「“チーズ”ってなに?」あなたは答えられますか? 過去最大規模のチーズイベント「Cheese Fun!Fan!Fun!」開催

日本のチーズのおいしさを伝えるイベント「Cheese Fun!Fan!Fun!」が開催された。 国産ナチュラルチーズのコンテスト「Japan Cheese Awards2022」と国産ナチュラルチーズの生産者との交流や試食体験ができるイベント「第8回 日本の銘チーズ百選」が同時に行われ、5,000人を超える人が集まり、過去最大規模のチーズイベントとなった。

2022年10月15日(土)、16日(日)の2日間に渡り、日本のチーズのおいしさを伝えるイベント「Cheese Fun!Fan!Fun!」が開催された。
国産ナチュラルチーズのコンテスト「Japan Cheese Awards2022」と国産ナチュラルチーズの生産者との交流や試食体験ができるイベント「第8回 日本の銘チーズ百選」が同時に行われ、5,000人を超える人が集まり、過去最大規模のチーズイベントとなった。

会場に入ってまず目に触れるのが『「“チーズ”ってなに?」あなたは答えられますか?』というメッセージだ。「ミルクを乳酸菌や酵素の力で固めて、ある程度水分を切ったもの」というのが最低限のチーズの定義であるが、そのシンプルさゆえにそこからの派生は世界中に無数に存在する。
日本は1960年代に絵画からチーズの輸入が盛んになり、1970年の大阪万博をきっかけにナチュラルチーズがブームに。その後もピザやチーズケーキ、イタリアン、ボージョレヌーヴォーなどのブームとともにチーズそのものも認知を伸ばしてきたが、それは一貫して海外産のチーズについてだった。

しかし、そんな流れも2000年代後半から変わってきた。日本のチーズといえば牧場が直接チーズ製造を行うものが主流だったが、ミルクを近隣の牧場から仕入れて「チーズ製造販売業」を専業とする作り手や、都会のレストランが工房を併設するといった、海外にもあまり例のない独自のスタイルまで現れ、国内のチーズ工房の数は2006年の106軒から2020年には332軒と、14年間で3倍以上にもなった。
こうした変化の中で、日本にも独自の気候、風土や個々の作り手の個性が現れたチーズが、量も質も急激に増えているのだ。

今回の「Cheese Fun!Fan!Fun!」はそうしたチーズの歴史や国産チーズを知ることでもっとチーズのことを好きになってもらい、日本の乳食文化が一層豊かになることを目指すイベントだ。
従来は別個に開催されていた、国産ナチュラルチーズのコンテスト「Japan Cheese Awards2022」と国産ナチュラルチーズの生産者との交流や試食体験ができるイベント「第8回 日本の銘チーズ百選」を総称して同時開催。過去最大規模のチーズイベントとなった。

会場となった新宿住友ビルの三角広場には5,000を超える人が集まった。
会場となった新宿住友ビルの三角広場には5,000を超える人が集まった。

「第8回 日本の銘チーズ百選」は、会場を3つに分け、チーズについて「知る」「生産者の魅力に触れる」「おいしさを体験する」というそれぞれのエリアから日本のチーズの魅力を発信した。
「チーズについて知る、新しい発見をするエリア」では、チーズの製法やタイプごとの違い、牛や羊などミルクの違い、歴史、ドリンクとのペアリングなどたくさんのパネルや、ラクレットオーブン、花弁のように削って食べるテット・ド・モワンヌ専用の削り器であるジロールといった様々な道具などが展示されていた。一般消費者向けのイベントだが、プロの料理人やサービス人たちにとっても学ぶところの多い骨太の内容で、コンテンツの企画監修・原稿執筆を担当したチーズプロフェッショナル協会の佐野嘉彦氏のもとには、ミニブック化を希望する声が多数届くほどだった。

「チーズをもっと好きになってもらうため、生産者の魅力に触れるエリア」では、特設ステージで生産者とチーズプロフェッショナル協会によるトークセッションなどが行われた。また、Japan Cheese Awardsの審査員体験ワークショップが開催され、約150人が参加。奥深い審査の世界に触れるという、貴重な体験が出来た。

「日本のチーズのおいしさを存分に体験するエリア」では、チーズや、ラクレットをバケットに焼き付けるパンジュといったおつまみ、そしてチーズに合うワインやビール、日本酒、クラフトコーラ等のドリンクが提供された。さらに、8種類の国産チーズが一度に楽しめる「運命のチーズ探し体験チーズアソート」は計3,000セットが完売するほどの盛況ぶりだった。

「“チーズ”ってなに?」あなたは答えられますか?」 過去最大規模のチーズイベント「Cheese Fun!Fan!Fun!」開催
「“チーズ”ってなに?」あなたは答えられますか?」 過去最大規模のチーズイベント「Cheese Fun!Fan!Fun!」開催
8種類の国産チーズが一度に楽しめる「運命のチーズ探し体験チーズアソート」は3,000セットが完売。

「Japan Cheese Awards」は2014年に始まり今年で5回目を迎える、国産ナチュラルチーズの品質評価のコンテストだ。コンテストを通じて国産チーズの品質をさらに向上させ、全国各地の製品や工房の名声を高めることを目的とし、審査は、チーズプロフェッショナルの有資格者の中でも、品質評価セミナーを修了し、さらに選考を通過した審査員が核となり、これに生産者や販売者、海外コンクールでの審査経験が豊富な特別審査員を加えて、3~4人のグループで個人の主観ができるだけ入り込まないようにしながら、非常に厳しく行われる。
2022年度は109工房311品がエントリー。イベントの2日目に当たる10月16日には結果発表と表彰式が行われ、神奈川県・タカナシ乳業株式会社商品研究所の「Brise de mer CAMEMBERT」と北海道・美瑛放牧酪農場の「フロマージュ ド 美瑛 夏ミルク」が同点となり、最高賞であるグランプリは、史上初のWグランプリとなった。

タカナシ乳業株式会社商品研究所 取締役 商品部部長 佐藤雅幸さん
タカナシ乳業株式会社商品研究所 取締役 商品部部長 佐藤雅幸さん
美瑛放牧酪農場 チーズ工房長 小熊章子さん
美瑛放牧酪農場 チーズ工房長 小熊章子さん

「Brise de mer CAMEMBERT」はタカナシ乳業と世界的に有名なイズニーサントメール酪農協同組合の業務提携により産まれたチーズだ。根釧地区にあるチーズ工房と同じ敷地内の牧場で放牧されて育った生乳を使い、フランスのノルマンディで行われている「MOULE A LA LOUCHE」と呼ばれる伝統的製法を採用。乳酸菌や白カビにもこだわって作られ、両者の技術と経験を結集させて、この地ならではのカマンベールに仕上げられている。

Brise de mer CAMEMBERT
Brise de mer CAMEMBERT

一方の「フロマージュ ド 美瑛 夏ミルク」はフランス伝統のコンテチーズの製法で作るハードタイプのチーズだ。放牧酪農で自由に育ったジャージー種・ブラウンスイス種・ホルスタイン種・モンベリアード種の4種の牛の生乳がブレンドされ、夏の青草を食んだミルクを使って作られたチーズの生地は、黄色みが強く、香りが華やかなのが特徴だ。美瑛のミルクを使い、美瑛軟石をつかった熟成庫で、美瑛産トドマツの木板の上で熟成させたチーズということで、EUによる原産地呼称保護(PDO)のために「コンテ」とは名乗れない不利を感じさせないどころか、その名を借りる必要もないほどに、美瑛の風土が感じられるチーズとなっている。

フロマージュ ド 美瑛 夏ミルク
フロマージュ ド 美瑛 夏ミルク

このように、2つのチーズは、フランスの製法、技術を学び、取り入れながらも、現地のチーズのコピーや再現ではなく、その土地のミルクを使い、その土地の個性、テロワールを強く打ち出し反映させた、という点が共通している。
一方で、各部門の最優秀部門賞を見ると、作り手の個性を前面に出したようなオリジナリティ溢れるチーズも多数受賞しており、どちらのスタイルがトレンドになっていくのか、次回は個性的なチーズがグランプリに輝くのか、今後の動きにも注目だ。

非加熱圧搾/熟成4カ月未満部門の最優秀部門賞、ボスケソ・チーズラボのKARAMATSU MIke

また、レストラン業界にとっては特に注目なのが、フレッシュ/リコッタ部門、パスタフィラータ/モッツァレラ部門、パスタフィラータ/ブッラータ部門の3つで最優秀部門賞を受賞した「カゼイフィーチョ・セルヴァジーナ」だ。
こちらのベースになっているのは東京・駒込にある「オステリア・セルヴァジーナ」というイタリア料理店。南伊プーリア料理を中心に春は野草、夏〜秋は天然きのこ、そして冬にはジビエなど、自ら収穫した食材を活かしたここだけの料理を提供しており、その延長として東京・八王子の磯沼牧場のミルクを使って手作業でチーズも作り提供してきた。それを、少しでも多くの方々に、少しでも気軽に自宅でも、ということで店内を改装し、本格的な工房を併設してできたのがこの「カゼイフィーチョ・セルヴァジーナ」なのだ。

パスタフィラータ/モッツァレラ部門で最優秀部門賞を受賞したトレッチャ・ディ・モッツァレラ。
パスタフィラータ/モッツァレラ部門で最優秀部門賞を受賞したトレッチャ・ディ・モッツァレラ。

チーズプロフェッショナル協会会長の本間るみ子氏も度々触れられていたように、国内のチーズ工房が増えている中で、従来からの牧場がチーズを新たに作り始めるというだけでなく、ミルクを近隣の牧場から仕入れてチーズに加工、販売する工房が増えており、その流れはさらに一歩進んで、レストランというチーズの加工、販売の専業でない、あるいはそれを本業としない工房の増加にまで及んでいる。
今回、このようなレストランから派生したチーズ工房の作り手が、品質の面で非常に高く評価されたことは、「カゼイフィーチョ・セルヴァジーナ」の高桑シェフをはじめとするスタッフたちはもとより、後に続くレストランにとっても大いに刺激と勇気を与えるものだ。こうした「レストラン兼チーズ工房」たちのさらなる発展に期待したい。

text:小林 乙彦(料理王国編集部)

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