多文化が共生するアメリカの大都市ニューヨーク。世界の最先端を行くこの街で活動するライター&プロデューサーの小松優美さんが、美食の最新情報をレポート。今年9月、ブルックリンに誕生した日本の食と文化を発信する複合施設「50ノーマン」。そこでニューヨーカーを虜にしているのは“DASHI”だった!?
ニューヨークのシェフや食通の間で“DASHI”は珍しいものではない。例えば、「ル・ベルナルダン」ではホタテにブラウンバター風味のダシを合わせ、「エステラ」ではリコッタチーズのダンプリングを昆布出汁で提供している。とはいえ、ダシを一般家庭で作るという概念はまだまだ根づいてはいない。しかい、そんななかで海を超えて勝負に出た日本の老舗がある。
9月にブルックリンのグリーンポイントに誕生した「50ノーマン」は、日本の食とライフスタイルを発信する複合スペースだ。インダストリアルな広々とした空間に足を踏み入れると、お客を出迎えるのは出汁の香り…? 実はここ、器や生活雑貨を扱う「シボネ」と並び、創業明治四年の豊洲市場水産仲卸「尾粂」の新店舗「DASHI OKUME Brooklyn」も軒を連ねているのだ。
「米国の一般家庭にまだ日本のだし文化が浸透していないからこそ、今回の挑戦を決めました。150年以上プロだけに乾物を卸してきた歴史と目利きで、日本が世界に誇る『だし』と『うま味』の文化を、世界中の一人でも多くの人に伝えていきたいという想いがあります」と、代表の加納史敏氏は語る。
ここの目玉は、特許を取得した「オーダーメイドだしパック」だ。無添加にこだわり厳選した日本産天然原料30種類から好きなものを選び、その場で配合、粉砕、充填をして自分だけの出汁をオーダーできるというもの。焼きあごに羅臼昆布、どんこ椎茸など、ずらりと並んだ素材は日本人でも圧倒されるが、ニューヨーカーにとっては“身近な非日常体験”となるはずだ。
「今回の出店に合わせ、日本では取り扱っていなかった6種のドライベジタブル原料を新たに追加したのは、魚介が苦手な方でも、だしに触れられる入り口になればという想いからです。また、それぞれの原料に含まれるうま味成分のイノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸などを組み合わせることで相乗効果を発揮するのですが、魚介と野菜を組み合わせたさらに奥深いうま味も味わっていただければと思っています」と教えてくれた。
なお、出汁以外にも調味料など日本の食材を販売するほか、イートインスペースでは定食や一品料理を提供する。
「ニューヨーク・タイムズ」紙をはじめとする地元メディアにも掲載され、早速プロの料理人から一般の買い物客まで幅広い層が来店しているという。実際、モダンなスタンド風の店構えに誘われて訪れた界隈の若者が、試飲をしながら出汁のうま味の違いにため息を漏らす光景も見られた。
和食の真髄である出汁の世界に触れ、ニューヨーカーの日本食への造詣はさらに深まっていく。
DASHI OKUME Brooklyn
https://okume.us/
text:小松 優美