フランス産チーズの熟成による多様な魅力とそれを際立たせるペアリング


およそ1400もの種類があるフランス産チーズ。原産地や牛や羊、ヤギといった乳の違いで味わいもテクスチャーも様々だ。中でも生産量の多い牛乳製のチーズは比較的クセがなく、日本でも幅広く親しまれている。今回は、そんなフランスの牛乳製チーズの熟成の違いによるバリエーションを、食材として料理に活かすアイデアを、バール ア フロマージュ スーヴォワルの藤田洋介シェフが披露してくれた。

長い歴史の中で培われた伝統的な製法と文化的なノウハウにより、その土地のテロワールを表現したチーズが数多存在するフランス。特に生産量の多い牛乳製のチーズに限っても、その土地の気候や風土、地形はもちろん、牛の品種や餌によってもその風味に大きく影響する。そしてその餌も、地域によって生えている牧草が異なるだけでなく、干し草やサイレージの比率が増えるなど季節によっても変わって来る。つまり、同じチーズであっても、春のミルクなのか冬のミルクなのかで味わいにも差が出るということだ。

チーズの多様性を生む要素は、原料のミルクの違いだけではない。熟成士という職業がM.O.F.(フランス国家最優秀職人)のカテゴリーになっているように、最終工程としての「熟成」がそのチーズの最終的な味を決めるのだ。

今回はバール ア フロマージュ スーヴォワルの藤田洋介シェフの料理を通じて、フランス熟成チーズの魅力に迫ってゆく。

今回用意されたチーズはミモレット、ブリアサヴァラン、モンドール、コンテの4種類。まずはそれぞれ熟成期間の違いで食べ比べる。また、各チーズにはシェフの選んだペアリング食材が添えられていた。

6ヶ月熟成の若いミモレットにはマスタード、これがナッツの香りが出て来るほどに熟成の進んだ22ヶ月のものになると、ペーカンナッツが合わせられる。届きたてのモンドールには優しい味わいの全粒粉のパンを合わせたのに対し、モミの木の木枠の風味がチーズと一層馴染んだ熟成したものには香りの相乗を狙ってパンデピス。8ヶ月のコンテにも味を邪魔しない甘納豆で、対する22ヶ月熟成に合わせたコーヒーとラムに漬け込んだレーズンは熟成で出て来たしっかりとしたうま味の土台あってこそのペアリングだ。

白眉だったのはブリアサヴァラン。若いフレにはスジアオノリとハチミツが添えられていたが、スジアオノリの青い磯の香りとハチミツの甘さが、ヨーグルトのような柔らかな酸味のあるブリアサヴァランの若々しさをよくよく引き出していた。熟成したアフィネにはダークチョコ。熟成によって増した複雑さの中で唯一足りない苦味をダークチョコが補い、ペアリングによってより完璧な球体へと近づいていた。

後半はいよいよ藤田シェフの料理とソムリエの長谷さんによるドリンクのペアリング。

前菜は「藁焼き鰹とホエイバンズのハンバーガー仕立て」。18ヶ月熟成のミモレットを削ったものがパティに見立てた鰹のタルタルに混ぜ込まれ、さらに細く千切りにしたものが添えられていた。ペアリングはイタリア、エミリア・ロマーニャの濃いロゼの微発泡。彼の地のワイン、殊に微発泡としては内陸のランブルスコが有名だが、こちらの産地はアドリア海に近い海側のエリア。ワインが持つ海の要素と牧草の香りとがミモレットと違和感なく溶け合い、料理全体のうま味をチーズとワインとで底上げしてくれていた。

続く魚料理は「季節の魚介、ブリアサヴァランフレと新いくらすだちの白ワインソース」。こちらは「フレ」と呼ばれる若い方のブリアサヴァランをソースに溶かし込むという使い方だ。ワインはフランス・サンセール。ブリアサヴァランによってソースの味わいに厚みが加わっており、ワインにはそれに負けないだけのボリュームが求められる。そのうえでこのワインの持つ鋭角的な酸味が料理の重心を引き上げており、チーズのソースも軽やかに楽しめる。

肉料理は「ピレネー産ビゴール豚のロティ 生粒胡椒と熟成モンドールのソース」。ドングリなどの木の実を食べて育つビゴール豚のナッツの香りとモンドールの森の香りとを合わせた、それぞれの食材の生まれた環境が実は似通っている、共通の要素を持つことから生まれた一皿。モンドールの熟成によるまろやかさが肉の脂を包み込み、相乗して一層リッチな味わいになっていた。ワインはフランス・ジュラのサヴァニャンとイタリア・ヴェネトのヴァルポリチェッラ・リパッソのダブルペアリング。「肉には赤ワインという定番の形ももちろんありだけど、チーズにフォーカスして合わせたらこんな提案もできますよ」というような、お店からのメッセージを強く感じられるペアリングだった。

最後のデザートは藤田シェフのスペシャリテでもある「2種類のコンテを使ったチーズケーキ」。熟成した24ヶ月のコンテをクッキー生地に使うことでボトムのうま味を強め、ベイクドチーズケーキの部分には8ヶ月の若いコンテでホワイトチョコのようなニュアンスを出した。ペアリングはシャンパーニュにカシスを加えたキールロワイヤル。シャンパーニュの複雑味とクリーミーな泡にカシスの果実味が加わることで、チーズケーキに寄り添うソースのような役割を果たしていた。

今回藤田シェフが披露してくれた4皿すべてに、フランスの牛乳製チーズが使われていた。若いチーズもあれば熟成したもの、両方を組み合わせて使った料理もあり、料理に合わせてどれも見事に選ばれて使い分けられていた。熟成には当然時間がかかり、しかもただ熟成庫に置いておけばいいわけでもなく、チーズを回転させたり洗浄したり、管理の手間もかかる。その分単価も若いチーズより高くなるのは確かだが、食材として見た時にそこに上下があるわけではない。

牛や羊といった原料のミルクの違い、彼らが育つ気候や食べる餌などテロワールの違いと同様に、熟成は、味わいの多様性をもたらす重要な要素の1つであり、その個性を見極めて使い分けることが大切だ。そしてその多様な個性は、組み合わせる食材やペアリングのドリンクによって一層際立たせることができる。藤田シェフの料理と長谷ソムリエのペアリングは、それをはっきりと示してくれる格好の例であった。

Fromage Lab ―ようこそ、フランスチーズの実験室へー

「チーズの“熟成”の魅力をひも解くセミナー」など、「Fromage Lab」をテーマに来場者がフランスチーズの研究員の一人となり、五感を使ってフランス産チーズの新たな魅力を発見し学ぶことのできる体験型イベント。

日時:11月8日(土)、9日(日)11時~18時
会場:Rand表参道
東京都渋谷区神宮前4-24-3 神宮前コートC 1F(明治神宮前駅5番出口5分)
入場料:無料

セミナー・ワークショップの予約はこちら(事前予約制・当日席もあり)
https://authenticfrenchcheese.peatix.com/

text: CUISINE KINGDOM

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