エコアイランド佐渡の自然と共生する食材づくり「新潟県・佐渡市」


朱鷺とともに暮らす


2008年9月、佐渡の秋空を朱とき鷺が舞った。一度は絶滅した朱鷺だが、中国から寄贈された朱鷺を繁殖させることに成功し、いよいよ大自然に放たれたのだ。佐渡市では、野生復帰した朱鷺が生きていける環境づくりにつながる環境保全型農業への取り組みが、大きな実を結んでいる。そのひとつが「朱鷺と暮らす郷」米である。朱鷺が絶滅した原因は、生育環境の悪化により、エサとなるドジョウや昆虫などが減ったことだといわれる。そこで、佐渡市は自然と共生する水田づくりへ向け試行錯誤を重ね、「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を設けた。おいしさと安全性はもちろんながら、この米を食べることによって、消費者にも自然保護への意識が高まることを期待している。

朱鷺が教えてくれた
郷づくりこそ味づくり

米だけでなく、果実栽培や酪農も環境保全とともに、その歩みを進めている。佐渡を代表する果物のおけさ柿や、高品質の生産地としてその名を広めつつあるル レクチェも、農家の方々が自然環境へ高い意識を持ちながら栽培しているもの。また、豊かな自然の中で育った健康な乳牛から採られる生乳がおいしいのは自然の道理。その生乳をもとに、丁寧に手作りするバターやチーズは、大量生産にはない味が醸し出される。四方を海に囲まれた佐渡は、冬の代名詞でもある寒ブリをはじめ、ベニズワイガニや南蛮エビなど、海産物の宝庫でもある。自然に逆らわず、朱鷺をはじめとするあらゆる生物と暮らすことによって産出される食材だからこそ、佐渡の食材は滋味にあふれている。

「朱鷺と暮らす郷」米作りを続ける齊藤真一郎さん。8年前から無農薬栽培に取り組み、現在は、14haある水田のうち約8割を無農薬で栽培している。冬期湛水や江の設置などを行う「生き物を育む農法」による水田には虫が多くいるため、収穫作業時には刈った稲穂から飛ばされる虫を目当てに、たくさんのトンボが集まっていた。

「朱鷺と暮らす郷」米 ――― 佐渡市新穂

「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」によって認定された米のことで、2008年産米から流通するようになった認証米である。認定基準は4つあり、なかでも「生き物を育む農法」を実践している点が特徴。朱鷺などのエサとなる生き物を育むために、水田や水路に江(つねに水がたまっている状態の溝)を設置したり、冬季の田んぼにも水をためておくなど、水田環境の整備が義務づけられている。現在は、約860haでこの認証米が栽培されている。

「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」の認定基準
①佐渡市で栽培された米であること。
②栽培者がエコファーマー*の認定を受けていること。
③特別栽培**により生産された米であること。
④「生き物を育む農法」により栽培していること。

*エコファーマーとは土壌診断に基づいた土作り技術、化学農薬・化学肥料提言技術計画を新潟県から認定された安全・安心な農業を実践する農業者のこと。
**栽培期間中に無農薬・無化学肥料で、あるいは、化学農薬や化学肥料を佐渡地域慣行比5割以下に減らして栽培されたもの。

独特の粘りと、噛むほどに広がる旨味が特徴の「朱鷺と暮らす郷」米は、ほとんどがコシヒカリ。無農薬・減農薬栽培により安全性も高い。

水田の脇に設置された江には、水田に水がない時期にも多種多様な虫が成育し、朱鷺がついばみに飛来する。

佐渡は夏の気温が新潟に比べて1~2℃低いため、穂が出てから刈り込みまでの時間が長く、米の味がよくなるという。

牛乳、バター、チーズ ――― 佐渡市中興

佐渡市内で生産される生乳のみを使い、昔ながらの木製器具「バターチャーン」で作られるのが佐渡バターだ。独特の風味があり、さらに成形から硫酸紙で包む工程をすべて手作業で行っている。ほかにも、クリーンミルク生産農場に認定された農家の生乳のみを使用する「トキパック牛乳」や、カマンベールチーズやクリームチーズなど、上質な乳製品が揃う。チーズは「ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト」で優秀賞を受賞している。

佐渡ブランドの乳製品の数々。チーズは、カマンベールチーズ、クリームチーズ、ゴーダチーズの3種類が揃う。いずれも受賞歴がある。飲むヨーグルトの人気も高い。市内で流通する佐渡牛乳のほか、コーヒー牛乳は隠れた逸品といわれている。

㈱佐渡乳業の代表取締役専務の土屋一春さん。徹底した手作りにこだわり、環境への意識も高い。

佐渡バターは、週に600個しか作られない希少品だ。海洋深層水から作られる塩を加えた有塩バターもある。

クリームチーズをカップに詰めているところ。チーズ作りも手作業が多い。

おけさ柿、ル レクチェ ――― 佐渡市羽茂

おけさ柿は、平ひ らたねなしかき核無柿の一種で、渋柿である。佐渡では、炭酸ガスとアルコールを用いる独自の方法で脱渋することで、独特のとろりとした食感と甘味のある柿に仕上げている。佐渡市内でも、羽茂で栽培される柿は品質に定評があり、遠くから買い求めるお客も多い。ル レクチェは洋梨の一品種で、香りと甘味が華やかで、しっとりした食感が特徴だ。20人の生産者が新しい佐渡の名産品にするべく栽培に取り組んでいる。

おけさ柿は鮮やかなオレンジ色をしており、色まわりがよいと表現される。羽茂地区は佐渡の中でも気温が高く、南向きのなだらかな斜面が多いため、柿栽培に適している。09年は4800トンの生産量を予定する。

手作業と機械で選別を行い、規格ごとに箱詰めされる。

ル レクチェを栽培している高野栄一さん。通常は1本の木で約1000個の実を育てるのに対し、高野さんは4本の木で約1000個と1本の木の負担を少なくすることで、品質の高いル レクチェ作りに取り組んでいる。

高級品種のル レクチェは、贈答品としても喜ばれる。

新潟県

佐渡島は、新潟港から高速船のジェットフォイルで約1時間。その面積は855.25㎢で、東京23区のおよそ1.5倍に相当する。北部の大佐渡山脈、南部の小佐渡山脈に挟まれるように、米どころの国仲平野が横たわっている。佐渡沖を流れる対馬海流の影響で、新潟に比べ、夏は気温が低く冬は暖かいため、雪も積もらず比較的過ごしやすい気候といえる。また、米や果実などの農作物だけでなく、ブリやカキなどの海産物にも恵まれている。

佐渡観光協会
新潟県佐渡市両津湊198
● Phone 0259-24-1955

㈱佐渡乳業
新潟県佐渡市中興122-1
● Phone 0259-63-3151

JA佐渡 営農部 畜産課 ミルク工房
新潟県佐渡市吾潟1839-1
● Phone 0259-22-4118

JAはもち 営農課
新潟県佐渡市羽茂本郷504-3
● Phone 0259-88-3133

本記事は雑誌料理王国184号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は184号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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