多文化が共生するアメリカの大都市ニューヨーク。世界の最先端を行くこの街で活動するライター&プロデューサーの小松優美さんが、美食の最新情報をレポート。この日は2021年からダイニングの大規模リニューアルが進む、マンハッタンのミッドタウンの中心に位置する「ロックフェラーセンター」に出かけた。
摩天楼を見渡す展望台や巨大なクリスマスツリーでお馴染みの「ロックフェラーセンター」。6ブロックにまたがる広大な敷地の路面や地下には、レストランやショップが入居した複合施設が形成されているが、それらはオフィスワーカー向けのクイックランチの店か、観光客向けの大味な店が多く、ニューヨーカーにとってそこは決して美食のアドレスではなかった。
しかし、昨年からダイニングの大幅リニューアルが進められ、地元で頭角を現す気鋭のシェフやレストランが次々に出店。ロックフェラーセンターは、今や「どこでディナーをすべきか」と人々の頭を悩ませるホットスポットとなっている。
その先陣を切ったのが、「エステラ」で知られる大人気シェフのイグナシオ・マトスだ。
世界の食材を用いながら、国籍を超えて独自の料理として完成させるスタイルで、同店はニューヨークで一二を争う人気店だ。昨年、そのマトスがヨーロピアンカフェ&バー「ロディ」をこの地に出店したことで、ロックフェラーセンターの変革の予兆となった。
そして、今年に入ってからはフレンチワインのセレクトで知られるビストロ「フレンチェット」が「ル・ロック」を、「世界のベストレストラン50」のうちアメリカの店として最高位にランクインする韓国料理のファインダイニング「アトミックス」のチームが「ナロ」を、女性シェフが率いる人気店「キング」がイタリアンの「ジュピター」を展開。さらに、「アリネア」出身で、「オルムステッド」などブルックリンで複数の飲食店を手掛けるシェフ、グレッグ・バクストロムのマンハッタン初出店も控えている。
ニューヨーカーはもちろん、食を目的にニューヨークを訪れる人にとってはかなりエキサイティングなラインナップだ。
元来、こうした複合施設のダイニングといえばダニエル・ブルーやジャン・ジョルジュ・フォンガリヒテンのような古参シェフを迎えて集客を図ることが多かったが、こちらはレストランシーンの最先端をひた走る旬の面々を集結。過去10年以内に頭角を表したシェフや市内の各エリアで固定客を掴んだインディペンデントな店が中心だ。歴史的な名所でありながら、そのフレッシュな視点の人選センスが素晴らしい。もちろん、誘致に際して寛容なリース契約が提示され、大規模な予算が注ぎ込まれたであろうことは想像に難くないだろう。
ロックフェラーセンター全体では、他にもディスコ風ローラースケート場やレコードショップが登場したり、人気急上昇中のファッションブランドがショップを構えたりと、食以外の側面でも時代の潮流を読みこんだ刷新が進んでいる。かつては「とらや」や「紀伊国屋書店」も出店していた“真面目な”アドレスは、前衛的なディレクションに舵を切っているのだろう。マンハッタンのど真ん中に位置するこの巨大複合施設は、ニューヨークの今を映し出す鏡となっているのだ。
ロックフェラーセンターのダイニングは公式HPをチェック
https://www.rockefellercenter.com/dine/
text:小松 優美 photo:©Rockefeller Center