世界の一流シェフに開かれたCarouselという国際舞台


食通の街ロンドンで、世界中から毎週トップシェフを迎えてゲストナイトを主宰する特殊なレストランが、ロンドン中心部にある。オープン7年で300人のシェフがその真価を競った場所、Carouselの面白さをレポート。

ロンドンの外食産業の一形態として、シェフが自宅に客を招いてコース料理を振る舞う「サパークラブ」がある。例えば2022年「世界のベストレストラン50」で35位のThe Clove Clubが、元々2010年にサパークラブからスタートしたビジネスであることを考えると、サパークラブはこの10年に渡って若手シェフの試金石の役割を果たしてきたとも言える。

その多くは現在「ポップアップ」とほぼ同義になり、自宅開催にとどまらず多様な進化を遂げている。既存の商業スペースに期間限定で現れるレストランがポップアップと呼ばれるが、外食形態としてはほぼ定着。既存のレストランが定期的にゲストシェフを呼ぶポップアップも人気で、食通イギリス人たちの遊び場となっている。

その進化形としてロンドン中心部に登場した究極の存在が、若手の親族4人で共同経営するCarousel London / カルーセル・ロンドン。2014年の創業だ。コンセプトは、世界の一流シェフをゲストシェフとして招待し、数日間限定のスペシャルな饗宴を約束すること。オープン7年ですでに世界30ヵ国、50を超える都市から約300 名という驚異的な数のトップシェフがカルーセルを訪れ、クリエイティブな食の花を咲かせてきた。

この日のゲストシェフ、シドニー出身のザック・インワルドさん。

カルーセルは現在、シェフたちの国際的なプラットフォームとして定着し、週替わりでゲストシェフを迎え続けている。2021年秋には新居へ移転しグレードアップ。最大150名まで収容できるスタイリッシュなイベント・スペース、30席のプライベート・ダイニングを備えた食のクリエイティブ・ハブに成長している。

これまで迎え入れたゲストシェフには、Niklas Ekstedt(Ekstedt /ストックホルム)、Angie Mar(The Beatrice Inn / ニューヨーク)、Nancy Singleton Hachisu(作家・シェフ / カリフォルニア)、Evgeny Vikentev(Beluga / サンクト・ぺテルブルグ)、棚橋俊夫(精進料理 / 京都)なども含まれ、英国内からはSantiago Lastra(Kol)、Ravinder Bhogal(Jikoni)、Jeremy Chan(Ikoyi)をはじめ、さらに多彩なトップシェフが顔を揃える。

筆者が訪れた日は、東ロンドンで近年カリスマ人気を誇るミシュラン一つ星レストラン、Brat出身のZac Inwaldさんがゲストシェフだった。Bratを率いるTomos Parryさんの下、ヘッドシェフとして活躍した強者である。シドニー出身のザックさんは炎の達人として知られ、この日は魚介と野菜にフォーカスした豪快な直火料理をあの手この手で楽しませてくれた。

牛脂で炙ったオイスターに、ルバーブのピクルスを合わせた一品。
旬の野菜を直火で調理し、フレッシュ・チーズを添えた一品で、野菜の甘さを堪能できる。このほか南米らしいムール貝とアーティチョーク、チョリソーを合わせた煮込み料理も。

ザックさんが若い頃に旅した南アルゼンチンとチリの料理を再構築した7コースには、ワインペアリングも可能。通常、赤身の肉と赤ワインで語られがちな南米料理だが、シェフは「沿岸地方には豊富なシーフードを使った全く異なる料理がある。ぜひ違う南米を味わってほしい」と主旨を説明し、オープンキッチンで作業に入っていく。ワインも大地を感じる軽めのものが揃っていた。

カルーセルで最も注目すべきは、全ての料理がダイニング・ルームで仕上げられ、劇場仕立てであること。近年、ロンドンではシアター型キッチンが何かと人気だが、カルーセルでは週ごとにシェフが変わる特典がある。

ニューヨークで愛された同コンセプトの「シェフズ・クラブ」なき後、カルーセルに課せられた役割は大きい。国際都市ロンドンならではのシェフ層の厚みが、生き残りの鍵となるのだろう。

トラウトとピンクファーポテトのハッシュ、スモーク・バター・ソース。
デザートは2種。こちらは爽やかなイチゴのグリルとヨーグルト・ソース。

Carousel London
https://carousel-london.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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