食の未来が見えるウェブマガジン

店を持たない食の伝道師。ジョナ・レイダーのこと


New Generation Chef from NY

予約待ちは今や6,000人
「料理人」ではない「料理人」、東京にあらわる

 予約の取れない人気店は、マンションの一室? シェフが自宅にゲストを招く「ディナークラブ」や「サパークラブ」は、以前からニューヨークの食のシーンを賑わせてきた。その魅力は、偶然隣り合ったゲストとの一期一会を楽しみながらシェフの演出で料理をいただくという、ソーシャルかつパーソナルな体験。

 このジャンルに伝説を打ち立てたのはジョナ・レイダーだ。2015年、コロンビア大学在学中に寮の部屋で始めたディナークラブ「Pith」の評判がメディアの知るところとなり、経済学専攻の若者が作るコース料理にウェイティングリストが 4,000人にもなったのだ。エコノミストを目指していたレイダーだが、卒業後はゲストシェフのオファーが世界から殺到。 2017年、2019年と日本でも「Pith」を開催し話題を集めた。

 現在はコラムニストとしてフード雑誌に寄稿するほか、CBDを配合した食品を販売する「Alto Essentials」も立ち上げたジョナ。さらには日本でエキサイティングなプロジェクトも進行中というから、活躍の幅は広がっている。もちろん、今でも 「Pith」は健在だ。「至高の料理とは、レストランではなく家で食べるもの」を信条に、マンハッタンの高層アパートで定員 6名のゲストを迎えている。「教師に写真家、政治家、セレブリティ、年齢や職業も異なる人たちがテーブルを囲んでいます」とジョナは語る。メニューは夜毎変わり、「ヒラメのクルドとモリーユ茸のビネグレット」、「メキシカンチリ風味のキャロット&ヘーゼルナッツ」といった皿が登場する。料理学校や名店で修業を積んだ正統派シェフではないが、Do-It-Yourself で料理に挑戦する楽しさを広めることがジョナのゴールだ。「この夢を生業として取り組めるなんて、本当にラッキーですよね」。

 自らのソーシャル・ダイニングのプログラムを「Pith Supper Club」と呼ぶジョナ・レイダー。「Pithって、ハンドメイドのおもてなし(do-it-yourself hospitality)の 練習みたいなもの」と本人も言う通り、手作りながら心を込めて演出する食卓の「つくり方」のちょっとしたコツを体験を通して伝えてくれる。例えば、テーブルを演出する花のセレクトや、ナプキンの整え方など、調理以外の部分でもジョナが目を配るポイントを随所で吸収できるのだ。

 そんなジョナのプログラムを日本の各地域で開催することで、食の生産や食文化の継承という側面で課題を抱えている地域に何らかのソリューションをもたらすことができないか? そう考えた有志たちがジョナを招いて開催した「立食版Pith」の様子を、今回はご覧いただいた。発案は大手広告代理店勤務の明石ももさん。インスタグラムのダイレクトメッセージでジョナ本人に直接打診するところから始まって、このPithが完成。ホタテやサバやニラなど、今回の来日時に訪れた産地で得てきた食材が多用された。例えば「確かに穂紫蘇はエディブルフラワーだ!」というような、使い方なども披露してくれる。

 ジョナは自身のブログでも、鹿児島・福岡・静岡・北海道…という具合に各地を訪れた結果、日本についてこんなふうに表現している。「東京は確かに驚きに満ちた魅力的な街。でも、東京とその外側にある地域との違いを目の当たりにすると、より一層、日本という国への愛を深めることができるんです」。

 ソーシャルダイニングとは、今まで見知らなかった人々とご馳走をともにするという刹那の体験だが、そこで生まれたつながりが消えることはない。ジョナ・レイダーがPithを通じて提示する価値の本質は、食が抱えるさまざまな課題を少しずつ解すのかもしれない。そんな期待を覚えた食卓体験を得られた一夜だった。


text 小松優美 photo 松園多聞

本記事は雑誌料理王国第308号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第308号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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