【漲る!地方食材】広島県・三次市 「三良坂フロマージュ」


日本では珍しい山地酪農スタイルで

三良坂フロマージュでは、ヤギ20頭のほか、3頭の乳牛(ブラウンスイス牛)を飼っている。家畜も家族の一員と考える松原さんは、すべての家畜を名前で呼ぶ。「こっちを見ているのはメレンゲ、後ろ姿のはマカロン、マドレーヌ、ショコラ、パンナコッタです。親しみやすいように、ヤギにはお菓子の名前を、牛にはパンの名前をつけました」。

「フランスではヤギ乳からたくさんのチーズが作られています。フランスの食文化を学んだ者として、自分なりにシェーブルを作っていきたいと思っています」と語るのは、広島県三次市郊外にチーズ工房「三み らさか良坂フロマージュ」を構える松原正典さん。フランスやイタリアでチーズ作りを学んだ松原さんは、04年に三次市郊外にチーズ工房を開業。3年前から、アルパイン種と呼ばれる、ヨーロッパ原産のヤギを育て始めた。この春、仔ヤギが9頭生まれた。現在、9haの牧場で20頭のヤギを飼っている。とはいえ、搾乳できる雌ヤギは8頭。しかも、山林に細い道を作っただけの、山地酪農と呼ばれる放牧を行っている。この放牧のスタイルでは穀物を与えず、ヤギたちは山林に生えている草木などを食べているので、1日に1〜2ℓしか搾乳できない。1ℓの乳から作れるのは約80gのチーズ1個。8頭のヤギでは、日に8個のチーズを作るのがやっとだ。「確かに穀物をあげれば、もっとたくさん乳が出るので、チーズの生産量も増えます。でも、山林を自由に歩き回り、食べたいものを食べ、そのおすそ分けを人間がちょっともらえれば充分だと思っています」ヤギの乳は白い。ところが、松原さんのヤギたちは、カロテンを含む里山の草木をたくさん食べるせいで黄色っぽい乳を出す。その影響でチーズも若干黄色いのが特徴だ。ヤギのチーズはにおいが強いというイメージが強い。だが、アルパイン種のチーズにはヤギ臭さがなく、熟成初期の若いチーズはあっさりとしていて食べやすい。一方、しっかりと熟成させたものは、クリーミーで濃厚な味わいに変化する。

【ヤギのチーズ】
ヤギの品種は200種類以上。その中で代表的な乳用種は、ザーネン、トッゲンブルグ、アルパイン、ヌピアンなど。11月頃妊娠し、春先に出産するため、搾乳できる期間は4月から11月頃まで。ヤギは、毒草以外なら野にある草木はなんでも喜んで食べる。穀物や牧草の育たない痩せた土地や、岩場やガレ場、急斜面にも適応できる家畜として、ヨーロッパでは昔から重用されてきた。そのチーズの起源も牛乳のチーズより古く、フランスではシェーブルと呼ばれ、地方ごとにさまざまな種類がある。AOC(原産地統制呼称)を取得しているものも多い。ヤギのチーズは、乳酸菌で中から発酵するタイプと、乾燥を防ぐため、表面に付けた白カビや木炭粉で熟成していくタイプがある。プロヴァンス地方では、栗の葉に包んで熟成させたバノンという香りのよいチーズが昔から作られてきた。ヤギのチーズには、厚みのある丸いものや、煎餅のような薄い円形、四角形、長方形、棒状、トリュフ形、さらにプーリエ・サン・ピエールのようなピラミッド型がある。フランスでバノンに感動した松原さんは、日本らしいチーズを作ろうと思い立ち、柏の葉で包んだ「フロマージュ・ド・みらさか・シェーブル」(写真)を考案。昨年のオールジャパン・ナチュラルチーズコンテスト(社団法人中央酪農会議主催)で農畜産業振興機構理事長賞を受賞した。

三良坂フロマージュ

「アルプスの少女ハイジ」の世界に憧れた松原さんは、高校卒業後、広島の農業学校で酪農を学んだ。その後、国内外の牧場で働くなかで、家畜が畜舎の中で一生を終える現状を痛感。家畜が幸せになれる山地酪農をやろうと決意した。四国で山地酪農をしている人に、山地酪農家になるには林業の知識が必要と教えられ、広島で林業の仕事に就く。その間、フランスやイタリアに渡り、チーズ作りを学んで、2004年に自身のチーズ工房をオープン。「私がこの地で、放牧したヤギの乳から最高のチーズを作ることで、山地酪農というスタイルが模倣され、日本に広まってほしいと願っています」。

山林で自由に歩き回り、草木を食べたヤギたちは、夕方搾乳し、夜間は野犬がいるため畜舎に入れられる。

松原正典さんは早朝、雌ヤギを山林に放したあと、店舗に隣接する工房で夕方までチーズ作りに専念している

「フロマージュ・ド・みらさか・シェーブル」(左と下)は1280円(約80g)。地元産のラベンダーを添えた「カレ・ド・ラヴァンド・シェーブル」(右)1680円(110g)。中央上は試作品。

三良坂フロマージュ
広島県三次市三良坂町仁賀1056-12
● Phone & Fax 0824-44-2773
※11月、下記の店で「三良坂フロマージュ」のチーズが数量限定で販売される。
問:フェルミエ
東京都港区愛宕1-5-3 愛宕ASビル1F
● Phone 03-5776-7720

東京から広島県へは、飛行機なら羽田空港-広島空港が1時間20分、新幹線なら東京駅から広島駅まで約4時間、新大阪駅からは1時間20分。瀬戸内海に面した沿岸部ではカキをはじめとする魚介類が、三次市など山間部では広島牛や鮎などが知られ、海山両方の食材が豊富に揃う。

調理のコツ
ヤギのチーズはこう使う!

レストラン シマムラ レスプリ・ド・ミクニ
広島県広島市中区上八丁堀4-1
アーバンビューグランドタワー12F
● Phone 082-511-1618
● 11:30~14:00、17:30~21:00
● 月休(月が祝日の場合は翌日休)

島村 光徳さん

「三良坂の野山の草を食べて育ったヤギのチーズには、テロワールが表われている」と話す「レストラン シマムラ レスプリ・ド・ミクニ」のシェフ、島村光徳さん。同じく地元で採れた数種類のキノコを合わせた。シイタケの笠に、ソテーしたキノコとエスカルゴをつめ、その上から「フロマージュ・ド・みらさか・シェーブル」をユリ根のピュレと合わせてベシャメルソース風にしたものをかけ、グラティネに。広島県の山間部の山の幸を生かしたひと皿が生まれた。

武井武史=文  ヤスクニ=写真

本記事は雑誌料理王国196号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は196号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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