フレンチ・フライ?いや、ベルジャン・フライ!世界一の輸出量を支えるベルギーのフライドポテト文化


23年3月、ベルギーよりフランドル農産物販売委員会が来日し、東京・丸の内の「ベルジアン ブラッスリー コート アントワープ セントラル」でベルギー産フライドポテトの試食体験会が開催された。

ジャガイモの産地というと、日本では北海道やアメリカのアイダホのような広大な土地をイメージする方が多いだろう。北海道の半分程度、九州とほぼ同じくらいの面積のベルギーという国土の小さな国とジャガイモを結びつけるのは難しいかもしれない。しかし実は、フライドポテトの世界最大の輸出国はベルギーなのだ。そのシェアはカナダ、アメリカの倍以上、2021年には33.3%を記録している(国際貿易センター)。さらに隣国のオランダと合わせると50%を超える。このヨーロッパの中心部のごく限られた地域に何があるのか、見てみよう。

ベルギーがヨーロッパのジャガイモ栽培の中心になっていることには、様々な理由がある。まず前提として、海洋性の穏やかな気候とローム、粘土、砂質が入り混じった肥沃な土壌がジャガイモの栽培に適していることが挙げられる。さらに加工においても、継続的な投資と技術革新により常に最先端のものを取り入れることができており、貯蔵能力の拡大、食品安全性の向上など絶えず改善が行われている。それにより、EUの食品安全基準が急速に厳しくなっている昨今の流れの中においても、何も問題なく対応ができているのだ。

しかし、ベルギーがこれほどのジャガイモ大国である本当の理由は、こうした論理的、科学的なものよりずっと情緒的だ。つまり、端的に言ってベルギー人はフライドポテトが好きなのだ。

ほとんどの家庭には専用のフライヤーが備えられており、街中にはフリットコット(フライドポテト専門のスタンド)が溢れ、地元の人々と観光客とで行列ができている。事実、ベルギー人1人当たりのジャガイモの消費量は日本人の3倍を超え、さらには国の無形文化遺産にも認定されている。また、”french fries”という英語も、第一次世界大戦中にベルギーに拠点を置いたアメリカ兵が、ベルギー軍の公用語がフランス語だったことからそう呼び始めたというのが語源で、フランスという国は直接は関係がなく、あくまでベルギーの食文化なのだ。

それでも人口1165万人(2022年)ほどというベルギーにおいては、生産量がそんな盛んな国内消費さえも上回り、それゆえに輸出大国となっているわけだが、彼らが目指しているのは単純な輸出量、流通量の拡大などではなく、ベルギーの食文化としてのフライドポテトの紹介だ。

今回の体験会でも大学芋のようなアレンジや焼き鳥風チキンサテと一緒にいただくレシピなど、日本の食文化にも寄り添うものとしての紹介もあったが、そこが本質ではない。会に集まったロクサンヌ ドゥ・ビルデルリング駐日ベルギー王国大使、フランドル農産物販売委員会のハートウィグ・モヤールト氏やデモンストレーションを披露してくれたバート・サブロンシェフらからは、黄金色の揚げあがりや気軽なスナックのようなフリットコットでの立食スタイル、ベルギービールとの食べ合わせ、そしてそんな軽食やメインの付け合わせに止まらない、ご馳走の主役にもなり得るものだ、などといったベルギーのフライドポテト文化をこそ知って体験してほしい、という思いが伝わって来る貴重な機会となった。

フランドル農産物販売委員会プロジェクトコーディネーターのハートウィグ・モヤールト氏
様々なアレンジレシピを披露してくれたベルギー人シェフのバート・サブロン氏

text:小林乙彦(料理王国編集部)

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