プチッ、ジュワー、シャリッ、カリッ――。この「ホタテのセビーチェ」、ひと口の中に多様な食感が存在していて、なんて楽しいひと皿なんだろう!
食感だけではない、酸味や香りも非常に豊か。黄、緑、ピンク色がさわやかで、これからの暖かな季節、ワインといっしょに楽しむには最高のひと皿だ。
この料理を作ったのは、東京・銀座の交詢ビル4階にある、「Cali style ORYOURI YUZAN」の黒部慶一郎シェフ。同店は割烹スタイルで、イノベーティブなカリフォルニア料理を提供している。
黒部さんはNY生まれ。親の仕事の関係で11歳からは日本で暮らしたが、アメリカと日本を行き来しながら料理人のキャリアを形成し、実力を認められた。例えば、日本橋時代の「サンパウ」ではスーシェフを担当。アメリカでは現在「イレブン・マディソン・パーク」を率いるダニエル・フム氏のもとで働き、ドミニク・クレン氏のもとではエグゼクティブ・スーシェフに。「多様な人種や文化の中で育ったので、食に対しても自由な発想で、柔軟に向き合う」のが黒部さんの強みだ。
シェフ 経歴
黒部慶一郎(くろべ・けいいちろう)/1985年、ニューヨーク生まれ。11歳から日本で暮らし、皿洗いから料理の道へ。2005年に再渡米し、アメリカと日本を行き来しながら腕を磨く。日本橋時代の「サンパウ」ではスーシェフを担当。現在「イレブンマディソンパーク」のダニエル・フム氏のもとで働き、三つ星シェフとなったドミニク・クレン氏のもとではエグゼクティブスーシェフを務めた。2021年に帰国、7月に「Cali style ORYOURI YUZAN KEIICHIRO KUROBE」をオープン。
このホタテのセビーチェは、4月3日からスタートする、アメリカの食文化や食材を楽しむフードイベント「TASTE OF AMERICA 2023」の一環で黒部さんが考案。イベント期間の2週間を含め、1ケ月にわたり店で味わうことができる。
さて、「TASTE OF AMERICA」のために考えた料理という事で、このセビーチェにはアメリカの魅力的な食材が使われているのでご紹介しよう。
例えば、太陽の光をたっぷりと浴びて育ったフロリダ産グレープフルーツ、レモン、オレンジ。グレープフルーツやオレンジは、ゴロッとした果肉をセビーチェの具材に。レモンは皮ごと塩漬けにして染み出たエキスを、マリネ液の材料にしている。
「レモン・塩・砂糖を、1対1対3。これはダニエル・フム氏に教わったレシピです」と黒部シェフ。毎月変わるコースの中で、序盤に酸を効かせた魚料理を出していて、塩レモンのエキスはよく使うアイテムだ。
このセビーチェでは柑橘類に、黒部シェフ手づくりのオニオンピクルスやハバネロビネガーも加わって、毛色の異なる酸味が見事なグラデーションを描く。
もう1つ、食感や彩りのアクセントとなっているのが、アメリカ産のピスタチオ。
「乾燥したピスタチオの薄皮をむいて水分を含ませると・・・、ほら!!きれいな緑色が出てくるでしょう」と黒部シェフ。
薄皮をむいたピスタチオはバジルオイルに浸して青い風味をつけ、ナッツの食感を残しつつも少しやわらかく仕上げる。他の具材とよりマッチするように、という黒部シェフの工夫がここにもあった。
「今年のTASTE OF AMERICAのテーマは『ReNEW』。僕にとっての『ReNEW』な出来事は、自分の料理スタイルを見つめなおしたことでした」と黒部さん。
日本やアメリカを行き来しながら、イタリア、フランス、スペイン、ペルーなど様々な国の料理に触れた黒部さん。「今まで触れてきたものを、自分の感性で融合させるのが自分のスタイル」だと改めて確信を持てたそうだ。
「アメリカの料理は、ホットドッグやピザ、ステーキだけではない。様々な国の食文化が混ざり合い共存するのがアメリカ料理でもあるのです。私の料理を通して、お客様に体感してもらいたいですね」。
Cali style ORYORI YUZAN KEIICHIRO KUROBE
104-0061 東京都中央区銀座6丁目8−7 交詢ビル 4階
TEL 03-3289-2050
Lunch(土日祝)11:30~13:30LO
Dinner 17:30~21:00LO
月火休み
TASTE OF AMERICA 2023
アメリカの食を楽しむ、2週間のフードイベント。4/3~4/16にかけて実施中。「Cali style ORYOURI YUZAN KEIICHIRO KUROBE」を含めた約30店舗で、アメリカ食材やワインなどを使った期間限定メニューが楽しめる。
https://tasteofamerica.jp/
text・photo:ナナコ(料理王国編集部) photo:Kohei Watanabe/UN.inc