台北で尊敬を集める超人気店が、ロンドンへ。天本昇吾シェフの“ノーナンセンス”な鮨とは?


ミシュラン二つ星を返上し、お客さんとの関わりを深めてきた台北の名店「鮨 天本」が、この2月にロンドンへ上陸。オーナーシェフ、天本昇吾が英国で見せたい、筋の通った鮨の匠をひもとく。

ロンドンは「茶碗蒸し」流行り。和食以外の店でも卵液を使った蒸し物「Chawanmushi」がメニューに載るご時世なのだが、首をひねることが多い。それが先日2月19日にオープンしたばかりの「鮨 天本 / Sushi Amamoto London」で、コース料理のしょっぱなでいただいた茶碗蒸しには正直ほっとした。本物の味に胃の腑がほどよく温まり、きたる鮨コースへの準備が見事、ととのえられた。

「鮨 天本」の本店は、お洒落な街として知られる台北市大安区にある。日本人シェフの天本昇吾さん(冒頭写真©Eleonora Boscarelli)が2015年にオープンし、2022年までにミシュラン二つ星を3年連続で保持する実力と名声を兼ね備えた店へと成長。あまりの人気に途中から会員制としたためにミシュランの星は手放したが、カウンター12席の天本は予約が超困難な幻の高級店として、存在感を増し続けている。

それがこの度、ヨーロッパ初の支店として「鮨 天本 / Sushi Amamoto London」がオープンの運びとなった。パリの著名な鮨シェフ、渡邉卓也さんのおまかせバー「Taku」のチームを引き継ぎ、ロンドンの高級鮨業界へ挑む。モダン・チャイニーズや日本料理店を数多く手がけるベテラン事業パートナーによる声がけで、実現した。

ロンドンの高級エリア、メイフェアにあるカウンター16席のシンプルなバー。ロンドンで今いちばんホットな鮨カウンターだ。
ハマチは福岡の味を意識し、柚子胡椒で。ホタテはスコットランド産。口休めのキュウリはわさび味噌で。

天本昇吾シェフは福岡県出身。福岡・中州で屋台を営んでいた父の影響で、15歳で福岡の鮨割烹「高玉」に就職、職人の世界へと足を踏み入れた。鮨の技術と心を徹底的に学び、高玉の台湾支店の立ち上げを手伝うため台湾へと移住。現地に魅了され、以来ずっと台湾に在住されている。至極台湾びいきなのである。

自身の名を冠した「鮨 天本」では福岡時代も含め、これまでの経験すべてを注ぎ込んだ独自スタイルを確立した。シェフは言う。「鮨でもっとも大切なのは、温度と食感」だと。

少し酢を強めにしたシャリと、西日本らしい厚めのネタがよく合う。口に入れたときに最も好ましく感じるよう、ネタによってシャリの温度を微調整するなど、経験に基づいた職人の配慮が、さらに天本の鮨を格別なものにしている。

ゆっくり食べ進めるうちに酢飯の酢を感じなくなるが、そうならないコースの早い段階で酢飯にエビやイカの天ぷらをのせたぜいたくなミニ天丼も味わう。天本シェフのコース料理はリズムとバランスが大変よく、奇を衒わない真っ直ぐさの中にふくよかな味わいが広がり、伝統と進化の匠がなんともいい塩梅で溶けあっている。

ロンドンの高級鮨はとかくキャビアやトリュフなどの贅沢食材につい頼ってしまう傾向にあるのだが、天本シェフは頼りすぎないと決めた上で、独自に開発したレシピとヨーロッパらしい食材の組み合わせも研究しているという。

例えば、餅とキャビア。日本から持ち込んだ餅つき機で作る小判型の餅に松の実を混ぜこみ、オリーブ色に輝く上品な高級キャビアをのせ、焼き海苔ではさんでいただく。聞くと台北店の名物だそうだが、カラスミの代わりにヨーロッパらしいキャビアを取り入れたのだそうだ。だが天本らしさは、これだけにとどまらない。

左はコース初盤を飾るシーバス、ポン酢ソース。右は鮨飯でいただくミニ天丼。コースはランチ17品、ディナー22品。
シンプルな餅と、濃厚なキャビアの組み合わせは絶対的に正しい。ここでしかいただけない一品。

店のスター・メニューに、特製「松前寿司」がある。長方形の木の型にネタと酢飯を入れて蓋をし、型をリズムよく回転させながら押し固める。蓋をはずして押し寿司を取り出し、甘く煮込んだ北海道産の昆布で巻いて形を整えたら切り分けていく。

松前寿司には脂ののった魚が必須だが、ロンドンでは鯖の仕入れが安定しないため研究を重ねた末、肉厚なトラウト(マス)で代替することにした。ゼリーのように滑らかでとろける昆布と、脂ののった魚、甘さのあるシャリのトリオは完璧で、じつに旨い。台北でも絶賛されている。

もう一つ、コースの途中でヨーロッパらしい食材、フォアグラを使った新メニューが登場する。フォアグラとキャラメルを合わせた餡をラングドシャに近いサクサクのクッキーで挟み、チョコレートでコーティングしたものを、さらに最中で挟む。甘い一品だが、鮨コースの半ばで舌を遊ばせる趣向らしい。台湾ではあん肝を使うのだそうだ。

天本シェフには1歳違いの双子の兄がいて、2番目の兄がケーキ職人。こうした甘いものに関して随時相談しながら開発しているという。1番目の兄については、もしかするとピンと来られた方もいるかもしれない。「東麻布 天本」のオーナーシェフ、天本正通さんだ。素晴らしき職人兄弟なのである。

左はレッドマレット(ヒメジ)。皮を少し乾かし、エビの旨味を染み込ませたバターを塗りながら炭火で焼く。右は大トロ。
名物「松前寿司」は、ここでしか食べられない味わい。天本シェフは台北店の予約に対応するため今年の渡英は難しいが、来年は3ヵ月に一度はロンドンで握る予定。

Sushi Amamotoは、以前ここにあったTakuと同じインテリアを踏襲し、チームの一部も譲り受けている。しかし料理はまったく違った趣向だ。花をあしらうような瀟酒なフランス風でなくなった代わりに、英国的なミッドセンチュリー・モダンの質実剛健さ、ある種の様式美を感じさせる仕様になった。洗練の中に、遊び心もある。

それは「日本的」とも言えるが、天本昇吾という卓越したシェフの芯のような部分につながっている特質なのかもしれないと思う。ふと頭に「No-nonsense」という言葉が浮かんだ。いい意味で「本質的で、誠実さがある」という意味だろうか。おまかせを堪能させていただき、そう感じた。

天本さんがなかなかロンドンに来られない中で、鍵となるのはTaku時代から3年以上にわたってヘッドシェフを務めているJongho Park パク・ジョンホさんだ。すでに台北店で半年ほど手ほどきを受け、準備万端で望む。

天才的なレシピと、長年培ってきた匠、信頼できるチーム。Sushi Amamotoがロンドンで成功するエレメントは、すでに揃い踏みだ。

Sushi Amamoto London
https://www.amamotolondon.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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