすと糸引きがよく、コクが増すため、スープやピザ、ソースなど幅広い料理に使われる。

コルビージャック
セミハードタイプのコルビーと、モントレージャックをブレンドしているため、クリーミーな白い部分とオレンジのマーブル模様が特徴。加熱するとマーブル状に溶け出し、料理に華やかさをプラス。

ペッパージャック
モントレージャックをベースに、ハラペーニョやハバネロなどさまざまなペッパーを加えたスパイシーな味わいが特徴。ピッツァやケサディーヤ、ナチョスなどテックス・メックス料理とも相性が良い。

アメリカ乳製品輸出協会(USDEC)は、米国産の乳製品や乳原料の需要拡大を目指して、酪農家や加工業者、協同組合、原料サプライヤー、輸出業者が集まって1995年に設立された団体。2019年には下部組織としてUSAチーズギルドを設立し、米国産チーズの品質や多様性を世界に広める活動を展開している。

アメリカ産チーズの情報はこちら
https://www.instagram.com/cheesefromtheusa.jp

アメリカ産乳たんぱくの情報はこちら
https://www.instagram.com/milkproteinusa.jp

text : Nobuko Minagawa photo : Hiroyuki Takeda

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